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2話 初めての魔物

「お嬢様ー!ウェンディお嬢様ー!どこですかー!」

 屋敷の中で、メイド達が走り回っている。

 それを屋敷のすぐ横に生えた巨木の枝に座りながら、静かに見つめる少女が一人。

「…リアたちから逃げながら魔法の練習なんてできないわね。」

 彼女はウェンディ。

 前世では天才と呼ばれた剣豪であり、格闘技にも優れながらわずか16歳でその命を落とした悲運の少女だ。

 枝の上に立ち上がると、魔力で空中に自分が浮かぶイメージを形作る。すると体が持ち上がり、ウェンディの足は枝から離れる。

 メイドたちがいる近くの窓にそっと手をかけて窓を開け、屋敷の中に入る。

「あ、お嬢様!そんなところにいたのですね!」

「ウェンディ様!危ないですから降りてください!」

 先頭をかなり幼い見た目のメイドが走り、後ろを大人のメイドや執事たちがかけてくる。

 そんなメイド達を横目に見ながら窓から廊下に飛び降りる。

「ちょっと風に当たりたくて。ごめんね?心配かけて。」

「いえ、ご無事でよかったです。」

「ウェンディ様は高貴なお方です。ご行動にはお気を付けください。」

「わかったわ。これからはまぁ気を付けるわ。」

 一言添えて廊下を歩きだすと、メイドの1人が後ろをついてきて、後のメイドや執事はそれぞれの仕事に戻る。

 この世界は王政のもとで貴族が存在する世界。時代的には、現実世界では中世の欧州だろうか。よくある異世界転生のゲームやアニメの世界観に似ているように見える。

 一つ違う点があるとすれば、私が新たに生まれたこの国は戦乱の時代だということだ。

 私が生まれたこの言えば、この王政において宰相を代々務めている公爵家であるが、宰相が文官の一族のせいで、武官として名をあげた人がおらず、この世界の剣術を学べないままもう5歳を過ぎちゃった。

「でもお嬢様、どうやって窓から?ここ3階ですけど…。」

「風魔術の応用かしら。魔術で空を飛べないかと思って風魔術で体を浮遊させてみたら成功したのよ。」

「お嬢様それ新しい魔術では…。というか、お嬢様本当にいろんな魔術が使えるのですね。」

 この世界では全部で6種類の系統が存在し、『火・土・風・水・雷・闇』の6つであり、それぞれが1階級から9階級までの魔術強度が存在する。そしてそれとは別に、神聖魔術と呼ばれる魔術が存在する。また、どの属性にも属さない無系統魔術というものもあり、結構いろいろ種類がある。

