52話 新選組との出会い
静かに庭の池を眺めているウェンディ。
せき込みながら、煙管を咥えて池の鯉を眺めると、巫女の1人が話しかけた。
「ウェンディさんを訪ねてこられた方が参りました。ウェンディさんの部屋にお通ししております。」
「ありがとうございます。ロッティはいますか?」
「ロッティさんなら、炊事場でお料理を手伝ってくれていますよ。なんでもこの国の料理を覚えたいとのことで。」
「わかりました。ありがとうございます。」
ウェンディは一度お辞儀をしてから、自分が寝泊まりしている部屋に入る。
座布団に座る青い羽織を着た3人の男たちの中には、この間出会った男の姿もあった。
「わざわざこんなところまで、新選組の方々が何をしに来たのかな?あいにく私はかなり体調が悪いんだが。」
ウェンディが少しむすっとした顔でおとこたちの前に座ると、真ん中に座っていた男が険しい顔でウェンディの顔を見てくる。
一瞬何かしたかと思いながらウェンディは煙管を取り出して火をつける。
「お前、黒い血を吐いているというのは本当か?」
黒い血といわれ、少しウェンディが反応したのを男たちは見逃さなかった。
「…では、鬼と戦ったのか?」
「まぁね。戦った時に血を取り込んでしまってね。今この神社の巫女たちがこの病の正体を調べてくれているよ。」
「お前その敵と戦ってどれくらい経った?」
「そうだねぇ。だいたい10日ってところかな。」
煙管をくわえながらウェンディが指折り日にちを数える。
その数字を聞いて、男たちは顔を見合わせて驚きの顔をする。
「どうしたんだ?」
「…俺たち新選組は上様、将軍を警護するため江戸からこの街に来た浪士組が元になって結成された組織だ。この京の街で仲間になった連中は違うが、江戸からこの街に来た古参隊士たちはある目的をもって京の街に来た。その目的は、鬼を、殺すことだ。」
「あんたは、鬼女ってのを知ってるか?」
「…知らないな。そのキジョってのは、どんな奴なんだ?」
「実は俺たちもよくわかっていないんだ。なんせ伝承でしか伝わってなくてるウェンディ。
煙管をくわえて鯉を眺めていると、1人の巫女が歩いてくる。
「ウェンディさん。ウェンディさんを訪ねてこられた方が参りました。ウェンディさんの部屋にいます。」
「ありがとうございます。ロッティはいますか?」
「ロッティさんなら、炊事場でお料理を手伝ってくれていますよ。なんでもこの国の料理を覚えたいとのことで。」
「わかりました。ありがとうございます。」
ウェンディは一度お辞儀をしてから、自分が寝泊まりしている部屋に入る。
座布団に座る青い羽織を着た3人の男たちの中には、この間出会った男の姿もあった。
「わざわざこんなところまで、新選組の方々が何をしに来たのかな?あいにく私はかなり体調が悪いんだが。」
ウェンディが少しむすっとした顔でおとこたちの前に座ると、真ん中に座っていた男が険しい顔でウェンディの顔を見てくる。
一瞬何かしたかと思いながらウェンディは煙管を取り出して火をつける。
「お前、黒い血を吐いているというのは本当か?」
黒い血といわれ、少しウェンディが反応したのを男たちは見逃さなかった。
「…では、鬼と戦ったのか?」
「まぁね。戦った時に血を取り込んでしまってね。今この神社の巫女たちがこの病の正体を調べてくれているよ。」
「お前その敵と戦ってどれくらい経った?」
「そうだねぇ。だいたい10日ってところかな。」
煙管をくわえながらウェンディが指折り日にちを数える。
その数字を聞いて、男たちは顔を見合わせて驚きの顔をする。
「どうしたんだ?」
「…俺たち新選組は上様、将軍を警護するため江戸からこの街に来た浪士組が元になって結成された組織だ。この京の街で仲間になった連中は違うが、江戸からこの街に来た古参隊士たちはある目的をもって京の街に来た。その目的は、鬼を、殺すことだ。」
