34話 悪魔の基地
石畳の上を走り抜ける2台のモトル。
ウェンディとロッティ。それにエルフ族の子供ノウだ。
「この扉から出ていったんだよね?」
「そう!この扉の方向に向かっていったよ!」
石畳から扉と呼ばれた白い空間にそのまま突っ込み、歩きで少しあったはずの真っ白の空間を一瞬で抜けて外に出る。そこは地面は砂で木がまばらに生えている地域だった。
木々の間を抜けていくと、地面がなくなるのが見えたウェンディとロッティは、急いでブレーキをかけて停止した。そこは、巨大な峡谷の頂点だった。
ロッティが双眼鏡を取り出し周りを見回して、指を差しながら叫ぶ。
「ウェンディ!向こうの方に建物があるよ!人も結構いる!」
「とりあえずそこを目指そう。先導して!」
ロッティがギアを入れて走り出すと、その後ろをついてウェンディも峡谷を下り始める。
急な高低差を速度をタイヤを滑らせながら下っていく。
底まで下ると川が流れていて、直接渡れそうにない。
左右を見渡していた2人の後ろで、ノウが肩をたたいた。
「ここの川は向こうに小さい橋が架かってるよ!」
「あっちね!行くよ!」
急発進してノウの指を差した方向に向かうと、本当に小さなつり橋があった。
つり橋に近づくと、そこには人影が見えたため停止する。
「…ねぇ。あれっていわゆる、悪魔ってやつ?」
「そうだよ!アイツらが悪魔だ!逃げなきゃ大変だよ!」
ノウの声で気づいたのか、背中に黒い翼の生えた黒い肌に黒い角が生えたいかにも悪魔っぽい見た目の2人組が怒鳴ってきた。
「エルフがまだ残ってたぞ!」
「わざわざ自分からきやがった!しかも人間を連れてるぞ!」
「まずいよ!殺されるよ2人とも!」
騒いでいるノウと悪魔2体をよそに、ウェンディとロッティは手を突き出してじゃんけんをしていた。
結果はウェンディが勝ちロッティは負けた。
「どれくらいなのか知りたかったのになぁ。」
「へへ~。初めての敵は私の先取りだね。」
「負けてもいいんだよ~?そしたら私がやるから。」
「負けるかあんなカラスに。」
スタンドを立ててモトルを降りると、刀を一振り抜くと、魔術を唱えた。
「≪火系統・火炎剣≫!」
何もない空間から真っ黒の槍を取り出した悪魔2体はウェンディに襲い掛かる。
ウェンディが少し笑いながら一歩踏み込む。
後ろから見ていたノウが瞬きをした瞬間、ウェンディは悪魔の一歩後ろに立っていた。
「…遅いよ。悪魔。」
その一言の後、悪魔2体は身体を切り裂かれ炎に包まれた。
刀を振り下ろすと、纏っていた炎は消えてそのまま刀を納刀する。
「よし先を急ごう。」
モトルに乗り込んで橋を渡り、峡谷を駆けのぼる。
中腹を過ぎたころ、上空から悪魔たちが飛来してきた。
「止まれ人間!」
「これ以上進む事は許さんぞ!」
モトルを停めて2人とも降りると、ウェンディは刀を抜きロッティは両手に銃を持った。
襲い掛かってくる悪魔たちを射撃と斬撃で殲滅し、亜空間収納にモトルをしまって今度は走って崖をのぼる。
頂上付近にあった建造物は基地といった感じで、丸太で作られた門を破壊してウェンディ達は中に突入すると、中は悪魔だらけだった。
「下級悪魔に用はない!エルフと精霊はどこだ!!」
ウェンディの雄たけびは、まんま悪魔を殲滅するという宣言に他ならなかった。
さっきの悪魔たちと同じように何もない空間から黒い槍を取り出すが、ロッティが銃を突き出して魔術を唱える。
「≪火系統・爆裂弾≫!」
撃ちだされた銃弾は悪魔の身体に当たると、体の中に貫通してから小さく爆裂し、身体を吹き飛ばす。
「≪火系統・火炎剣≫」
刀に炎をまとわせて悪魔を斬り裂く。
周りの悪魔に比べて大柄な悪魔が空から飛来し、剣を振り上げウェンディ達に振り下ろした。
よけきれないロッティを見て、ウェンディは刃の炎を消してから刃を立てて左腕を添えて悪魔の剣を鎬筋で受け取めた。
受け止めた衝撃がウェンディの身体を通じて地面が割れる。
ロッティの銃弾を受けてウェンディに剣を振り下ろしていた悪魔がひるんだ瞬間、ウェンディは下段から刃を振り上げて胴を斬り裂いた。
「ありがとうウェンディ!」
「もう少し!がんばるよ!」
「≪火系統・爆炎弾≫!」
ロッティが右手の銃に違う魔術を付与し、周りの建物に向けて撃つ。
