43話 一方そのころ
「旦那様、お嬢様の事なのですが…。」
太った執事が執務室で書類に目を通しサインを書いている公爵に話しかけた。
「なんの話だ?マリーが何か言ってきたのか?」
「いえ、ウェンディ様についてです。」
「見つかったのか?」
「いえ、国内と周辺の同盟国に捜索の手を広げましたが、見つかりませんでした。申し訳ありませんが、お嬢様はもう…。」
執事が言いにくそうにしているが、公爵は窓の前に移動して景色を眺め始める。
ウェンディが出て行ってからもう1年半以上前。通常の貴族令嬢ならば、もうどこかで死んでいるかもしくは売り飛ばされたと考えてもおかしくない。
しかし、ウェンディはガリアの英雄が生んだ子供であり、家を出る直前に大型の魔物を単独討伐した。
公爵がぼーっと考え事をしていると、執事がサイドテーブルに置かれた新聞に目を落とした。
「おや、冒険者がまた活躍ですか。新大陸の独立国家の姫君を盗賊から救出とは。しかも偶然近隣の町に居合わせたミスリルランクの冒険者が2人とも居合わせたとは運がよかったですな。」
丸っこい見た目の執事が持っている新聞を見た公爵は、ふと数か月前に突如現れた強力な冒険者の2人組の事を思い出す。
突然現れた史上初のミスリルランク冒険者。自分の縄張りを持たずに世界中を飛び回り世界中で人間や魔族関係なく襲う危険な魔獣であるブラッグドラゴンからの強襲にも臆さず片腕を斬り飛ばして撃退や複数回の魔獣集団討伐で功績を積んでランクアップを果たした天才2人組。
「なんでしたっけね。1人はブリタニア出身の魔術師でもう1人はガリア出身の剣士でしたね。」
いくら一国の姫を救った冒険者の名前でも、ライアンの端から太洋を越えて欧州の国まで伝わるには少し時間がかかる。
「おや、もう冒険者の写真が掲載されておりますな。今回の事件は大事だっただけに冒険者ギルドも情報を早く流したのでしょう。」
執事が表面に表示されていた姫たちの写真を見ていると、裏面の写真が公爵の目に入った。しかし、公爵の目に飛び込んできた写真はとても見覚えのある人物だった。
「な、ウェンディ!?」
公爵が新聞を取り上げて執事の見ていた面の裏側を見る。
何が起こっていたのかわからない執事も、公爵の後ろから新聞を覗き込むと、ツーショットで写る少女2人うち1人のには非常に見覚えがあった。
「…姫を救出し、盗賊団を壊滅させた冒険者の名前は、ウェンディ・ラプラスとシャーロット・スチュワート。同時にミスリルランクに到達し欧州から旅をしてここまで来た2人組。」
「なんということだ。ウェンディは、自分の出生の秘密を知ったのか…。」
「旦那様、お嬢様のお名前ですが、ハイゼンベルグの名ではなくガリアのソフィ・ラプラスの名を名乗るとは…。英雄のゲン担ぎでしょうか。」
「いや、ラプラスはウェンディの本名だ。ガリアでその事を知ったのだろう。…おい、この話は他言無用だぞ。」
「……かしこまりました。」
執事はそのまま部屋を出ていった。
新聞を持ったままソファに倒れるように座ると、公爵はそのまま新聞を見つめ続けた。
「…まさか、こんなところにいるとは……。」