「あんたは、鬼女ってのを知ってるか?」
「…知らないな。そのキジョってのは、どんな奴なんだ?」
「実は俺たちもよくわかっていないんだ。なんせ伝承でしか伝わってなくて、襲われた人間はそのすべてが鬼女によって殺されてきた。唯一、お前たちを除いてな。」
さっきから、この男たちがウェンディを見る目は、少し不気味だ。
まるで、宿敵をにらむように。
「…残念だけど、私たちはあの鬼とやらの情報は何も持ってないんだ。ただ戦ったというだけで、あとは死にぞこないの病人と何ら変わらないよ。」
「そうか…。まぁそうだと思っていた。もともと、俺たちの目的は少し違うことだったしな。」
「?どういうことだい?」
男たちは、その場を立ち上がって腰に差した刀を抜いてウェンディに向けた。
切っ先を向けられながら、ただ静かに正座を続ける。
「過去の文献で得られた情報にある。鬼に敗れたものは、人ならざる者となる。我々はその言葉から、血を取り込んだ者は、同じく鬼となると考えた。」
「…なるほど。では、いまだ人間である私を、今のうちに殺しておこうということ?」
「話が早くて助かる。できることなら、抵抗せず死んでくれ。」
静かに瞳を閉じると、ウェンディの体内にのこる魔力で衝撃波を放った。
突然の衝撃波に男たちは外の庭に吹き飛ばされた。
魔力をそのまま衝撃波に変換したことで、呪いのせいで減っていたウェンディの魔力は完全に底をついた。
刀掛けにかかっていた刀を片方持ち、ウェンディは庭に出た。
「悪いけど、簡単に殺されるわけにはいかない。相手になろう。」
鞘から刀を抜き、男たちを向いて声を上げた。
「私は、ウェンディ・ラプラス!ガリア出身の剣士だ!」
吹き飛ばされて地面に転がりながらそれを見た男たちは、立ち上がりウェンディの方に向かって声を上げた。
「我は土方歳三!新選組の副長だ!」
「俺は沖田総司!新選組一番隊隊長だ!」
「私は井上源三郎!新選組六番隊隊長だ!」
名乗りを上げた3人は、刀を構えて距離を詰め切りかかってきた。
同時に切りかかってくる刃も。まったくの同時ではない。
最初にあたるであろう土方の刃に自分の刃を横から当て軌道そらし、自分自身の身も右にそらして刃をよける。
土方の刀が井上の刀が当たって地面に突き刺さると、ウェンディは体を翻し下段から刀を切り上げる。
「ぐっ!」
すぐに半身を翻し地面に刺さった切っ先を持ち上げ、ウェンディの剣を防ぐが、受け止めた衝撃で土方は吹き飛ばされた。
振り上げられた刀を身体に寄せ、左側に立っていた沖田に向け、連続で突きを放つ。
初撃と2撃は防いだ沖田だったが、3回目の突きは沖田の肩を貫いた。
「はぁ!」
さすがに3人目は間に合わず後ろに下がって井上の斬撃をよける。
ウェンディ達の切りあう音を聞いて、巫女や神主たちが駆け寄ってきた。
「総司!大丈夫か!?」
「…あぁ、大丈夫だ。あいつ、三弾突きを…。」
その声が聞こえたと同時に、真横から井上の斬撃が入る。
井上の斬撃を一歩下がることでかわすと、視界の端から飛んでくる斬撃に気が付き一歩踏み出して刀を逆手に持ち替え、切っ先を土方の刀にあててはじくが、今度は沖田が突きを打ち込んできた。
逆手に持った刀を、突きを放つ刀の刀身に刃を当てて初撃を放った沖田は腕を突きのばした状態で体勢を崩した。
刀を持ち替え、体勢を崩した沖田を切りつけようとすると、すぐに土方の刃がウェンディに飛ぶ。身を屈めながら柄の頭で土方の腹を突いて、ウェンディは流れるように刃を井上に向け、脇腹を切りつけた。
土方達は膝を付き、ウェンディをにらんだ。
「これが草攻剣か。連携技としては脅威だね。だけど、まだまだだね。こんな体ではあるけど、全力で相手をさせてもらおう。ロッティ!刀、とってくれる?」
「わ、わかった!」
ロッティは部屋の刀掛けから脇差を取ってウェンディの方を向いた。
