50話 道中
「ゲホっ!ゲホっ!」
街道の隅で、赤い紋のついた白い羽織を着た巫女と、暗い色に白い扇の紋が入った羽織を着た金髪の少女に支えられ口に手ぬぐいを当ててせき込んでいる少女がいた。
少し落ち着いたころに手ぬぐいを見ると、薄黒い血がついていた。
「…先を、急ごう。」
少し落ち着いてから、手ぬぐいをしまって立ち上がろうとしたウェンディをロッティが止めた。
「待ってウェンディ!少し休もう。ね?」
明らかに顔色が悪いのに動こうとするウェンディの肩をロッティが抑え、近くの岩に座らせた。
座るときに岩に当たって邪魔そうに見えたのか、付き添いの武士である本田が横に来た。
「ウェンディさん、よければ刀をお預かりしようか?」
「あぁありがとう。」
受け取った刀を地面に当たらないようにして抱えるが、思いのほかおもかったようで、一瞬落としそうになる。
息が荒く顔色が悪くても、刀が揺れる音は聞こえたウェンディは、横目で本田の手元を見て少し笑う。
「…思ったより、私の刀は重いでしょう?母の形見でね。落としても構わないよ。鞘も柄も黒とかだし。」
「形見…。」
「さて、もう大丈夫だから行こう。あんまりゆっくりしてると時間がかかる……。」
立ち上がろうとすると、また咳がぶり返し力が抜けた。
口に当てた手ぬぐいは、やはり薄黒く赤に染まっていた。
「ウェンディさん、もう少し歩けば宿場町があります。そこで今日は休みませんか?」
「そうね、そうしよう。ウェンディ、そこまで行こ?」
「……わかった。そこまでで今日はやめておこう。」
神社を出て3日目、全行程の3分の1ほどの距離をすすんだところで宿をとった。
ウェンディの咳は夜中でも時々出て、食事のや歩くときすらも体が重く思うように体が動かない。
次の日、宿を出てさらに細い街道を進んでいると、先頭を歩いていた本田が手を横に伸ばして姿勢を低くした。
探知魔術をしていなかったウェンディとロッティは、すぐに魔術を発動すると先で魔獣と人間がうごめいているのが分かった。
「この先で、魔獣と人間が戦ってるみたいだね。」
「あ、こっち来るみたいだよ。」
その瞬間、狼の魔獣が10体ほどと3人の侍が終われるようにして飛び出してきた。
「た、助けてくれぇ!」
「なんだ!何があったのだ!」
4人の前で魔獣の方を向き直った侍の間から、本田も刀を抜いて向き合った。
後ろでウェンディを守るようにして前に立ったロッティと、その肩を抱いた巫女の横で、どうしようかなぁという顔でウェンディは煙管に火をつけながら魔獣たちを見ていた。
「このあたりに最近出る魔獣だ!荷車を襲われた!」
「…逃げるのも無理そうだな。明石藩徒侍本田吉嗣、推して参る!」
斬りかかった本田の後に続いて、ほかの侍たちも切りかかった。
噛みつく魔物の牙を刃で受け流し、上段から切りかかるが刃が当たる直前に魔獣は避けてしまい、刃がそれる。
そのスキを突かれ魔獣の爪がもろに当たった侍の一人が吹き飛ばされた。
「はぁ!」
一頭の首をはねた本田だったが、体当たりで体勢を崩し膝をついた。横からとびかかってきた魔獣が噛みつこうとしてきた瞬間刃で防ぐが、すぐに魔獣が襲い掛かってくる。しかし、今度は魔獣が噛みついたことで刀が動かせない。
「≪火系統・火の矢≫!」
飛んできた火の矢は本田に襲い掛かっていた魔獣2頭を貫いて倒す。
本田が振り向くと、腕を伸ばしてたロッティが立っていた。
「一応これでも、欧州やライアンでは最強の冒険者って言われてたからね。」
「ロッティさん!」
しかし、それと同時にまた1人が魔獣の牙により倒れた。
