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30話 橋

「もう私たちは、この町から離れていいかな。」

 クインシーの冒険者ギルドで、ギルド長室のデスクの前に並ぶ3人の少女に、ギルド長は口答えをできずにいた。

「あ、ああ…。お前たちとの契約は、これで完了だ。いろいろすまなかった。」

「いい。報酬は受け取ったし、対岸への船も用意してもらった。対価はもらってる。」

 そういって、別れを言わずにギルド長室を出て、そのまま酒場を通過する。

 ウェンディからすれば、

 やっぱりほかの冒険者たちはウェンディ達の事をちらちらとみている。ゴールドやシルバーなどの名に知れた冒険者たちは見当たらない。依頼に行っているのだろう。

 冒険者たちの視線を無視してそのままギルドを出る。

 宿屋の裏に止めていたモトルを川の港まで運び、船に乗せる。

 大きな川に通された往復船は、欧州で作られた蒸気機関を搭載し外輪で航行する中型の蒸気船だ。

 蒸気機関の振動を感じながら、3人は船首で風を受けていた。

「ウェンディー!」

 後ろから呼ばれ3人が振り向くと、アルベールとシエラが歩いている。

 2人ともマントをかぶって、アルベールに至っては服装もまったく変わっていた。

「3人とも、旅を続けるのか?」

「ああ。私たちは旅をしてここまで来たからね。これからも旅を続けるよ。私の目的地は、この銃とこの刀を創った国。そして、静かに暮らせる国。リリーは故郷に帰るために旅をしている。ロッティは私について世界を見たいから旅をしてる。まだまだ旅は終わらないね。」

「その剣、どこで作られたんだ?」

「東洋の国だとは思うんだけど、地図にも乗ってないからわからないんだ。だから旅を続けるの。」

 響いた蒸気船の汽笛とともに、川の対岸がもう目前に迫っていた。

 船を降りて3人でモトルを押していると、アルベール達が馬車に乗って近づいてきた。

「3人とも、またどこかであったら会ったらよろしくな。」

「うん。2人とも、元気でね。」

 その言葉を最後にして、お互いに違う方向へ旅を始めた。

 モトルのエンジンを掛けて対岸の小さな港町を出ようとすると、この前の集団討伐で一緒だったリアムやシルバーランクの冒険者たちが待ち構えていた。

「よう。久しぶりだな。ここで待ってたら会えると思ったぜ。」

「なんの用だい?こんなところまで来て。」

「別れを言いに来たんだ。あんたたちのおかげで俺たちの命も、拠点にしている町も無事で済んだんだからよ。俺たちからは何も渡せるものはないし、あんたらの腕なら俺たちが手伝うこともないだろうしな。」

