40話 予感
翌朝、2人の部屋の窓にウェンディがシミーズ姿で腰かけて煙管を咥えていた。今日は珍しくロッティはまだ眠っている。昨日はウェンディよりも飲んでいたため、その影響だろう。
「ロッティ、そろそろ起きないかい?例の令嬢の所に行かなきゃいけないんだし。」
「う~ん。もう少し~。」
コーヒーの入ったマグカップを手に持ちながら煙管を咥えていたが、ロッティが起き上がってきてウェンディの前に座った。
「コーヒー飲む?」
「…飲む。」
ポットからマグカップにコーヒーを注いでロッティの前に置く。
ロッティの頭が目覚めるまでしばらく待ってから服を着替えて宿を出て中心街の宿に移動した。昨日会ったジャンヌの主であるアンリエッタに会いに行くためだ。
中は2人が泊っている宿よりも少しきれいで高そうな内装だ。
宿の従業員に話を伝えると、少し経ってジャンヌが階段を下りてきて、ウェンディ達を連れて宿の3階にあるアンリエッタの部屋に案内した。
「お嬢様はこちらにおられます。お嬢様ー!お2人をお連れしましたよ。」
ジャンヌが扉を開けて宿の中に入ると、ベットに腰かけて本を読んでいる銀髪の少女がいた。
薄着の少女は、ウェンディ達を見た瞬間目を輝かせた。
「あなたたち、私たちを助けてくれた方々ね。あの時は本当にありがとう。お名前を聞いてもいいかしら?」
「冒険者のウェンディ・ラプラス。出身はガリアで育ちはゲルマニア。好きなものはロッティの作るスープかな。」
「私は冒険者のシャーロット・スチュワート!ロッティって呼んでね。好きなものはウェンディの焼いた塩焼の魚!」
2人が並んで自己紹介をすると、アンリエッタはまじまじと2人の事を見始めた。
「ねぇ、あなたたち私よりも年下なんじゃないかしら。あ、私は今年で11になるわ。」
「私は今年で8歳。もうすぐ9歳かな。」
「同じく私ももうすぐ9歳だよ。」
「本当に私たちよりも年下なのね。確かに、ソフィ様がお子様を産み亡くなられたのもそれくらい前ですものね。にしても本当にソフィ様によく似ていらっしゃるわ。」
「知ってるの?母さんを。」
アンリエッタは机の上に置かれていた写真を持ってきてウェンディに差し出した。
写真を受け取ったウェンディとそれを覗き込んでいたロッティに、アンリエッタは静かに話し始めた。
「ソフィ様と私の父よ。ゲルマニアとの戦争でともに戦った戦友だったの。だから私の家とソフィ様の関わりは深いのよ。ウェンディさんがラプラスの姓をいただいたころ、私もまだガリアにいたからその話は聞いていたわ。会ってみたかったわ。あなたに。」
「第一印象はどうだった?私がこの部屋に入ってきたときの。」
「ソフィ様そっくりだと思ったわ。あなたの見た目もそうだけど、幼少期に数度あっただけのソフィ様の面影を感じて、懐かしく思ったもの。そういえば、あなたたちはどこを目指しているの?数か月前に最期の交易船で2人組の冒険者の少女がライアンに渡ったとは聞いていたけど。」
「私たちは、西を目指しているの。ここからさらに西。目的はこの太洋の向こう側にある小さな島国。あることはわかった。その島までではないけど、その方角に向かう船の存在もわかった。あとは行くだけ。」
「それって、もしかして連邦政府が軍隊や物資を送るために出してる連絡船の事かしら。冒険者ギルドから要請すれば乗せてくれるのかしら…。」
アンリエッタがうなり声をあげていると、扉の外から叫び声が聞こえてきた。その声はその場にいた4人が誰も聞いたことのない声だった。
「冒険者ウェンディ様!シャーロット様!おられませんか!」
下から自分たちのことを呼ばれたウェンディ達は、ピストルの銃弾を確認してからそれぞれライフルやショットガンの弾丸を確認する。
洗練されたその動きに、アンリエッタもジャンヌも目を奪われていたが、ウェンディ達はそのまま扉を開けて外を確認する。
「失礼、お呼びがかかったので失礼する。」
「またどこかで!」
部屋を出ると走って階段を下る。
受付まで降りると、宿の従業員たちに事情を説明しているギルド職員の女性がいた。
周りの客も何事かと小声で話していると、雰囲気の違う2人組の少女が歩いてきたのを見て、客は誰もがギルド職員の訪ねてきた冒険者とはその少女たちだとわかった。
「ウェンディ・ラプラスだ。」
「シャーロット・スチュワートだよ。」
「私たちに、なんの用?」




