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51話 稲荷神社と京の町

「ケホッ…ケホッ……!」

 ウェンディは、白い寝巻を着て布団に座り、障子の外の庭を眺めていた。

 せき込んで口に当てていた布を離すと、黒ずんだ血がべっとりとついている。

(…なんか、血が黒くなってきてる気がする……。)

「お加減はいかがですか?」

 縁側を歩いて来た巫女装束を着た少女たち。1人は大川瀬から一緒に来た春だった。

 春とは少し違う巫女服を着た少女が2人、ウェンディの前に腰掛けた。

「…昨日一日、ウェンディさんとロッティさんのお話から我々の資料を調べ、近しい症状のものを探したところ面白いことがわかりました。ウェンディさんが戦ったという化け物は、少女の姿をして刀を使っていたのですね?」

「はい。見た目の年のころは、私やロッティよりも年上って感じだったかな。」

「…おそらくですが、ウェンディさんたちが遭遇したのは、鬼と呼ばれる異形の怪物だと判断しました。ウェンディさんは、この怪物と戦って、腕で貫かれた直後から体調を崩されたのですよね?」

「はい。一撃入れた後腕でおなかを貫かれて…。そういえば、あいつこんな事言ってたな。『血が腕に伝っていた』とかなんとか。」

「血ですか……。鬼の記録は少ないのです。もう少し調べさせていただきます。」

 そういって、巫女たちはウェンディの部屋を後にした。

 しばらくして、ウェンディが煙管を加えているところにロッティが入ってきた。

「ウェンディ!体大丈夫そう?」

「うん。今日はいつもより調子がいいよ。」

「よかった!ねぇこの町、すごい面白いところがいっぱいあるんだよ!」

(あぁ、京の街。私が生きてた頃だと京都は試合とか剣の交流戦で私も何度か来たことがあるけど、この世界の京の街を見てみたい。)

「じゃぁ、少し見て歩いてみる?私もこの町に興味あるんだよね。」

「いく!」

 ウェンディとロッティは着流しに着替えると、刀は部屋の刀掛けにおいて部屋を出た。そのまま廊下を歩き、社務所の外に出ると、神社の大鳥居をくぐった。

 大鳥居の外から歩いて来た巫女がウェンディの顔を見て思わず声をかけてきた。

「あれ?ウェンディさん。今日は歩けるのですね。」

「少し調子がいいから、京の街ってのを見て回ろうと思ってね。」

「では、お気を付けください。」

 2人は並んで京の街を歩き始めた。

 少し歩けば大きな神社や寺、歩いて見れる街並みや茶屋などは、どれも欧州やライアンでは見られなかった建物で、今まで立ち寄った宿場町や街とは雰囲気の違う京の街を楽しみながら歩く。

 茶屋によって抹茶をすするロッティの隣で、ウェンディはゆっくりと煙管を吸い、時折和菓子をほおばるロッティの横顔を眺めていた。

 茶屋を出て少し歩いていると、ウェンディは急に息苦しさを覚え、せき込み始めた。

「ウェンディ?大丈夫?」

「…あぁ。大丈夫だよ。少し端っこで休憩するよ。」

 ひどくせき込んでいたわけではないため、道の隅で木箱に腰掛けた。

 せき込みながら口に布を当てる。少したって一息ついてから、一度溜息をついて木箱から立ち上がる。

「…行こうか。」

 歩き始めてロッティに見えないようにさっきの布に目を落とした。布についていたはずのウェンディが吐き出した血は、明らかに朝よりも黒くなっていた。

「ウェンディ?どうしたの?」

「ん?あ、いやなんでもないよ。」

「んあいってぇ!!」

 ウェンディに気を取られていたロッティが前から歩いてきた浪士にぶつかった。

「なんだてめぇ!前向いて歩きやがれ!」

「何俺らの真ん前歩いてんだ!」

「別にいいじゃん。どうでもいいことで怒らないでよ~。」

 怒鳴りつけてくる男たちに、ロッティが反論してくる。

 口に咥えていた煙管を手に持ち替え、ロッティに罵声を浴びせる男たちを睨むウェンディの目には、ただ敵として映っていた。

 刀も銃も持っていないウェンディだが、煙管一本あれば浪士4人くらい、問題なく倒せる。

 体に隠して、煙管を持つ向きを変えるウェンディだったが、その煙管は振るわれることなく握りしめられる。

「おいお前ら、何をしているんだ?」

 浪士の肩をたたき、4人の周りを明るい青色の羽織を着た侍たちが囲んでいた。

「な!?新選組か!」

「あんまり目立つ行動されるとな、俺たちもあんたらを捕まえなきゃならん。斬られたくなければ、去るんだな。」

「ひぃぃぃぃ~!!」

 浪士たちは、逃げるようにしてウェンディたちの前から去っていった。

 煙管の向きを戻して口にくわえるウェンディを、青色の羽織を着た侍たちの中の1人が見つめていた。

「いやぁ間に合ってよかったよ。危うく、あの浪士たちが死ぬところだった。」

「…なんのことだろう?私たちはこれで失礼するよ。」

 ウェンディが袖口から取り出した布に口を押し当ててせき込むのを見ながら、男たちがウェンディ達を呼び止めた。

「まちな。…あんたら、何者だ?この国の人間じゃないだろう。何しに来た。」

「私たちは、欧州から来た旅人だよ。ひたすらに西を目指して旅をしてきたらここにたどり着いただけさ。この街には羽休めに立ち寄っただけさ。…それ以外、何か聞きたいことはある?」

「…いや十分だ。疑って悪かったな。」

 青色の羽織を着た男たちは振り向いて京の町に消えていった。

 手ぬぐいをしまうと、もう一度煙管を加えてロッティの方に話しかけた。

「そろそろ戻ろうか。いろいろ歩いてたら疲れちゃったよ。」

 ロッティはウェンディの手を取りながら神社に戻った。

 部屋に戻ると、ウェンディは白い寝間着に着替え、そのまま夜になり床に就いた。ロッティは別部屋をあてがわれているため、少し広いこの部屋はウェンディ1人だ。

 ウェンディが布団で寝ていると、ふすまが静かに開き、布団の中にもぞもぞと何かが入ってきた。

「…ロッティ?」

「…ウェンディ、一緒に寝てもいいかな。」

「……いいよ。狭いかもしれないけどそれでも良ければ。」

「野営より全然いいよ。」

 布団に入ってきたロッティは、そのまますぐに寝息を立て始めた。

 入ってきてすぐ寝てしまったロッティに少しあきれながらも、そのまますぐにウェンディも眠りに落ちた。

 最近は夜でもせき込んでしまってあまり眠ることができなかったウェンディだが、この日は朝まですっきり眠ることができた。

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