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47話 船島の決闘

 ゲルマニアを出て1年と7か月。

 ウェンディたちは瑞穂ノ国に到着した。

 夜の街道で藩士を助け、薩摩藩への上納金を守ったことで、城へ案内されていた。

「こん度は、ほんのこてあいがともしゃげもした。ほんのこて助かった。」

 訛りのある瑞穂語でお礼を言って、大名と名乗った男は人間ではなかった。

 小柄な体格に大きな筋肉。

 ドワーフだ。

 それまでドワーフといえばと思っていたことと違うことがあるとすれば、思っていたよりも体格は大きく、耳もとがってはいなかった。それに毛深くもない。

「忘れちょったわ。あたいは、島津光貴ち申します。よろしゅうたのみあげもす。」

「よろしく。私はウェンディ、こっちはロッティだ。」

「ん?聞いちょった話では、少し瑞穂語が苦手ちゅう話やったが、話せたと?」

「ここ数日で少し練習できたからね。」

「私は、まだ少ししかできないです。」

 ここは瑞穂ノ国の中でも南に位置する薩摩。海の向こうのウルマ王国と交易をおこなっている唯一の藩だ。

 出された茶に口をつけ、久しぶりの緑茶にウェンディが感動していると、島津は2人をまじまじと見てから話しかけてきた。

「わいどん、どっから来たんじゃ?こんあたりん国出身じゃなかじゃろ。髪ん色も顔も、明らかにこん国ん出身じゃなか。」

「私たちは旅人だ。欧州、海の向こうの大陸のさらに向こうから来た。母の形見であるこの刀を創った国を探してここに来た。」

「わたしは、ウェンディの旅に、ついてきただけなの。世界を、見たかったから。」

「なっほど。そいでこん国に来たんか。そん刀、見せてもろうてもよかろかぃ?」

「どうぞ。」

 腰に差していた刀を差しだすと、島津は受け取った刀を抜いて、刃を睨みつけた。

 しばらく見てから目釘を抜いて、刃を抜いて銘を見る。

「ほぉわっぜ使い込まれた瑞穂刀じゃな。五月雨釛堤(さみだれかねさだ)、釛堤とは現在中部ん美濃に伝わっ流派じゃなあ。五月雨はそん先祖、二百年ほど前まで活躍しちょった刀工じゃな。」

「なるほど、ではその美濃という場所に行けば、この刀を打った人の子孫がいるということかな。」

「じゃっど。にしてんこん刀、わっぜ消耗しちょっな。気を付けた方がよかち思うど。」

 この国の地名は、日本とそう大差なくてよかった。

「部下を助けてくれた礼じゃ。通行証を発行しもんそ。」

「ありがとうございます。」

「あた方ん強さはわかっちょりますどん、気を付けて行かれや。」

 通行手形を受け取ると鶴丸城を後にして、受け取った報奨金を確認する。受け取るときにこの国でのこの金の単位を教えてもらったため、それなりに理解はできている。

「ウェンディ、もう、この国のコトバ理解できたの?」

「うん。それなりにはわかったよ。理解してみるとなかなかどうして表現方法の多い言語だよ。統一語に比べてもいろんなものの表現の幅が広いし、何よりも例える言葉がおおい。」

「なるほど。練習、教えてね!」

「もちろんいいよ。じゃぁ宿でも行こうか。あぁあと、練習に付き合ってねが正解ね。」

 1週間後、ウェンディ達は九州の北端、門司の港に立っていた。

 薩摩で数着の馬乗袴や紬といった着物を調達し、2人が着るための羽織も併せて調達した。紋を入れるかと聞かれ、ウェンディが少し悩んでから暗い色の羽織に白く小さな扇の紋を注文し、その日のうちにできた。

 着物を着た2人でも、顔立ちや髪の色ですぐにこの国の人間ではないことがすぐにわかるようで、町人はちらちらとみられている。

「ねぇウェンディ、この国のあとはどこへ行くの?」

 わくわくしたような、好奇心をうかがわせる瞳でロッティが問いかけてきた。

「そうだなぁ。とりあえず、この刀を作った人の子孫に会うまでは、この国にいるかなぁ。そのあとは、とりあえず大陸かなぁ。大陸に渡ってそのまま西に進もうかと思ってるよ。」