(あ~。これは全滅するかな。本田は他よりも腕は立つがあのままではすぐに…。)
「≪火系統・火炎斬≫!」
ウェンディの方に魔獣が回らない様に少し離れたところから援護するロッティの魔術で一応魔獣の数は減っていくが、前衛の侍は牙や爪を防ぐのに精いっぱいになっている。
普段からウェンディと2人だけで戦うロッティは、後方からの援護になれていない。いつもであればウェンディの横や少し後ろから大規模な魔術を使うため、今の立ち位置的に戦いにくいだろう。根本的に全体の位置が悪い。
「……あれじゃ、持たないか。」
ウェンディは両手で刀を覆う袋を手に持つと、勢いよく引いて刀から袋を取った。
左手で刀の鞘を持ち姿勢を低くして地面を蹴った。
巫女はその刹那の出来事に何も声に出せずウェンディの動きを目で追うことしかできなかった。唯一気付けたのは、ウェンディ達の目の前で何の魔術を使うか悩んでいたロッティだけだった。
何も気づかない本田は襲い掛かる魔獣の牙を刀で防ぐが、その横からもう1頭が襲い掛かる。
「しまっ…!」
本田は目で追うも対処しきれない。
目の前に牙が迫った瞬間、魔獣の首だけが本田の顔の真横を通過して飛んでいく。
「……え?」
地面に転がる魔獣の体の少し先を見ると、扇の紋が入った羽織を着て刀を振りぬいた少女がいた。
勢いよく刀を振ったため、刀身には魔獣の血は一滴もついていない。
そのまま刀を左に振りながら近くの魔獣に駆け寄り、左下から右上に刀を振り上げまた1頭魔獣を切り裂く。
「ウェンディさん!」
刀を少し下げてその横にいた魔獣に平突きを突き刺し、勢いよく抜く。
ふと刃を見ると、かなりの量の血がついてるのが見え、刀を振って血を振り落とす。
「ウェンディさん大丈夫なんですか?」
「…そんなに大丈夫じゃないかな。さっさと終わらせるからちょっと待っててね。」
そう言って、ウェンディは残った魔獣に向かって駆け出し下段から振り上げて斬った瞬間すぐに横にいた魔獣の首筋に平突きを突き立てた。
残った2頭の魔獣をウェンディがにらみつけると、すぐに炎の矢が飛んでくる。
振り向くと、ロッティが腕を伸ばしていた。
「さすがに、ウェンディだけかっこつけさせるわけにはいかないからね。」
「…ありがとう。ちょっと、限界だったから……。」
最後まで声を出す前に、ウェンディは口から血を吐き出して膝をつき、そのまま倒れた。
体の調子が悪いのに、剣を振るのはまずかった。
次に目が覚めると、ウェンディはまた知らない天井が目に飛び込んできた。
「あ、起きた?ウェンディ。」
「ウェンディさん…。目が覚めてよかったです……!」
ゆっくり起き上がると、周りにはロッティや巫女、本田がウェンディの顔を覗き込んでいた。
少し息を吐き出したと同時に、巫女が湯呑を差し出してきた。
「薬草を煎じたお茶です。少しでも楽になるかと。」
「ありがとう春さん。」
受け取った湯呑に入った茶色いお茶に口をつける。
少し楽になったと感じると同時に、急な息苦しさからせき込み始める。
布を口に当ててせき込んで、口から布を離すと赤黒い血がついていた。
ウェンディは無言で懐から懐中時計を取り出すと、今の時間を見た。
「…急ごう。すぐにでも、出発したい。」
「いやでも……。」
「なんとなくだけれど、私にはあんまり時間が無いような気がする。」
翌朝、ウェンディたちはすぐに出発した。
宿場町のすぐ横を流れていた川を船で渡り、さらに京の街を目指した。
ウェンディたちが京の街についたのは、その2日後の話だった。
大学の卒論ナウで最近はマジで忙しい日々を送ってます…