 6種類の魔法のそれぞれ2階級までなら安定して発動できる。3階級となるとちょっと失敗するかもだけど。

「なんか疲れちゃった。お茶をもらえるかしら。」

「かしこまりました。ではお嬢様のお部屋にお持ちしますね。」

「お願いねディア。」

 一度お辞儀をしてからディアはお茶を用意しにむかう。

 ディアは私より3歳年上の私専属のメイド。私より3歳年上だから実際はまだ8歳だけど、メイドとしての教育はもう終わってるらしい。

 自室に戻ると、自分を中心に魔力を球状に整形し、そのままその球のサイズを大きくする。

 とても弱く、壁もすべてを通り抜けるほどに弱い魔力を均等に張り巡らせる。

 魔力は壁にぶつかるとほんの少し弱くなる。そして、人間にぶつかるとさらに弱くなり、魔力が大きいほどに通り抜ける魔力が弱くなる。

 それを感知することによって人の位置や魔力の強さを、少し離れていても感じ取ることができる。その名も、≪無系統・探知魔術≫

 この世界ではあんまりこの魔術を使える人が多くないらしい。魔術はイメージの問題なので、この世界では魔力で周りを探知するというイメージが難しいらしい。

 私は前世の知識でレーダーを知っていたから、電波を魔力に置き換えるイメージがうまくいってすぐに使えるようになったけど…。

 そうして自分の部屋の周りに人がいないことを確認すると、本棚に並ぶ本の後ろに隠された剣を取り出す。

 剣がほしいと4歳のころにお父様に頼んで買ってもらった小ぶりの小さな剣。

 正直前まで振っていた竹刀よりも軽くどこかバランスが違うせいで振りにくいが、ないよりはマシだ。

 リアが来るまでの待ち時間を、剣を振って過ごす。

 ひらひらが多いドレスは、こういう時振りにくいだけじゃなく、普通に動きにくい。

 もうちょっとひらひらの少ないスカートがいいなぁ。

 フリルが邪魔なドレスに少しイライラしながら、両手で剣を振る。

 魔術は生活の中でところどころ使い、筋肉も魔力をそのまま筋肉の稼働方向と逆に向けて負荷をかけることで何気ない行動をトレーニングに変えている。

 そんな生活を続けているうちに、見た目的にはあまり変わっていないが、筋力増加魔術なしでも十分剣を振れるだけの筋力が身についた。

 剣を交えても問題ないくらいだ。

 少し剣を振ると、汗をかかないくらいの所で剣をしまう。

 剣をしまうと、探知魔術でディアが自室に近づいてくるのが分かったので、すぐに椅子に座り本を開く。

「お嬢様、お茶とお茶菓子をお持ちしました。」

「ありがとうディア。」

 紅茶を飲みながら、お茶菓子を口にする。

「本日のお茶菓子はクッキーですよ。私が頑張って作りました!」

「あらそう。ありがとうおいしいよ。」

 実際、バタークッキーはおいしい。

 そういえば、この世界の地理については大体頭に入ってるけど、帝都ってのは行ったことないかな。

「ディア、帝都って行ったことある?」

「帝都ですか?私は行ったことありません。でもお嬢様、その話はどこから聞かれたのですか?」

「え?何のこと?」

「いえ。まもなく帝都に戻るというお話を旦那様たちが話していたので、それを聞かれて帝都の話題を出されたのでは?」

 知らない話が出た。

 じゃぁしばらくしたら私も帝都に行くのかな。

「あれ?じゃぁ私も行くの?」

「はい。おそらくお嬢様も帝都に行くことになると思いますよ。旦那様がおひとりで行かれるとは思いませんし。」

「ディアも来るの?」

「どうでしょう。帝都のお屋敷には別のメイド達がいますから、ここのメイドは連れていかれないかもですね。」

「そっか~。」

 ぶっちゃけディアと離れるのはつらい。だって私がもっと小さいころから一緒にいるからおねぇちゃんみたいだし。

 寂しいなと思いながら紅茶に口をつけていると、ドアがノックされて外でお父様の声が聞こえる。

「ウェンディ?入っていいかい?」

「お父様?いいですよ。」

 扉が開き、お父様が入ってくる。

 入ってきたお父様は、部屋の中を見渡す。何かを探しているようだ。

「ウェンディ、前に贈った剣はどうした?」

「振っていますよ。ただ普通に部屋に置いてあると何を言われるかわかりませんので隠しておいてあります。」

「そうか。ではどうだろう、剣の稽古でもしてみないかい?うちの騎士の連中と。」

「騎士様とお稽古ですか?」

(正直やりたくないぁ…。)

 転生して私が生まれたこのハイゼンベルグ家は、帝国で三家しか存在しない公爵家なのだが、ほかの二家が武功で名を挙げたのに対してうちは皇室に仕え智将として名を挙げてきた、いわゆる宰相(さいしょう)というポジションを歴代務めている家系だ。

 そんな家の当主であるお父様も剣はからっきしで家所属の騎士団も、ほかの下級貴族や中級貴族よりかは装備は充実しているものの、ほか二つの公爵家とは比べ物にならない。

 そんな家の騎士団とでは、あまりこの世界の剣術を学べるとは到底思えない。

 だからこそ、正直あまりやりたくない。

(でもお父様からのお誘いだし、お父様が悲しむのは見たくない…。)

 しばらく悩んでから、しぶしぶ承諾する。

「…わかりました。あまりやりたくはありませんが、お受けしましょう。」

「そうか!では、うちの騎士団長に話を通しておこう。それまでに、ウェンディの運動着も必要だな。」

(運動着かぁ、運動着があれば剣の練習もしやすいかなぁ。)