「大陸の西って、どこに続いてるのかな。ブリタニアでも聞いたことないけど、どうなんだろうね。」

「気になるでしょ?大陸の西。」

「大陸の国も知らないし、気になる!さらに西を目指そう!あ、その前にこの国でウェンディの刀だったね。」

 港から船に乗って海峡を渡ると、海を渡った先で宿をとった。

 ロッティは町中を散策してくると別行動をすることになった。

 少しウェンディは悩んで、もう一度港に行った。この港の近くには、船島があると知っていたから。

「すまない、船島に行きたいんだが、船を出してくれないだろうか。」

 港にいた小さい船の船頭に頼むと、快く承諾してくれた。

 船に乗って港を出ると、船頭が話しかけてきた。

「あんた、船島なんかになんの用だ?あそこは何もない岩山だぞ。」

「ちょっとね。一度は行ってみたかったんだ。まぁ何も言わず送り届けておくれ。お礼はしたじゃないか。」

 船島に到着すると、ウェンディが下りてすぐに船頭は船を出した。

「しばらくしたら迎えにくるぜ。」

「ああ頼む。満足したらここで待っているよ。」

 大きな岩山の上に木々が生えてる島は、別の名前を巌流島。元の世界では宮本武蔵と佐々木小次郎が決闘をしたといわれている島だ。

 今の時代が巌流島の戦いと比較して前後どれくらいの年数があるのか、またこの世界に宮本武蔵と佐々木小次郎がいるのかもわからない。

 少し島を散策するだけですぐに一周を終えてしまう。

 岩山を見上げていると、後ろから気配を感じ、振り向くと船が近づいてくるのが見えた。

 乗ってきた船が戻ってきたのかと思ったら、どう見ても2人乗っている。

 船を降りて歩いてくる人は、背中に背負った長めの刀を持った歩み寄ってくる。

「貴殿、宮本の使いの者か?」

「宮本?すまん知らないな。私は偶然通りかかった旅人でね。」

「それならよかった。貴殿が宮本の寄越した代理なら、私が刀を抜く暇もなく首を切り落とされていただろう。私や宮本よりも、強い剣士だ。」

「見ただけでわかるのか?」

「どれほど強いかはわからずとも、私よりも数段強いことは気配でわかる。気配の鋭さも今まで感じたことないものだ。すさまじい。」

 さっきから宮本と呼ばれているのは、おそらく宮本武蔵の事なのだろう。そして、この島で宮本武蔵を待っているのなら、この男は佐々木小次郎その人なのだろう。

 歴史的に実在したと言われてきた男も、その記録はほとんど残っていない。

 どこで生れ、どこで育ち誰に師事したのかもわかっていない。この男が背負っている大きな刀も、どこの刀なのかすら明らかになっていない。

 この刀の銘を知りたいと思いつつも、そんな無粋な事はできずただ静かに海を見つめていると、もう一隻の船が近づいてきた。

 今度こそ船が戻ってきたのかと思ったら、違った。

 岩山で見えないところに船が留まると、岩の陰から数人の男たちが歩いてきた。

「待たせたな、佐々木。」

「いや待ってはおらん。時間通りだ。その者たちは誰だ?」

「うちの弟子たちだ。見届け人になると聞かなくてな。ところで、そこの嬢ちゃん、何者だ?」

「通りすがりの旅人らしい。私が来るよりも先にこの島にいた。」

「ならちょうどいい。あんた、俺たちの立会人になってくれねぇか?うちの弟子たちでもいいんだが、こいつらは俺の門下生だから、公平とは言えねぇんだ。」

 2人ともこっちをみてくる。

「いいだろう。しかしいいのかい?私は外国人だぞ。」

「私は構わん。外国の人間だろうと、剣の腕はどの国でも変わらん。」

「俺もだ。強い者はどこの人間だろうと変わらん。」

