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33話 エルフと精霊の里

「ウェンディ、なんかおかしいと思わない?」

 ロッティのそんな一言で、ウェンディも周りの雰囲気に違和感を持った。

「…そういえば、なんか昨日より薄暗い?」

「あと漂ってるマナの質かな。私の感覚としては結構気持ち悪い感じがする。」

 一通り荷物を片付けて、もう馬の背中にすべてを乗せ終わった2人は、出発の日必ず来ると言っていた出来たばかりの新しい友人の来訪を待っていた。

 煙管を咥えて本を読みながら岩に腰かけていたウェンディも、本を閉じて立ち上がり周りを見渡す。

 川辺の岩場は周りが森になってい1本だけ森の外に通じる道があるだけで、数日間レイとミュイが現れてたのはただの森の木の間からだった。

「…ねぇウェンディ、ちょっと行ってみない?」

「森の奥に?」

「あんなんだけど一応レイはエルフ族でミュイは精霊族だし、そうそう見つけられるとは思わないけど、ちょっと気にならない?」

「確かに、どんな感じの門なのかは気になるよね。行ってみようか。」

 実験で馬が亜空間収納の中でも1日程度ならまったく問題ない事が分かっていたため、荷物を載せたまま亜空間収納に入れて、2人は森の中に踏み入った。

 外から見る雰囲気と違い、森の中は少し、いやかなり暗い。木々の葉が太陽光を防いで地面は結構じめじめしている。

「ウェンディ待って。この森、明らかにマナの流れがおかしい。」

「おかしいって、どんな風に?」

「これは、多分結界かな。マナがこの辺りに滞留してる。」

「それってどの辺?この近く?」

「こっち。」

 マナとは空気中で漂っているらしく、それを感じ取ることで結界の有無や魔術の発動、極めると生物の有無までわかるようになるらしい。

 ロッティ曰く、魔力を消費して魔法の発生や魔術の発動したときに出る生成物や排出物らしい。魔力の元になり、大気中に含まれてて、人間もそれを吸収して魔力を回復させる存在だ。

 ウェンディの育ったゲルマニアやガリアでも聞いたことのない概念であるため、完全に初耳だった。

 ウェンディにはわからないマナの流れがロッティには感じ取ることが出来る。剣を振るい銃を撃つウェンディは、魔術を自身の肉体を強化や武器の強化にしか使わないが、ロッティは魔術をメインに戦う魔術師のため、マナにはウェンディより敏感に反応できる。