「お父様、運動着なんですが、何着か用意していただけませんか?」

「ん?それは別に構わんが、体を動かしたいのか?」

「ええ。少し運動を。」

 そんな父との会話のあと、その日の午後には運動着がウェンディのもとに届けられた。

 夜、両親や兄弟を含めて全員で食事をとる。この家族で、私は末の娘。上には姉が2人に兄が4人。前の世界の常識で言えば十分大家族だけど、この世界の貴族で言えば普通らしい。

 夕食を終えて入浴を済ませると、昼間のうちに届けられた運動着に着替えて剣を手に取る。

「…さて、この近くには山があったわね。」

 山の中なら問題なく剣が振るえる。

 窓を開け、ベランダの手すりの上に立つと、そのまま魔術を発動させる。

(風系統、超加速!)

 詠唱なんてせずに心の中で術の名前を唱えれば問題なく魔術は発動する。

 超加速を発動しながら、別の魔術も行使する。その魔法は、≪土系統・千里眼≫。

 この魔術が土系統なのは、最初よくわからなかったけど、調べたら土属性はすべての母、大地などという意味があるらしく、すべてを見守るという意味合いでも千里眼は土属性らしい。

 千里眼は視力や動体視力を強化する魔術のため、探索魔術のように壁などをすり抜けて人や物を知覚するすることはできない。

 超加速で畑や町を通過しながら、千里眼で周囲に人がいないことを先回りして確認してから通過する。

 勢いよく動いていた物体が停まるためにはそれなりの力が必要になる。それは誰でも知っている常識だ。いわゆる慣性の第1法則ってやつだ。

 まぁつまりは高速で動き続けるものを停めるには、その物体が停まる方向と逆側への力が必要だということだ。

 背後の方向へ魔力で力を与え、体にダメージが入らないくらいの速度で減速し、停止する。

 周りを見渡し、探索魔術で周りを調べる。

「魔物?これって狼?この世界の狼ってどんなのがいるのかな。魔術書は読んでたけど魔物についての本は読んでないのがこんなところで出るとは…。」

 とりあえず魔物の方にゆっくり近づくと、茂みの中から魔物を探す。とはいえ、もともと帝都に近いこのハイゼンベルグ家が治めるキューリッツ領では魔物が出る場所の方が少ない。

 周りを見渡しながら、探索魔法で見つけた魔物がいたあたりまで移動すると、黒い体毛の狼が6頭群がっている。

(黒い狼?もしかしてブラックウルフとかいう名前だったりして…。)

 とりあえず、あいつらの目くらましでもするかな。

「≪雷系統・閃光弾≫!」

 魔術を唱えた瞬間、ウェンディを中心とした周囲一帯が一気に光に包まれる。

 突如強烈な光に包まれた狼たちは、目がくらんでいるのかふらふらと倒れそうになっている。

 狼が動けないことを確認すると、鞘の剣を握り一気に距離を詰めると同時に、狼の首筋を狙って斬撃を放つ。

 1頭、また1頭と狼の頭を落とし、閃光弾の効果が残っているうちに狼6頭をどうにかすべて倒すことができた。

「…はぁ。この身体、すぐ息が上がっちゃう…。もっと鍛えなきゃ。」

 おもむろに手に持っている剣を見ると、血がべっとりついている。

(これはもう斬れないなぁ。帰って手入れしなきゃ。)

 倒した狼はやはり魔物だったようで、地面の血を残して消えてしまう。

「そういえば、魔物は倒されると魔素になって消えちゃうんだっけ。」

 剣を思いっきり振り下ろして剣についた血を払い、鞘にしまう。

 そのあとは、どうやって帰ったかわからないけど、気が付いたら屋敷のベットで寝ていた。

 朝起きて、急いで服を脱いで剣の刀身をぬぐうと、いつも通り本棚の裏にしまう。

 周りを見渡し、まだ空が暗いことを確認すると、もう一度ベットに入って意識を手放した。

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