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32話 エルフと精霊

 ゲルマニアを出て1年と5ヶ月2週間。

 2人は砂漠のど真ん中を馬に乗って走っていた。

 モトルのタイヤでは、砂にハンドルを取られて乗れたものではなかったためだ。

 砂漠が続き、日の光がぎらぎらと照り付けるのに湿度が高い中を駆け抜けるが、風もそこまで強くないせいでまったく涼しくない。

「ウェンディ~。暑いよ~。」

 後ろで馬にまたがるロッティがウェンディに叫ぶ。

「私もだよ~。日影もないし、日の光を遮れないからね~。」

「光遮ってもじめじめしてるから暑いんだよぉ~。」

 もう何度もこの話をしながら移動している。

「もう少し頑張って!地図ではこのまま進めば川があるはずだから。」

 ウェンディの言った通り、10キロほど進んだところで川に当たった。

 馬を降りてウェンディが手綱を止めていると、ロッティの叫び声が聞こえた。

「ひゃっほ~!!」

 何かと思ってウェンディが振り向くと、服を脱いで下着姿で川に飛び込んでいるロッティがいた。

「何してるの?ロッティ。」

「ウェンディもおいでよ!気持ちいよ!」

 川辺で眺めているウェンディに手招きをするロッティ。

 パンツ一丁で川の中を泳ぐロッティを見て、気持ちよさそうだと思ったウェンディも、馬に刀や銃のついたベルトをかけて、服もロッティの服の横に脱いで岩場から川に飛び込んだ。

「ぷはぁ!冷たくて気持ちい!」

「でしょ!?」

 2人で水を掛け合ったり泳いだりしばらく川を楽しんでから、2人して疲れ切って川から上がってくる。

「はぁ、はぁ。」

「はぁ…はぁ…。」

 岩の上で2人並んで大の字に伸びていると、先ほどまでは弱弱しいとしか感じなかった風がとても気持ちよく感じる。

「…疲れることを、よくも進んでやるね。」

 ウェンディが起き上がってロッティに話しかけると、ロッティがいたずらっぽく笑う。

「ウェンディも楽しんでたじゃん。」

「それは、そうだけど……。」

 馬の所に戻ると、さっき抜いだ服をしまい、新しい服を取り出す。

「今まで来てた服は変えちゃおう。どうせ下着も変えるんだし。」

「そうだね。一気に変えちゃった方がいいね。」

 下着を脱いでタオルで体を拭き、新しい下着に足を通してから、髪の毛の水分をふき取っていると、森の方から木の枝が折れる音が聞こえた。

 かすかな音に気付いた2人は馬の鞍にかけられたベルトから銃を抜いてハンマーを起こしながら音のした方に銃を向ける。

「あ!ぶ、武器をおろしてください!」

「下ろしてほしいんなら姿を見せたら?」

 ウェンディが声を上げると、ロッティが銃に魔力を込め始める。

「わ、わかりましたから!」

 聞こえてきた声は女性の声だ。

 木の陰から、白いローブのようなものを羽織った銀髪の少女が出てきた。

 旅人には見えない軽装で靴に至ってはただのサンダルだ。

 ローブの下には布を巻いただけのような服装なのに肌は白っぽい。

 そしてきれいな銀髪からのぞかせる長い耳。

(長い、耳?)

「その耳、エルフ族?」

 ウェンディが悩んでいると、ロッティが声を上げる。

 不安そうな顔をしているエルフの方に、小さな光がとまった。

「私は精霊族!こっちはエルフ族よ!」

 聞こえてきた声は明らかに銀髪の少女からではなく、肩にとまった光からだった。

 ウェンディが困惑していると、エルフの少女が声を出した。

「えっと、私はエルフ族のレイです。こっちは精霊族のミュイ。私のお友達なんです。」

 レイが自己紹介をする。よく見ると、彼女の方にとまった光は小さい人の形をして背中には透明な羽が見えた。

 レイの紹介を受けて、肩のミュイはエッヘンと胸を張っている。

「私たちは、水浴びに来たんです。そしたらあなたたちが…。」

 事情を説明している気まずそうなレイの話を聞いて、ウェンディとロッティは銃のハンマーを戻して銃をおろした。

「…水浴びの場所を勝手に使ってごめんなさい。私はウェンディ。ウェンディ・ラプラス。ガリア出身の旅人。」

「私はシャーロット・スチュワート。ロッティと呼んで。私はブリタニア出身の旅人。水浴びを邪魔しちゃったね。」

 ウェンディ達が銃をしまって服を着ていると、レイたちは岩場に移動する。

 着替えが終わると、ロッティがレイに話しかけていた。

「エルフ族も精霊族も、人間が売り飛ばす目的で誘拐することが多かったから、人の前には姿を出さないと思っていたんだけど、こんなところに住んでいるの?」

「いえ、この森の中にはエルフ族と精霊族が暮らす別空間へつながる門があるんです。その門を通じていろんな土地に行くことが出来て、この川の周辺は人間の町も村も集落もないので水浴びや散歩に出るには都合がいいんです。」

「へ~。それなら、こんなところに私たちが来た事は想定外だったと。」

 ロッティとレイが話している後ろからベルトを締めながらウェンディが話しかけてきた。

「にしても、なんでこんなところにいるんです?この辺りは魔獣もそれなりに強いでしょうに。」

「旅の途中で立ち寄っただけだよ。飲み水の確保と休息。この後は西に向かって旅を続ける予定。フロンティアを突っ切って西側の海に出るのが目的。そのあとは東洋にあるという島国を目指す予定。」

「今日はここで休息を取ろうということも考えてたんだよね。」

「そうね。ここまで何日も休みなく移動してたからね。少しの間ここに滞在して休息してから行こうかな。ここなら川辺で森も岸壁もあるから砂嵐なんかも防げそうだしね。」

「ここならば、そうそう魔獣も来ないでしょうし、ごゆっくり。私たちは水浴びをして戻りますので。」

 一言告げてからレイたちは川の方に歩いていき、ウェンディ達は馬からテントや荷物をおろしていく。

 地面の土を掘ってロープを結び付けた木の枝を埋め、テントのロープを固定する。

 中でポールを建てテントが完成すると、石を集めてかまどを作り、薪を拾ってくる。

 しばらくせっせと拠点を設営していると、川で水浴びをしていたはずのレイとミュイは姿を消していた。

 もう日が暮れてきているし、帰ったのだろう。川辺から森に続く足跡が1つ残っているし、レイと肩に停まったミュイだろう。

 ウェンディとロッティがその川辺に滞在していた3日間、毎日2人はあそびに来て、4人で水遊びをしたり、旅の話やエルフ族に精霊族の話を聞いたりして過ごした。

 ウェンディとロッティが旅立つ前日、ウェンディ達が明日旅立つことを伝えると、レイたちは渡したいものがあると言い、必ず見送りに来ると言った。

 しかし、翌日ウェンディ達が片づけを終えていくら待っても、レイたちが現れることはなかった。

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