44話 フォルモサ
ゲルマニアを出て1年と半年ちょっと。
ウェンディ達はライアンを出た大型の外輪船の上にいた。
今は風も吹いているため、外輪を止めて帆を張って帆走している。
「ウェンディ~。どこ~?」
ライアンの軍人たちがいそいそと動いている中、メイド服姿の少女が甲板を歩いていた。
ロッティだ。
本名をシャーロット・スチュワート。ブリタニア出身の魔術師であり、冒険者。
甲板を歩いていると、へりに刀や銃に上着がおいてあった。上を見上げると、ヤードにぶら下がり懸垂をしている髪を束ねた少女の姿があった。
ウェンディだ。
本名をウェンディ・ラプラス。ガリア生まれゲルマニア育ちの剣士であり、冒険者。
「ウェンディ~!こんなところにいたの~?」
ロッティが声をかけると、それに気付いたのかウェンディは手を放して甲板に降りてくる。
へりにかけてあったタオルをロッティが差し出し、ウェンディがそれを受け取って汗を拭く。
「ありがとうロッティ。探してたの?」
「まぁね。もうライアンを出て2週間でしょ?もうすぐホクレア王国だし、ちょっと楽しみで。もしかしたらウェンディはその先の事しか見てないかもしれないけど…。だからこの船に乗ってから毎日トレーニングしてるんだよね。」
「いや?ホクレアも楽しみだよ。とはいえ、ライアンでは自分の無力さとか未熟さを痛感したからね。でも、私はトレーニングしているつもりはないよ。訓練もしていない。いつだって真剣勝負をしなきゃ、自分をたかめることなんてできないから。」
海を眺めながら風を受けてなびく髪の向こうで、ウェンディがつぶやくようにロッティに語る。
ロッティもその横に立つと、ウェンディの方を向いた。
「ホクレアが見えてきたぞー!!」
マストの上で見張りをしていた軍人が下に向かって叫んだ。
どうやら陸地が見えてきたようだ。
「ウェンディ!ついたよ!」
「とはいえ、次の船が見つかれば数日で旅立つけどね。」
船が港に着くと、木でできた桟橋を渡って小さな港町に入り、船の当てを探した。
冒険者ギルドも進出していなくライアンと条約を結んでいるだけでほとんど魔物や魔獣が出ないこの島に、冒険者も来ない。
しばらく2人で探し回って、交易船がさらに西に向かってることを知り、その交易船の出航まで数日滞在することにした。
「ホクレアってすごいね。暖かくて過ごしやすい。」
「私には少し暑いかなぁ…。」
ロッティとウェンディが島のレストランに入り、とりあえず適当に郷土料理っぽいものを注文して、2人で食べることにした。
「ねぇ。この国で普通の武器を持ってるのって私たちだけだよね。他の戦士っぽい人たちはみんなオールとかばっかり。」
「むしろ、この国では私やライアン軍人の武器が異常なんだよ。この国で出る魔獣には、あの装備で十分弾だろうね。じゃなければ、あの交易船とかライアンからの連絡船に武器が積まれてる。」
「それもそうだね。」
「はいお待ちどうさま!マヒマヒとガーリックシュリンプ、あとロコモコね!」
店員が持ってきた食事を、2人で半分ずつに分けるが意外と量が多く、ロッティよりも食べられるウェンディが残りを平らげた。
その日は船旅の後の陸地のベットだったため、すぐに2人とも眠りに落ちた。
冒険者ギルドが無いため依頼をして時間をつぶすこともできず海にも魔物や魔獣がいないせいでほとんどすることもなく、島民たちの仕事を手伝いながら数日を過ごし、すぐに西へ向かう交易船の出航日になった。
この小さな島の王国から出る交易船だからそこまで大きくない船だと思っていたが、桟橋に停まっていたのは、立派なクリッパーだった。
積める荷物の量よりも速度を取った結果細長くマストの増えた形が特徴のクリッパーは、確か最新式の帆船だったはずだ。おそらくライアンとの交易品としてきたのだろう。
船長に話をつけて船室に案内されると、二段ベッドのと机が1つだけおかれた簡素な部屋だった。
「いいんじゃない?なかなか居心地は良さそう。」
「狭い方がいいよね。」
