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36話 出発

 悪魔たちから解放されたエルフと精霊たちは、最初に悪魔たちに殺された同族たちの弔いをしていた。集落の端にある墓地に弔われ、ウェンディ達もともに祈りをささげた。

 弔いを終えた翌日、エルフと精霊は解放を祝ってお祭り騒ぎをしていた。

 エルフ族や精霊族は普段から森の恵みとして果実酒を飲むことが多いようだ。その騒ぎの中で、ウェンディとロッティは隅の方で長老の他数名のエルフたちと静かに座敷に座っていた。エルフの中にはレイの姿も見える。

「あらためて、ウェンディ殿とシャーロット殿。此度は、まことにありがとうございました。この里を代表して、お礼申し上げます。」

「いいんです。友人を助けただけです。それでも、友人を1人、助けることが出来ませんでしたが。」

「間に合わなかったのは仕方がありません。それでも、大多数のエルフたちや精霊を救うことが出来た。恨むべき対象は君たちではなく悪魔たちだ。君たちは、少しでもこの祭りを楽しんでほしい。」

「天使にもそういわれたし、忘れることはだめだけど助けられたことを喜ぶことはいいんじゃない?」

「…そうかもね。」

 ウェンディはロッティに頭を撫でられながら諭される。

 それを見ていた長老も、座りなおしてから改めて声をかけた。

「今日は、ゆっくりとして行って下され。」

 座敷の外でわちゃわちゃ騒いでいるエルフや精霊族たちを見ながら、ウェンディ達は差し出された木のグラスに口をつけた。

 口に含んだ瞬間、2人ともそれが果実酒だとわかり少し驚くが、まずいとは思わず、むしろおいしく感じることに驚いてお互いに顔を見合わせる。

「ここの里で作られた果実酒は、子供も飲むことがあるため強い酒ではありません。様々な果実が入っているため、どちらかといえば果実汁のような味わいでしょう。」

 説明するエルフの言う通り、いろんな味のする酒だ。色合いとかで言えばワインに近いのかもしれない。

 ふと長老がウェンディの横に置かれた二振りの刀に気が付いた。

「ほう驚きましたな。瑞穂刀(みずほとう)とは懐かしい。」

「知っているのですか?この剣を。」

「ええ。」

 座敷の反対に座っていた長老は立ち上がると、棚の引き戸を開けて中から剣を取り出した。その剣は、ウェンディの打刀と同じ見た目だった。

「わしの古い友人が昔わしに預けていったものと同じです。以前はこの里の扉の一つが瑞穂ノ国につながっていたため、刀の情報もよく入ってきておりました。…あなたの刀、見せていただいてもよろしいでしょうか。」

「ええ構いませんよ。」

 二振りの刀を長老に渡すと、打刀を鞘から抜いて刃を睨みつけた。

「ほう、釛堤(かねさだ)ですかな。刃を外してもよろしいかな?」

「ええどうぞ。」

 目釘を外して刃を柄から外すと、(なかご)に刻まれた銘を見つめていた。

「初代の五月雨釛堤(さみだれかねさだ)ですか。初代の作品は初めてこの目で見ました。いいものを見せていただきました。」

 刃を戻して目釘を締めると、脇差の目釘も外して(なかご)を見ると、長老は驚いたように目を見開いた。

「…こちらも初代の五月雨釛堤(さみだれかねさだ)とは、ずいぶんと珍しいものを見せていただきました。近々は瑞穂の方の扉を閉じてしまいましたから、もう見ることもなくなってしまいました。」

「その瑞穂ノ国とはどこにある?私の目的地はそこなんだ。」

「ライアンの大陸からですと、西の太洋を越えた先にある小さな島国です。森と水が豊かで強い戦士がいますね。ライアンの西海岸の扉を開きましょう。そこから船で海を越えるのがいいでしょう。ダメだった場合でもそのまま北上すれば行けたはずです。」

「ありがとう。…私はもう休ませてもらいます。」

「あ、じゃぁ私もそうさせてもらいます。」

 2人で長老の家を出てそのまま宿に向かうと、刀や銃をテーブルに置くと、着ていた服を脱ぎ、パンツとシミーズだけになる。

 窓際の椅子に座って窓から騒いているエルフたちを眺めているウェンディに、ロッティが果実酒の入ったグラスを差し出す。

「ウェンディ、この里はいいね。みんなフレンドリーで。」

「単に私たちがこの集落を救ったからかもしれないけどね。」

「それでもいいじゃん。この感じ。私はマナががあふれてるからとても過ごしやすいよ。」

「そうね。でもここの気候はとても過ごしやすい。でも、ここの気候は人間にはよくないかもね。暑くも寒くもなく何も感じないこの空気感、何か不安になる。」

 窓枠に木のグラスをおいてロッティがウェンディの座っていた椅子の正面の椅子に座り、窓の外を一緒に眺めていた。

 少しの沈黙の後に、ロッティが木のグラスを手に持ってウェンディの方を向く。

「明日出発する?」

「そうしよう。」

 一言だけ交わしてから、正面の椅子に腰かけたロッティと、木のグラスに入った果実酒を飲み干す。

 元居た世界では、中世の欧州では子供でも酒を飲んでいたってどこかで聞いたことあるし、水を手に入れるよりも酒の方が手に入りやすかったなんてもの聞いたことがある。

 とはいえ、初めて飲んだ酒に少しほわほわしながら、2人は床に敷かれた布団に体に沈めた。

 2人が目を覚ますと、服を着て武器を身に着けると、宿を出て広場の方に向かうと、そこにはレイが立っていた。

「もう、出ていくんですか?」

「うん。目指すべき国の場所もわかったし、わかったのならさっさとその国を目指したい。」

「そうですか…。ぜひ、これを持って行ってください。」

 レイは手に持っていたナイフを2本差し出してくる。

 石から削り出したような形の刃に木と革で持ち手を作ったような独特な形のナイフだった。

「使いにくいかもしれないですけど、持って行ってください。」

「ありがとう。ここの扉は、欧州には続いてないの?」

「欧州にも扉は開いています。」

「そっか。私たちは最後に欧州に戻ろうと思ってるから、どこかで会えるかもね。その時まで、このナイフ大事に使うよ。」

 2人で手渡されたナイフを手に取って、レイに案内されて扉につながる道に案内された。

 亜空間収納から馬を出すと、勢いよく跨り、石畳の道を走り去っていった。

 走りながら、2人の事を見送るレイの事を、ウェンディ達は一度も振り向かなかった。

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