 ロッティがきょろきょろと周りを見渡しながらもまっすぐ歩いていく。

「あった。ここだよ。」

 案内されてついた場所は、ウェンディでもわかるくらいにはマナの密度が高かった。

 森の中にあってさっきまでとは違う少し明るい場所で、木が少ない広場のようになっていた。

「ここらへんマナの密度が濃い。多分ここに扉がある。」

「扉って言ったって、どうすることもできないね。」

「ちょっと見てみよう。≪神聖・解析≫。」

 ロッティが魔力を込めてみると、空間に光が現れた。

 ウェンディからすれば何が起きているのかよくわからないが、ロッティにはウェンディにはない知識があるんだろう。

「あれ?これ私にも解けそう。解いてみよっか。」

 どうやらこの結界は魔力の性質を変えて注ぎ込むことで鍵の役割をしているらしい。ウェンディにはよくわからないが、まぁロッティは理解しているんだろう。

「神聖魔術みたいだけど、少し違う…。でも多分これは……。」

 ロッティがぶつぶつと言っていると、光は強く光ってからはじけ飛んだ。

 まぁまぁな音が響いたため、2人とも目を見開いて驚いた顔になる。

「あ、開いちゃったね。」

「開いちゃったって…。ロッティが開けたんでしょ。」

「あはは…。」

 目の前には真っ白い空間が広がっていた。

 どうするか悩んでいるが、開けっ放しでこの場を去るわけにはいかないため、中に入ることにした。

 何もない空間に入ると、すぐに足元から石畳のような固い感触が伝わってくる。

 周りを見渡しても何も見えないが、ふと気が付いたときには周りの風景が森の中になっていた。

「…どこここ。」

「さっきまでいた森とは絶対違うね。空気中のマナの量が明らかに多い。」

 周りを見渡しながら歩いてみるが、全然先が見えてこない。

 次第に面倒になってきたウェンディがロッティを引き留める。

「ねぇ。モトルで行かない?それか馬とか。」

「そうね。モトルで行こう。」

 亜空間収納からモトルを出してくると、すぐにエンジンを掛けて走り出す。

 歩いてみると長かったが、モトルで走るとすぐに集落が見えてきた。しかし、見えてきた集落はエルフや精霊の住んでいると思われるような印象は得られなかった。

 集落の中には誰もいなく、ところどころに刀傷や矢が刺さったりしている。

「…襲われた感じかな。」

「襲われるっていっても、ここ別空間で人間がそうそう入れるようなものでもないでしょ。」

 モトルを降りて周りを見て回るが、やはり誰も見当たらない。

「ウェンディウェンディ、ちょっと来て。」

 ロッティに呼ばれていくと、家の陰に小さい木の板が立てかけられている。

 隙間からそっと覗くと、板の裏に人の足のようなものが見え、震えてるのが分かる。

 ウェンディはロッティと顔を見合わせてから、板をノックした。

「えっと、私たちは旅人だ。何があったのか教えてほしいのだけど、顔を見せてくれないかな。」

 話しかけると、板の陰からゆっくりと小さいエルフの幼女が顔を出した。

 おびえた表情で顔をのぞかせるエルフの幼女には、2人並んでしゃがんでいる人間の少女が見えた。

「お、おねぇちゃんたち、悪魔の仲間なの?」

「悪魔?悪魔に知り合いはいないかな。」

「私もいないよ。」

「おねぇちゃんたちは、誰なの?」

「誰って、人間だよ。」

「待ち合わせしていたエルフの友達が来なくて探してたらここに迷い込んじゃったの。」

 優しく話しかける2人に、エルフの幼女はやはりおびえた表情だ。

 どうするべきか考えていると、幼女が話しかけてきた。

「ねぇ、おねぇちゃんたち、ウェンディとロッティ?」

 幼女から突然自分たちの名前が飛び出したことで、2人とも少し固まってた。

「…私がロッティだけど、なんで名前知ってるの?」

「やっぱりウェンディとロッティなんだ!レイおねぇちゃんが話してたから知ってる!」

「そうそう。そのレイってのと、あと精霊のミュイが私たちの友達。旅をしている私たちが数日間キャンプを張っていたところに現れて、それから仲良くなったの。出発の時に渡したいものがあるって言われたから待ってたんだけど、全然来ないから探しに来た。」

 レイが何を言っていたか知らないが、レイの友達という言葉で幼女は物陰から出てきて話をしてくれた。

 幼女の名前はノウ。

 彼女の話によると、昨日の夜突如として扉を守る結界の一つが破壊され、悪魔が攻め込んできたそうだ。エルフ族と精霊族は共同生活をしているほどに仲はいいが、どちらの種族も悪魔とは仲が悪い。

 エルフ族と精霊族は、人間には使えない魔術がつかえ、その魔術は『光』と呼ばれる。逆に悪魔の得意とする魔術は人間でも使える『闇』であり、『光』は『闇』の唯一の対抗手段の一つとされている。

 エルフ族と精霊族の事は人間にその文献はほとんど残っていないため、魔導大国と呼ばれたブリタニア出身のロッティでもエルフ族と精霊族の魔術の事を知らなかった。

 悪魔は魔王軍とは違う勢力であり、魔王軍は魔族や魔獣の生活領域を広げることを目的とする反面、悪魔はもともと神の使いである天使が堕天した姿であり、邪神と呼ばれる存在の配下で、世界を混沌に陥れることで自分たちの生活圏を広げることを目的としていた。

 まぁ最終的な目的は似たような感じなのだが、魔王軍は実力主義で人間にも敬意をもって戦い、共存も視野に入れている反面、悪魔は孤立主義で人間を家畜や労働力としか見ていない。

「悪魔は堕天した神を恨んでいて、神様を象徴する『光』の魔術を使えるエルフ族や精霊族を目の敵にしてるの。精霊族は神様の恩恵を受けている存在で眷属に近い存在で、エルフ族は自然の中で長い寿命を通して神様に祈りを捧げ続けた結果『光』を使えるようになったの。」

「なるほどね。『光』が使えるどっちの種族も悪魔からすれば、侵略の邪魔者でしかなかったと。でこの集落が襲われたと。」

「でも死体が無いのは変だよね。戦いがあった割には血も落ちてないしマナの乱れも少ない。」

「エルフや精霊を殺す行為は天罰があるって悪魔たちは信じてるんだよ。邪神やその幹部たちはもともとは神様の直属の眷属である天使たちだから、どこかで神様を恐れてるんだよ。」

 寂しそうにノウが話している。

「これからどうするの?エルフ族は君で最後なの?」

「ここ以外にも、エルフの里はあるから、まだエルフ族も精霊族もいるよ。でも、お母さんもお父さんも、友達もレイおねぇちゃんも、みんないなくなっちゃった…。」

 最後には泣き出してしまったノウの頭を撫でながら、ウェンディとロッティは目配せをする。

 2人とも立ち上がり、ノウの前にしゃがみ込むと、まっすぐノウの目を見る。

「ねぇ。悪魔たちの拠点って、どこにあるの?」

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