「何日くらいだったっけ。」
「キールンまで3週間くらいだったかな。私の目的地である瑞穗ノ国はそこの近くだと思うんだけど。」
船はしばらくして帆を張って港を出た。
航海中は何か所かの島によって交易品の取引や食料の調達をしながら目的地を目指して海を突き進む。
海の魔獣からウェンディ達が交易船を守り、時折魔獣を倒して臨時の祭りをしていた航海も、気が付くころには20日を超え、キールンに入港すると同時に幕を閉じた。
「見えてきたね。キールン。」
「長かったねここまでの航海。」
ウェンディ達が船首で陸地を見ていると、後ろから初老の男が近づいてきた。
「君たちのおかげで、この航海はいつも以上に安全にここまでこれたよ。ありがとう。」
「船長。私たちもここまで連れてきてくれて感謝しているよ。」
「私たちだけじゃここまでこれなかったからね。」
「我々の交易船がこの国まで足を延ばすことはほとんどない。君たちは、非常に運がよかった。君たちの目指していると言っていた瑞穂ノ国だが、ここから少し北上したところにある大きな島国だ。向こうの方向にホクレアと同じか少し小さいくらいの国がある。そこを経由して北上すれば瑞穂ノ国に入れるはずだ。」
海のかなたの方向を指さしながら、船長はいろんなことを教えてくれた。
乗員たちに見送られながら船を降りると、街の中を散策してみた。
小高い山を登りきると、小さい広場のような公園に出た。
「何もないね。ここ。」
「そうだね…。」
ウェンディの前の世界では、確かこの都市の公園にある観音像が有名だったはずだ。
周りを見渡してもただの広場しかない場を後にして、瑞穂ノ国との中間にあるウルマ王国に向かう船が発着するスーアオチンに向かう乗合馬車に乗り込んだ。
夕方、スーアオチンに到着すると、そのままウルマ王国に向かう船の目途をつけてから宿を探し、食事にした。
「お待たせ~。まずは|黄酒≪ほあんちゅう≫と|白酒≪ぱいちゅう≫ね。食事はもう少し待ってくださいね。」
「ありがとう。じゃぁ、乾杯でもしようか。」
「そうね。目的地の目前までこれた。やったねウェンディ!じゃぁまずは黄酒から。」
2人は黄酒のグラスを軽く当てて、酒を口に運んだ。
少し口に含んでからの見込み、2人とも少し表情をゆがめた。
「…結構渋いお酒だね。」
「でも結構すっきりしてるね。これはこれで好きかも。」
「はいお待ちどうさん!タンツー麺と炒めビーフンね!あとルーローハン!ごゆっくり~。」
「あ、この白酒結構強いかも。ライアンで飲んだウィスキーよりもきついよこれ。」
酒を飲みながら食事を食べていく。
10年ぶりの日本米に近い米に感動しながら、フォルモサの料理を堪能した。
宿に向かう道すがら、すれ違うフォルモサの警軍の武装をちらちらと見てみる。
「ねぇ、ここの人の剣ってウェンディのに形似てない?」
「う~ん似てると言えば似てるけど、あれは違うものだよ。作り方が違うんだ。私のは鍛造と言って焼いて叩いて凝縮させて最後に焼きを入れてそのあと研ぐ手法が使われてるんだよ。逆にあの剣は鋳造と言って型に溶かした金属を流し込んで作るの。」
「へ~。全然違うんだね。」
「要はコンセプトの違いかな。一方は強度を持たせてより鋭利に作りやすいかわりに曲がらずに最終的には折れる。一方は曲がるしそこまで鋭利ではないけど溶かしてもう一度剣にすることが出来る。確実に相手を殺す能力が欲しいか、打ち合って曲がってもすぐ違う剣に変えられる手軽さがほしいか。それぞれの思想の違いだね。」
宿の部屋に入ると、ふとさっき自分で言ったことをおもいだし、刀を鞘から抜いて刃の手入れを始めた。
砥石があるわけでもないため、少し丸くなった刃を研ぐことはできないが、とりあえず汚れを落としたり磨くことはできる。
角部屋のウェンディ達の部屋には窓が2つあり、ウェンディが窓際で刃を磨いていると、向こうの窓際ではロッティが銃の分解整備をしている。
静かな部屋でカチャカチャと金属音が響きながら、窓からは海の波の音が聞こえていた。




