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48話 化け物

 瑞穂ノ国に入ってから1か月半。

 ゲルマニアを出て1年と8か月。

 ウェンディたちは美しい白い城を前にして茶屋で団子と茶を楽しんでいた。

 ここは姫路。

 白鷺城のおひざ元で、旅に必要な食料の調達をしてさらに北を目指して旅に出る用意をしていた。

 瑞穂に入ってから大きな魔獣や魔物に遭遇することなくここまで来た2人は、瑞穂に入ったころ聞いた話を思い出していた。

 その話は、交易品交換所で聞いた話だった。

 曰く、この瑞穂ノ国には化け物が住んでいる。見た目は人間の少女だが、その力は人間のそれではない。その化け物は、人間にも魔獣にも魔物の側につくこともなくただ孤立した一匹狼としてこの国をさまよい、魔獣や魔物を襲い、時には人間すらも襲うという。それに対抗するため、この国の兵士である侍は強靭で、ほかの存在もそのように変わっていった結果、魔獣や魔物も同様に強いものしか生き残ることができなかった。

 という話であり、2人ともその化け物に遭遇しないように祈りながら来たが、結局のところ一度も会わなかった。

「ねぇウェンディ、今この国に出るっていう化け物とかいうののこと考えてたでしょ。」

「よくわかるね。読心術でも持ってる?もしくは、心が読める魔術とか。」

「もう2年近く毎日寝起きしてるんだよ?それくらいわかるよ。」

「あたりだよロッティ。じつはずっと気になってたんだよね。もしその化け物に出会ったら、私は、いや私たちは勝てるのかって。」

「あの話って、本当に実在する話なのかな。侍の人たちも確かに強かったけど、魔獣や魔物は見てないからわかんないんだよね。」

 そんな会話があったのは、つい昨日の昼間の話。

 瀬戸内海を離れ内陸を進み小さな村に着くころには、すでに日が暮れ空も夕焼けになっていた。

 村に一歩2人が踏み入った瞬間、そこに漂う匂いに反応した。

 血の匂いだ。

 普通の村の雰囲気ではないことに気づくが、そのまま奥に進んでいく。

 村は道に沿って家が並び、路地にも家が並ぶ形をしており、中央の道の片面は川に面しておりその向こう側に橋が架かり向こう側にも道と家が並んでいる。

 村の中央通りのを進むと、地面に倒れる人や農具や包丁を持って何かをにらみつける農民たち。

 その農民たちがにらむ方を見た瞬間、2人はそれが何なのかすぐに気が付いた。

 首をつかんで人間を持ち上げ、口元を血に染めながら人間をむさぼっている人型の生き物。

 間違いない。噂に聞いた化け物だ。

「…ふぅ。やはり農民というのは肉が固いな。これなら獣を食った方がなんぼかマシじゃな。」

 地面に刀を突きさし荷車に腰掛ける化け物は、つかんでいた人間を投げ捨てると、立ち上がって少し女ものの着物の裾をなおして地面に刺さった刀を抜く。化け物は、黒い長い髪の人間の少女の姿だった。

 農民たちを一瞥する途中で、その後ろに通りかかったウェンディたちを見つけ、目をとめた。

「そこの2人組、この村の人間ではないな?この国のものでもなかろう。…面白い。お前たち、黙ってワシの糧にならぬか?」

 不気味な笑みを浮かべる化け物を目の前にして、ウェンディたちは村民たちの間を前に出る。横を抜けるときには、ロッティは腰の銃を抜いてハンマーを起こしていた。

「すまない。私たちはどっちも、あんたの食料になるわけにはいかないかな。まだ行きたいところも見たい場所もあるから。」

「そうだね。私たちはまだ目的を果たせていないからね。」

「そうか…。ならば殺してから堪能させてもらおう。」

 しっかりと最後まで言ってから、化け物は地面を蹴って一瞬でウェンディの目の前まで近づく。

 右手に握られた刀は下からウェンディの胴をとらえ鋭く振り上げられる。

 化け物の動きに、村民は気づくこともできず、ロッティは目で追うだけで反応することができなかった。しかし、その動きに遅れながら対応うできたウェンディは、とっさに刀を抜いて刃を受け止めようとするが、刃はハバキに当たりながらウェンディを吹き飛ばした。