「ああ。君たちは、君たちの思うように生きればいい。私たちは旅を続ける。私たちのことには構わなくていい。」

「わかった。達者でな。」

 すれ違うようにして、冒険者たちは町の中に戻っていく。

 3人でモトルに乗り込んで港町を後にする。

 川の反対側にまっすぐ進む道から逸れて少し離れた草原をモトルで走り抜ける。

 先ほど蒸気船で超えてきたミシシッピ川までつながるファビアス川にかかる橋に到着する。

 こんなところを通る人もいないからか、橋には通る人どころか人気がそもそもない。

 そこまで大きくない橋を通ろうとした瞬間、反対側に人影が見えて、2人とも急ブレーキをかけ、モトルを停止させる。

 顔を上げると、橋の反対側にはヴォルフとそのパーティメンバーが立っていた。

 しかし、立っているメンバーの中で、ウェンディ達を睨みつけているのはヴォルフただ一人で、他のメンバーたちはどこかおびえた表情を浮かべていた。

 自分たちが対峙しているのは、自分の達の実力をはるかに凌ぐ化け物たちだということへの恐怖が勝っていたからだ。

「や、やめようぜ!ヴォルフ。」

「そ、そうだよぉ!戻ろうぜぇ。」

 仲間たちに言われるも、ヴォルフは3人を睨みつけている。

 ヴォルフはほかの仲間に対して視線をずらし、怒鳴りつける。

「逃げたいんなら逃げろ!!お前たちに根性がないんなら止める気はねぇ!!」

 その怒鳴り声で、4人いた仲間たちは振り向くことなく逃げていった。

 仲間たちは後ろで橋に立っているヴォルフに目もくれず、そのまま草原を森の方に走っていく。

「…これは、すんなり通してくれそうにないかなぁ。」

 そういうと、ウェンディはモトルを降りてスタンドを立てる。

「私たちも出る?」

 ロッティとリリーがモトルを降りようとするが、ウェンディが2人を止める。

「いいよ。これ持って待ってて。」

 腰からホルスターと予備のシリンダーが入っているポーチが固定されたベルトを取って、ロッティに手渡す。

 ロッティはモトルのエンジンを止めてウェンディからベルトを受け取る。

 ウェンディの腰に残ったのは、左腰に差された二振りの長さの違う刀だった。

「ウェンディ。お前は、俺の女を盗った!」

「盗った覚えはないな。もともとお前も人から奪った女だろ?私が奪ったわけじゃないさ。略奪によって得られた愛なんでものは、略奪されて消えるものだ。」

「黙れ黙れ!手に入ったはずの金も何もかも!お前のせいで!!」

「それこそ私の責任ではないな。人売も強姦も、ライアンの法でも欧州の法でも禁止されてることをしたお前たちが、法治の下では悪だ。だが、恨むというなら、意見くらいは聞こう。お前も冒険者の端くれなら、その腰の物が飾りではない事を示してみろ!」

「ならば、我々が立会人になろう!」

 振り向くと、ロッティの後ろに、リアム達ゴールドランクのパーティが立っている。

 リアムは地面に剣を突き刺し、2人を見つめた。

「なら、不正は止めた方がいいかな?≪神聖・魔封じ結界≫。」

 ロッティが神聖魔術から魔封じの結界をウェンディとヴォルフを中心に張る。

「一切の魔術が使えないし、結界を解除できるのは私だけだから気を付けてね。」

「大丈夫よ。私は魔術よりも射撃よりも、剣技が一番得意だから。」

 体を捻ってロッティと話していると、正面から剣を抜刀する音が聞こえる。ヴォルフが鞘から剣を抜き放った音だ。

 ヴォルフが剣を構えてウェンディを睨みつけてくる。

「殺す…!お前たちは絶対殺す…!!」

「金くらいでそこまで殺意を持つお前に付き合ってやろう。断罪とは思わない。私がこの世界で生きるうえで障害になる物を排除するだけだ。」

 落ち着いた声で話しながらウェンディは刀を抜く。

 両手で刀を構えて、中段霞の構えで切っ先をヴォルフに向ける。

 この世界の剣技では珍しい構え方なのか、後ろで見ているリアム達がその構えを凝視する。

 2人が構えた瞬間、ヴォルフが切りかかってくる。

「でりゃぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」

 勢いよく両手で握ったロングソードを振り下ろしてくるが、ウェンディが左足で踏み込んでそのまま突きをヴォルフの胸元に突き刺す。

 剣を振り上げたまま固まるヴォルフの懐で、勢いよく刀を抜いて体を翻し下段から刃でヴォルフの身体を切りつけ、そのまま刃の向きを変えて上段から先ほどの太刀筋とクロスするように切りつける。

「…真正面からなんの駆け引きもなしに突っ込んでくるから、お前はブラス止まりなんだ。」

 最後の斬撃を受け、ヴォルフの腕はそのままだらしなく下に降ろし、剣を地面に落とす。

 ウェンディが懐の懐紙を出して刃についた血をふき取り、刀を鞘に納刀すると、向き直ってロッティ達の方に歩き出す。

 後ろで、ヴォルフが力なく膝をつき、自分から流れ出した血の広がる橋の地面に倒れ込む。

 ロッティが結界を解除し、ウェンディがロッティのもとまで戻ってくる。

「行こう。留まる理由はない。」

 ホルスターのついたベルトを巻き、モトルに乗り込む。

 エンジンを掛けて走り出そうとすると、横にリアムが歩いてくる。

「…我々が証言しよう。あいつは、お前を襲って返り討ちにあった。それだけだ。」

 特に何も反応することなく、ウェンディ達は橋を渡った。

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