先ほどの爆裂弾が小規模に身体を吹き飛ばす規模だったのに対し、爆炎弾は建物を焼き尽くす規模だ。
基地内にある建物を次々と消し飛ばし、中にいた悪魔たちが火だるまになりながら飛び出してくる。
もう抵抗できる悪魔がいなくなったのか、基地の中は中央にある4階建ての建物を残してすべて燃えつくしていた。
「ねぇ。そういえば景気よく小さいほうの建物燃やしてるけど、あの中にレイたちがいる可能性はないの?」
「大丈夫じゃないかなぁと思うけど。あんなところに堂々と捕虜入れないでしょ。」
「それもそうか。じゃぁ、最後に真ん中を調べようか。」
真ん中に立っている3階建ての建物に入り、1階を見て回ると地下につながる階段が見つかる。
階段を隠すようにおいてあった板をどかして、ウェンディが刀をしまい銃を抜くと、後ろでロッティが左手に握られていた銃をしまい、右手の銃はシリンダーを見て銃弾が入っているかいていた。
2人とも銃のハンマーを起こして銃を階段の下に向けながら階段を下っていく。
「ねぇロッティ、照らしてくれない?」
「いいよぉ。≪火系統・照明≫」
ロッティの頭の上に現れた光の球から発せられた光で照らされた階段をゆっくりと下ると、鉄格子が見え、まんま牢屋って感じの地下室についた。
周りを見渡しても暗くてよく見えない。
「暗いなぁ。もう少し明るくできない?」
「できるよ。ちょっと待ってね。」
ロッティは光の球に魔力を込めて光を強くすると、牢屋の中に人影があるのが見える。
階段を中心としてぐるっと八角形に配置された牢屋の中には、見覚えのある服を着た耳の長い人影が見えた。
「あ、いたよウェンディ。エルフたち。」
「いたね。エルフ。」
光に照らされて見えてきたのは、村からさらわれたと思われるエルフ族たちと、籠のようなものの中にとらわれた精霊族たちだった。
「お父さん!お母さん!」
ノウがウェンディの後ろから飛び出し、牢屋の鉄格子をつかんだ。
「ノウ?ノウなのかい?」
牢屋の中で男女のエルフがノウに近づいてきた。
ノウの両親なのだろう。
3人とも涙を流しながら鉄格子を挟んで抱き合っている。その様子を見て、周りのエルフたちも安心したかのような表情で群がっていた。
「死んでるのかと思ったよ…。ここに姿が見えなかったから。」
「大丈夫だよ!生きてたよ!あのおねぇちゃんたちがここまで連れてきてくれたの!」
エルフたちが感動の再会をしている後ろで、ウェンディとロッティは壁沿い見ながら鍵を探しているが、どれだけ探しても見つからない。
「ねぇ鍵ないよ~。」
「こっちもなかった。仕方ない、壊すか。」
「私がやる?」
「ロッティじゃ中のエルフまでダメージが入っちゃうかもしれないし、私がやるよ。」
ノウ達に近づきながら、ウェンディは腰の刀を抜いて扉の前で構える。
刀を構えてるウェンディを見て、エルフたちが殺されると思って悲鳴を上げながら逃げる。
エルフという種族がその個体数を減らした理由の一つを考えれば、その気持ちもわからなくもない。
ウェンディが息を吸い込んで刀を振り下ろすと、鉄でできた牢屋の扉がいとも簡単に切れ、扉が開く。
「さぁ、出ていいよ。」
一言だけ言ってからウェンディはほかの牢の扉を前にしてもう一度刀を振るい、扉を壊していく。
すべての牢屋が解放され、最後に精霊族のとらわれていた籠を破壊して全員の解放を終える。
「無事にエルフを助けられてよかった。」
ウェンディとロッティが階段の方に向かうと、ふと見知った2人の顔が見えないことに気が付いた。
周りを見渡すと、明らかにエルフたちの見た目に差がある。
小柄な子供のほかは少し年上の、初老と呼ばれるような年代かそれよりも少し下くらいの見た目のエルフばかりで、レイとおなじくらいの見た目のエルフが見当たらない。
「ねぇ。レイってエルフ知らない?私たち、その子とミュイって精霊を探してきたんだけど。」
「レイや、同じくらいのエルフはここのボスに連れていかれてしまったよ。どこに行ったかはわからない…。」
「そっか。みんなはここを出て自分たちの村に向かうといい。ここの基地の悪魔たちはすべて排除した。私たちは、このままここの上に登る。」
「とはいっても3階建てなんだけどね。」
ウェンディとロッティは、エルフたちを外に見送ってから、2階へ伸びる階段を登り始めた。




