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31話 別れ

 ゲルマニアを出て1年と5ヶ月。

 ウェンディ達は砂漠近くの湖畔でテントを張っていた。

 湖畔の周りでしか高い木は見当たらず、今まで来た方角は割と緑が多く、木もそれなりにあるが、反対側の西側では土や砂の世界が広がっている。

 しばらくは町もなさそうな雰囲気が見て取れるため、3人は湖畔で休息と同時に、水に確保をすることにした。

 ロッティが鍋で煮込み料理を作る近くで、ハンモックに寝ているウェンディが料理の火の明かりを使って本を読んでいる。

「2人とも、ちょっといい?」

 薪を集めに行っていたリリーが薪を持って戻ると、ウェンディとロッティに話しかける。

 本を読んでいたウェンディが身体を起こし、リリーの方を見る。

「どうしたの?」

「この前立ち寄った村があったじゃない?」

「あぁ。確かラモントだったっけ?食料とこの辺りの地図とかを調達したとこだね。」

「そう。そこでね、私の同族についての情報が得られたの。」

「魔族の事だね。この近くにいるの?」

 ハンモックから降りたウェンディは、ロッティの隣に腰かける。ロッティは、相も変わらず鍋を煮込んでいる。

「らしいんだよね。この湖から北に向かったところにある小さな池?湖?のところに魔族の集落があるって噂があるんだよね。そういう噂ものせいで大人も子供の一切近づかないんだって。」

