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49話 大川瀬の住吉

 ウェンディが目を覚ますと、そこは見たことのない天井があった。

「…あれ、体が……。」

「ウェンディ!目を覚ましたのね。」

 横を向くと、ロッティがゆっくりと枕元に座った。

 ウェンディは全然体が動かないが、頭だけ動かしてロッティのほうが見た。

「ここは?」

「…あの村から少し離れたところの神社だよ。どうにかここまでウェンディを運んで傷を治してもらったの。あの傷、なんでも呪いってものらしくて上位の神聖魔術を使わないと解除できないんだってさ。」

「神社…?」

「そう。ガリアとかブリタニアでいうところの教会とか神殿に当たるのかな。この国の宗教施設なんだって。」

 全身に力を籠め、上半身を起こそうとするが、体はウェンディの思い通りに動かず、ロッティの力を借りて上半身を起こす。

「…体が動かない。」

「傷の呪いは解除できたんだけど、傷の治癒まではてが回らなかったの。それよりも、その体が動かない原因なんだけどね。」

「化け物が言ってた、血ってやつ?」

「わからないの。ここの人たちでも、よくわからないんだって。」

 障子で隔てられた縁側から、2人分の足音が聞こえてくる。

 誰かと外を見ていると、障子が開かれて紫の袴を着た初老の男性と、白衣(はくえ)緋袴(ひばかま)を着た少女が立っていた。

「お目覚めになりましたかな?この神社の神主を務めております大川瀬の鉄郎と申します。」

 神主と名乗った男性と、巫女服の少女2人はウェンディたちの前に座る。

 次に畳に正座をする少女が、軽く頭を下げて挨拶を始めた。

「お初目にかかりますウェンディ様。住吉の巫女、春と申します。」

「ウェンディの傷の呪いを解いてくれた人だよ。」

「そうだったんだ。巫女様、ありがとうございます。止血もしないまま戦っていたので、どうなるかと思いました。」

「それは我々の台詞です。よくこんな怪我で戦えるものです。しかし、傷口の呪いは解呪できましたが、傷自体の治りが随分と悪いようです。何か、思い当たるものはありませんか?」

 巫女の言葉に、2人とも少し悩む。

 正直なところウェンディは、特に何も思いつかないのだが、ロッティが何かを思い出したかのような顔で巫女の方を向く。

「そういえば、ウェンディが受けた最後の攻撃のあとウェンディが血を吐いてたら、あの人確か自分の血が腕についていたのかとか言ってなかったっけ。」

「あ~そういえば、そんなことも言ってたような気がする。なんかあの時も…。うっ…!」

 話していると、急に胸が苦しくなりウェンディがせき込み始めた。

 口を手で押さえてせき込んでいると、すぐに何かが気管を上る感覚がすると同時に、指の間から血が勢いよく飛んだ。

「ウェンディ!」

「これを!」

 巫女はすぐに懐から布切れを取り出しウェンディの口に当て、優しくウェンディの背中をさする。

 止まらない咳が落ち着き、呼吸が整ってくると、巫女はゆっくりとウェンディを寝かせ、掛け布団をかけた。

「はぁ…はぁ…。……ありがとう。」

「…落ち着いたら、これを飲んでください。薬を煎じたお茶です。」

「…先ほどの続きですが、我々ではこの症状が何を意味しているのか、分かりかねます。…春、本田さんに連絡を取りなさい。あと、伏見の松本様のもとに文を送りこのことを詳しく問い合わせてみなさい。」

「わかりました。すぐに行ってまいります。」

 巫女が立ち去る。

 神主の男は、それを見送ってからウェンディたちの方を向き直った。

「友人に、伏見にある大きな神社の神主がおります。その者に連絡を取り、現状を問い合わせてみますので、しばしお待ちください。」

 そのまま数日が過ぎた。

 その間にも、ウェンディの体調は少しずつ確実に悪くなっていったが、怪我が治るにつれて、布団から起き上がって歩くことはできるようになっていた。

「ウェンディ様、旅に出ることは可能でしょうか?」

「旅?」

 ウェンディとロッティが池で鯉を眺めていると、2人のもとに巫女の春が近づいてきた。

「…京の街の伏見というところにある大きな神社。そこの神主と巫女頭にウェンディ様の状況をお話ししたところ、直接見て症状を確認したいとのことで。」

「それってウェンディでも歩ける距離なのかな。京の街って遠いいの?」

「この時期でしたら、ゆっくり歩いて7日ほどでしょうか。私もともにゆきますし、護衛の侍もついてきます。…ウェンディ様やロッティ様ほどの腕ではないでしょうが、明石でも手練れの武士ですよ。」

 巫女とロッティが話していると、池の岩に腰掛けて鯉を眺めていたウェンディが立ち上がり、巫女の方に近づいた。

「…さっさと行こう。そして、この病気なのか何なのかわからないものをさっさと治して、あの化け物を殺す。負けっぱなしじゃぁ、私の気分が悪い。いや、気分は今でも悪いや。」

 そうしてせき込むウェンディの腰をさすりながら、巫女とロッティは顔を見合わせていた。

 ウェンディが口に当てていた手ぬぐいは、くすんだ赤に染まりそれが吐血であると示していた。

 次の日、ウェンディたちは旅支度をして住吉神社の鳥居の前に立っていた。

「春。しっかりおやり。ウェンディ様、ロッティ様。どうぞ、お気をつけて。」

「はい。お父様、行ってまいります。」

「神主さん、短い間でしたが、お世話になりました。」

「今度はちゃんとお参りに来ますね!」

 神社を後にすると、階段を下った先に刀を腰に差した男が1人立っていた。

 降りてくる女子3人を見上げながら、ウェンディの腰にささった覆いのかぶった二振りの刀を見ながら、巫女に話しかけた。

「お久しぶりです。春さん。」

「本田さん、急にお声かけて申し訳ありません。京までの道、護衛をよろしくお願いいたします。」

「いえいえ。そちらが、文で言っていた海外から来た旅人さんですか?」

「初めまして、私はロッティ。私たちの前衛担当ウェンディが病気で戦えないから、京の街まで、よろしくね。」

「ウェンディだよ。魔物が出ても戦えそうにないから、頼むよ。」

「ウェンディさん、ですね。お話は聞いています。まいりましょう。」

 本田を加えた4人は、明石の大川瀬から京の街に旅立った。

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