「ウェンディ!」

 吹き飛ばされたウェンディを追って化け物が襲い掛かるが、地面に足をついて体勢を整えながら襲い掛かる化け物との距離を測り、間合いに入った瞬間居合を放った。

 防御を考えず攻撃しか考えていなかったであろう化け物は、その斬撃をよけられない。はずだった。

 ウェンディの居合に添わせるようにして刃を当ててウェンディの刃の軌道をそらし、直撃ルートから刃をそらした。

 逸れた刃と逸らした刃、2人は同時に刀を振り下ろしてお互いの首元めがけるが、お互いの刃で防がれた。

「…お前、案外やるな。」

「それはどうも。人間相手に化け物は随分と手加減するのだね。私でも受け止められるなんて驚きだ。」

 ウェンディと化け物のそこまでの戦いを見て、自分が何もできないとわかっているロッティは、左手の銃をしまい、右手の銃を握りなおした。

 しかし、ウェンディと化け物が一体何をしたのか理解ができない村民たちは、わちゃわちゃと化け物に近づいてきた。

「ばっ…!近づくな…!」

 ウェンディが声を上げるとほぼ同時に、化け物が刀を押しのける。

 体勢を崩したウェンディが、体を左にひねって右足でその衝撃すべてを受け流してすぐに顔を上げると、周りの村民たちの体からは血しぶきが上がっていた。

 化け物の姿が見えず振り向くと、刀を大きく振りぬいて村民を切り裂いた化け物相手に、銃を両手で握りすでに魔術を付与したロッティが化け物を睨んでいた。

「ロッティ!」

 化け物がロッティをとらえたと同時に、ウェンディがロッティと化け物の間に飛び込んだ。

 ウェンディが飛び込む直前に放たれたロッティの弾丸はウェンディの顔をかすめて化け物の方にめり込んだ。

 直後にウェンディがロッティを抱きしめると同時に、化け物の刃がウェンディの背中を切り裂いた。

「…ウェンディ?ウェンディ!」

 声一つも上げずにロッティを力強く抱きしめるウェンディたちの前で、地面に刀を突きさし自身の左肩を抑える化け物は、次の時には弾丸が破裂して左腕が吹き飛んだ。

「…こざかしい。これでは食事どころではないな。」

 おぼつかない足取りで吹き飛んだ左腕を拾い上げる。

「ウェンディ!ウェンディ!!」

 ロッティにもたれかかり大量の血を流すウェンディを抱え、ロッティが叫んでいる。

 ウェンディはするっとロッティの肩に手を置き、ゆっくり体を起こしてロッティに微笑んだ。

「…大丈夫だよ、ロッティ。」

「待って!≪神聖魔術・治癒≫!」

 すぐにロッティが治癒魔術をかけて傷口の止血をするが、傷がふさがることはない。

 どれだけ治癒魔術をかけても、ウェンディの傷はふさがらない。

「なんで…!なんでふさがらないの!」

「妖刀で斬られた傷だ。そんな簡単にふさがるかいな。」

「妖刀……?」

「ワシの刀は、少し特殊でな。ワシの一族とともに何百年も血を吸い肉を食らってきた刀じゃ。」

 その話の中でも、ウェンディはふらつきながら両手の刀を構える。

 息を荒げながらも、まっすぐと化け物をにらむまなざしは、変わらないままだった。

 化け物はちぎれた左腕を肩から伸びた腕に近づける。周囲に飛び散っていた村民やウェンディに化け物の血が傷口に集まり、修復していく。

「さて、続きをしようか。ウェンディだったか?お前、ワシを倒して逃げたいんだろう?」

「…さっさと終わらせよう。私は、あんまり長くは持たなそうなんだ。」

 ウェンディが言い終わると同時に、化け物の刃が目の前まで飛んでくる。

 とっさに刀を交差させて刃を受け止め、脇差の角度をずらして化け物の刀をはじいて刀で化け物の首元を狙う。

 ウェンディの間合いに入っていた化け物も、すぐに後ろに避けようとするが、刃先から逃げきれず、首筋を刃が切り裂いた。

 しかし、化け物は止まることなく刀を振り上げ、ウェンディの防御は間に合わず胴を斬られ、頭上に持ち上がった化け物の刀のツバに柄をぶつけて振り下ろされるのを防ぎながら、脇差を化け物の腹に突き刺した。

「…お前、ワシを殺せる人間かもな。」

「…今、私はお前に殺されそうだよ。」

「で、お前は脇差を抜いてはくれないのか?」

「抜いたら、お前切りかかってくるだろ?」

 その瞬間、ウェンディに体に衝撃が走った。

 ウェンディが視線を落とすと、化け物の左腕がウェンディの体に突き刺さっていた。

「刀が使えずとも、人間はこれほどにもろいものだ。刀がなくとも貫ける。」

 一瞬何が起きたのか理解できなかったウェンディだが、突然吐き気を催し、口から血が噴き出した。

 体から力が抜け始め両手の刀から手が離れそうになりながらも、ウェンディは全身に力を込めて立ち続ける。

「ほう…。気合は十分のようだな。」

「……ここで倒れれば、次は、ロッティが襲われるから……。自分の、愛した人くらいは、自分が守らなければ、剣の道をすすむ者として、手放してはいけない、矜持だと思う……。」

「そうか。」

 化け物は、ゆっくりと左腕を抜き、右手の刀を後ろに下げた。

「お前の武士道精神に免じ、今日は引こう。」

 ウェンディがふらふらとしながらも化け物をにらむ前で、化け物はゆっくりと刀を鞘に納めた。

 化け物が刀を腰の帯に差すと、ウェンディは急に体がこわばり、一気に大量の血を吐き出しその場で膝をついて倒れこむ。

「?あぁ、私の血が腕につたっていたのか。それでは、もう長くは持つまい。」

「……どういう、ことだ…!」

「もう会うことはないだろう。ウェンディと言ったな。そなたの名は忘れない。今まで会った中で、最も強き侍よ。」

 ウェンディの薄れゆく意識の中で最後に見たものは、立ち去り小さくなっていく化け物の後ろ姿だった。

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