「…そろそろ始めよう。抜け、宮本武蔵。」

「お前もだ、佐々木小次郎!」

 木刀を構えた宮本と背中の太刀を抜いた佐々木。

 佐々木と宮本は刃と木刀をぶつけ合う。

 上段へ振り上げられた佐々木の刃はそのまま腰を引き向きを変えないまま高さだけを変え、佐々木の頭の横で構え、宮本につき放たれる。

 木刀で太刀を払いながら勢いよく振り下ろされる宮本の刀も、佐々木は紙一重でよけ下段から刃を切り上げる攻撃に出るが、木刀の柄で刃を止める。

(なるほど、巌流というやつはこういう流派だったのか。宮本の二天一流は前の世界でも使い手がいたけど、巌流は伝えられなかったし。でもこの世界の巌流が私のいた世界の巌流と同じかわからないんだよなぁ。)

 少し考え事をしていると、宮本の木刀が佐々木の刀のハバキにぶつかりはじかれる音が響いた。

 下に流された刃の切っ先を、少し上にあげて、宮本の腹を貫通する。

 表情を変えない佐々木の上で、宮本が木刀を振り上げていた。

「…お前なら、ここで突いてくると思ったぜ。」

 それと同時に、木刀を振り下ろして佐々木の頭をカチ割った。

 地面に倒れ込むと同時に、宮本は腹に突き刺さった刀を抜いて地面に捨てた。

「ぐっ…!」

 傷の痛みで宮本が何歩か後ろに下がってから地面に座り込んだ。

 宮本が座り込んだ瞬間、目の前で佐々木が死んだのが分かった。視覚的なものではない。感覚として、目の前で決闘に負けたひとりの男が死んだ。

 ウェンディが2人の間に歩いていくと、宮本の弟子たちが駆け寄ってくる。

 宮本の所まで来たと思うと、宮本の横を走り抜けて佐々木の方に駆け寄ってくる。

 何かと思ったら、弟子たちは腰の木刀を抜いた。

(…まさか!)

 地面を蹴って一気に佐々木のところに駆け寄ると、弟子たちは木刀を振り上げて佐々木に振り下ろした。

「でやぁぁー!!」

 弟子の振り下ろす木刀の下に潜り込むと、ウェンディは両方の刀を抜き、木刀を受け止めた。

 受け止められた4本の木刀を、顔色一つ変えずに受け止めたウェンディは、一度宮本のほうを見る。血は流れているが、致命傷とまではいかないようで、半身を起こして脂汗をかいている。

「お前たちは、真っ先に師匠を助けるのが最善じゃないのか?お前たちの師匠は、今もあそこで虫の息なんじゃないのか?」

 弟子たちは、それを聞いて互いに顔を見合わせると、一番の年長者らしい男が最初に木刀を引いた。

 それを見たほかの弟子たちも、おずおずと木刀を引き、腰に通すとそのまま宮本のところに駆け寄った。

 ウェンディは刀を鞘に戻すと、佐々木が息をしているか確認し、息がないことを確認する。

 息はすでに無いようだった。

 懐紙で佐々木の刀の血をぬぐい、佐々木の腰の鞘に刀をしまった。

「…この決闘、立会人であるウェンディ・ラプラスの判断により宮本武蔵、そなたの勝ちと判断した。異議はあるか?」

「…俺にはない。弟子たちにも、何も言わせん。」

「では、私は去ろう。最後に、素晴らしい剣だった。宮本武蔵、佐々木小次郎。あなた方の剣技、私では追いつくことのできない、極地だ。」

「へっ。ありがとよ。あんた、旅人なんだってな。あんたの旅に幸あることを、願ってるぜ。」

 ウェンディはそのまま、砂浜で待っていた船頭の船に乗り込んで、船島を後にした。

「あんた、あの島で何してたんだ?仲間が何人かお侍さんを船島に運んだって噂してたけど。」

「さぁね。私は知らないな。さっさと戻ってくれるかな。少し、船酔いしたみたいなんだ。」

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