「この辺はもう町もないし、大人たちも調査しに行こうにも遠すぎていけないんだろうね。」

「じゃぁ、次の目的地はそこでいいのかな?」

「そうするかね。そこで情報が得られるんなら、リリーが故郷に戻る手がかりも得られるしね。」

「いいの?私の事情で…。」

「いいのよ。だって、もともと私たちの旅に同行してる理由は同族に合流するためや故郷に戻るためでしょ?」

「……ありがとう。」

 次の日、いつも通りウェンディの後ろにリリーが乗り、ロッティのモトルに荷物のほとんどを積み込んで走り出す。

 湖の周りをぐるっと回り込んでまっすぐ北を目指す。

 まっすぐと走って10キロを超えたくらいの頃、少し周りの雰囲気が変わり始めた。

 モトルを停めて地面に足を突くと、ロッティが真横に停まる。

「どうしたの?ウェンディ?」

「…地面が踏みしめられてるから村が近いね。」

「じゃぁこの方向であってたんだね。」

 その場から走り出してすぐ、空に上がる煙が見えた。

 煙の立つ元に近づくと、町というか村というような小さな集落に到着し、2人はモトルを停める。

 モトルを降り、ウェンディとロッティは一応腰の銃を抜いて装填されているか確認し、銃をしまう。銃を見ているウェンディ達の横で、リリーはフードをかぶった。

 集落の中に入ると、集落の中央の広場で子供たちが駆け回り、大人たちが水仕事をしている。

「あ、人間だ!」

 子供の1人が叫ぶ。

 よく見れば、そこにいる子供たちや水仕事をしていた大人たちも、例外なく頭に角が生えている。しかしどの角もリリーの物よりは小さく見えた。

 子供の叫び声と同時に、悲鳴と一緒に親が子供を家に連れ込み、武器を持った大人たちが出てきてウェンディ達に向けた。

 ウェンディとロッティは顔を見合わせると、両手を上げて様子を見ることにした。

「すまない!この集落はどこに属す集落だろうか!」

 リリーがそう叫ぶと、フードを取って2人の前に立った。

 住人達はリリーの顔を見たと同時に少しうろたえ始め、奥から老人が出てきた。おそらくこの集落の長のような存在なのだろう。

「…ここは魔伯爵ギリードール様の管轄の小さな集落でございます。名前などありませんが、私共は我々の水源となっている池の名前、『アルファルファ』と呼んでおります。」

「ギリードール魔伯爵か…。連絡はとれるか?」

「はい。私共から問いかければ返答が帰ってきます。」

 長とリリーの会話を聞きながら、ウェンディとロッティは顔を見合わせた。

「一つ問います。そちらの人間は、一体何者なのでしょう?」

「彼女らは私を助けてくれた。そして、私が魔族と知りながらもともに私の同族を探すために旅に同行することを許してくれた。心優しき人間だ。」

 どうやら、ウェンディ達の思っているよりも人間から魔族への迫害はひどいのだろう。

 助けて傷の手当てをして故郷を探すのを手伝ったくらいで心優しき人間とは、ずいぶんと魔族を毛嫌いする人は多いのだろう。

「そうですか…。であれば、我々が戦うべき理由はありませんな。」

 長のその言葉で、大人たちは武器を納めた。

 その様子を見ながら、ウェンディ達も上げていた手を下げた。

「えっと、これは無害だとわかってくれたのかな?」

「そうだよ。もう大丈夫。」

 さっきまであったリリーの威圧感は消えていた。

 その日は、ウェンディとロッティで魔族の集落の仕事を手伝った。

 ロッティは水仕事や炊事仕事を、ウェンディは畑仕事や狩猟など、いろんなことを手伝っていたが、リリーは長の家に入ってから一度も出てこなかった。

 夜はささやかな宴が開かれ、ウェンディやロッティも、自身で料理をふるまい、また魔族の郷土料理に舌鼓をうった。

 翌朝、泊るところが無いからどこかの家を貸し出すと言っていた住人達をなだめ、自分たちのテントで目を覚ましたウェンディ達がテントを出ると、そこにはリリーが立っていた。

「あれリリーおはよう。昨日はどうしたの?」

「ちょっとここの長と話をしてたの。それでね、ここを納める伯爵に連絡をしたら、私の故郷まで送り届けてくれることになったの!」

「へ~。よかったね。これで故郷に帰れる。」

「うん…。それでね、ウェンディ達とは、ここでお別れになっちゃうんだ。私の故郷は魔族の里である魔界と呼ばれる地域にあるから、人間が気安く立ち入れる場所じゃないの。」

「そっか。一回リリーの故郷も見て見たかったけどなぁ。」

「魔族の料理もおいしかったもんね。他にもどんなものがあるのか見て見たかったけど、入れないんなら仕方ないかぁ。」

「うん。だからね、今まで本当にありがとう!ここまで連れてきてくれて、ここまで守ってくれて、本当にうれしかったよ!」

 そういうと、リリーは手に持っていた巻物2つを手渡す。

「大したお礼はできないけど、多分2人の今後の旅に役立つと思って、この魔術を教えてあげる。高等魔術だけど、多分2人なら使えるはず。」

「なんの魔術?」

「この魔術はね、≪無系統・亜空間収納≫。自分だけの亜空間を作ってそこに物とかを入れておける魔術だよ。空間認識能力が高くないと使えないんだけど、2人なら大丈夫!」

 リリーから受け取った巻物を2人とも開き、詠唱を始める。

 初めて魔術を覚える際には、定められた呪文の詠唱が必要で、本来は魔導書や巻物、口伝えで伝わる。

 最初の詠唱が成功し、自身の能力や魔力量が足りていれば魔術はその場で発動し、2回目以降は名前を詠唱するだけで発動する。

 2人とも同時に詠唱が終わると、それぞれの亜空間が口を広げ、収納が現れる。

「成功したみたいね。」

「お~こりゃいい。これ生物とかも入れられるの?」

「一応できるはず。あでもあんまり入れない方がいいかも。あんまり入れてると餓死しちゃうよ?」

「…やめとくよ。」

「…やめとこうね。」

 前に立ち寄った街で食料を多く調達していたため、集落では特に何も補充せずに、2人はモトルに乗り込んだ。

 今までロッティの後ろに積んでいた荷物を半分ウェンディの後ろに積み替え、エンジンを掛けた。

「じゃぁね、リリー。元気でね。」

「ちゃんと食べなきゃだめだぞ~!」

「うん。2人も元気でね。」

 軽い別れの挨拶の後に、2人は集落を後にした。

 走り去る2台のモトルを見送りながら、リリーは手を振っていたが、見えなくなったと同時に手を下ろし、口を開いた。

「もう出てきていい。」

 その言葉で、2人の魔族が忽然とあらわれた。

「ご無事で何よりです。姫様。」

「よかったのですか?あの方々は姫様の命の恩人、陛下ならば城に招くことも良しとされたのでは?」

「彼女たちを魔界に呼ぶのはだめだ。あの2人は目指す場所がある。それよりも、早く城に戻ろう。お父様が心配しているはず。」

「は!ではまいりましょう。リリーヴェール姫殿下。」

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