ウェンディはただまっすぐと土方達の方をにらんでいた。
「ウェンディ!」
思いっきり振りかぶってウェンディの方に投げられた脇差を、顔を向けないまま左手で柄をつかみ、勢いよく振り下ろした。
振り下ろされた遠心力で脇差の鞘はそのまま地面に転がり、ウェンディは両手に握られた刀を一度、柄から切っ先まで見て視線を土方達に戻した。
刀を構えたウェンディをにらむと、沖田が最初の一歩を踏み出し、ウェンディに切っ先を向け、すぐ後ろから土方が次の一撃の構えをしている。
ウェンディの視界に入ってこない井上を気にかけながらも、体を屈めて沖田の攻撃をよけてから、その後ろに控える土方の懐に飛び込んだ。
小柄なウェンディはすんなり土方の懐に飛び込み、土方の胴に左手で握った脇差を突き刺す。
「ぐぅ…!」
回り込んだウェンディを沖田が追うべく後ろを振り向くと、腹部を抑えて膝をつく土方が目に飛びこんできた。
「土方さ……。」
「総司!」
振り向きざまに土方の名を叫んだ瞬間、沖田の体をウェンディの刃二本が切り裂いた。
膝を付き地面に倒れこむ沖田の前で、刀についた血を懐紙で拭ってから後ろで刀を構えた井上の方を振り向いた。
「…こいつらを連れて行くんだ。2人とも歩ける状態じゃない。3人とも負傷してしまえば、自力で帰ることはできないだろう。」
そういうと、ウェンディは打刀を地面に突き刺し地面に転がっていた脇差の鞘を拾い上げ、刀を納めて腰に差した。
井上は少し悩んでから、土方達のほうに駆け寄り、倒れている沖田を引き起こし、土方に肩を貸す。
「…おまえ、何者だ?」
土方の掠れそうな声は、ウェンディに向けられた。
打刀を地面から引き抜き、鞘を拾って刀を納め、土方の方を振り向いた。
「……さっき名乗っただろう。ウェンディ・ラプラス。ガリア出身の剣士であり、しがたい旅人さ。」
「…お前の太刀筋、見事だった。俺はお前ほどの侍を見たことがない。この京の街でも江戸の町でも。全快じゃないお前相手に3人で挑んでもこのザマだ。きっと、全快の時のお前には、今の俺では勝てないんだろうな。」
「なら、次会う時まではもっと強いあんたに会えるってことでいいか?」
ウェンディの一言に、驚きの顔を見せた土方。
そのすぐあとに、笑いが噴出したのか腹を抱えて笑い始めた。
ひとしきり笑ってから、土方がウェンディの方を向いた。
「ああ。次会うまでには、せめてお前に一太刀でも入れられるようになっておこう。それまで、死ぬなよ。」
今まで聞いた中で、一番重く感じた。
井上に連れられて神社を去っていった土方達が見えなくなった瞬間、ウェンディは全身の力が抜けたようにして地面に倒れこんだ。
「ウェンディ!!」
駆け寄ったロッティがウェンディを抱き起すと、ウェンディの体はぐったりとしたまま動かず、ゆっくりと瞼だけが開き、うつろな目が姿を現した。
「…ウェンディ?」
「……つかれたよ。少しの間、そうしていてくれる?ロッティ。」
「…いいよ。ゆっくり休んでね。」
静かにウェンディを抱きかかえたロッティは、ゆっくりと息をするウェンディの頭にやさしく手を置いて軽く撫でた。
周りの巫女や神主たちが部屋や庭の片付けをしている真ん中で、ウェンディはゆっくりと瞼を開け、ぼやける視界の中ロッティの顔を見上げた。
「…ロッティ。ごめんね、迷惑ばかりかけて。こんなところまで私の旅についてきてくれたのに。」
「でも楽しい旅だったよ。だって、私が望んだ旅だったんだもん。」
「ありがとう。でもごめんね。私、ロッティと一緒に欧州には帰れそうにないや。」
「じゃぁ、もう少しこの国に居ようかな。来ることができたんだし帰ることもできるでしょ。」
その言葉を聞いて、ウェンディは少し微笑んでそのまま目を閉ざした。
ウェンディは、そのあと目を開けることはなかった。
「……ウェンディ、今までご苦労さま。さようなら。」




