27話 喧嘩
「……。」
「……。」
静まり返った店内で、ウェンディとロッティがそれぞれ銃のハンマーを起こしたり引き金を引いたりしている。
リリーは今日はおらず、宿屋で待っている。
一通り動作を確認してから、銃をカウンターに置く。
「…すごいね。私がこれを手にしたとき以上です。」
「同じく。新品で買ったけど、やっぱりしばらく使ったら掃除しなきゃダメなんだね。」
2人のその言葉をきいて、エルザは胸をなでおろして安堵の表情を浮かべる。
「そうか。現役の旅人が満足できるほどのものを仕上げることが出来て、私もうれしいよ。」
カウンターにはエルザだけで、ケントの姿は見えないが、店の奥から気配はするため、何か作業でもしてるのだろう。
「エルザさん、もう一つお願いがあるんですけど、いいですか?」
「ん?何だい?私にできることならなんでもいいよ。」
「私に、銃の稽古をつけてくれませんか?」
「…銃、射撃ということかな。もしくは、銃の整備についてかい?」
「その両方です。」
ウェンディは、カウンターに置かれた銃を手に持って少し眺める。
「私は銃はあまり得意じゃなくて、剣だけをやってきてそのあとに魔術を学んだので、銃だけはあまり使ってこなかったんですよね。」
「…しかし、現役ミスリルランクの君に元ゴールドランクの私が何か教えることが出来るかはあまり自身がないな。」
「銃だけでゴールドランクまで登り詰めたエルザさんに、銃や剣に魔術まで使ってミスリルになった私が銃だけで勝てるわけないじゃないですか。経験と技術は、感覚だけではどうにもなりません。」
「…そこまで言うなら、いいだろう。私から盗めるモノは盗むといい。ケント!すまないが店番を頼んでもいいか?」
「ハイハイ。出かけるんですか?エルザさん。」
奥からエプロンをつけたケントが出てきた。汚れ方から見てガンオイルの汚れだろう。手に付けた白い手袋も黒く汚れている。
「ああ。少し出かけてくるよ。」
鞄に銃弾と火薬を入れてカウンターを出てくる。
「善は急げだ。草原に行こう。私のドラグーンも、久しぶりに暴れたがっている。」
そういうエルザの顔は、少し笑っているように見えた。
目が見えないと聞いていたエルザは、物にぶつかるどころかすんなりと町を歩きぬけて平原に出た。
平原に出てもしばらくあるいて、周囲に魔獣の気配が感じられないくらいの場所についた。
一本だけ生えた木の枝に鞄を掛けると、少し離れてからウェンディとロッティの方を向き直った。
「…魔術を使っても構わない。とにかく私に一発でも当たれば、訓練終了だよ。私は、このシリンダーに入っている6発しか使わない。」
「1人ずつですか?」
「一気に来てもいい。だけど、あまり撃たないことを勧めるよ。」
「じゃぁ、一気に行こう。ロッティは魔術使って私は前衛。」
「了解。」
「話し合いは済んだかな。それじゃぁ、かかってきな!」
エルザの声と同時にウェンディがすぐに銃を抜いて最初の一発を放つ。
放たれた弾丸がまっすぐエルザに向かって飛ぶが、避けるどころではなく、まっすぐウェンディの方に突っ込んでくると、一気にウェンディの懐に入り、後ろに突き飛ばしてウェンディを地面に背中から倒す。
「かはぁ!」
倒されたウェンディは立て直そうとした瞬間、眉間にハンマーを起こした銃を突きつけられる。
「2人とも、これで終わりだよ。」
そういわれて横を見ると、さっきまでウェンディの右手に握られていた銃をエルザが左手に握り、ロッティの喉元に銃口を突きつけている。
一瞬の出来事だった。
ウェンディが倒されてエルザがウェンディの銃をロッティに向けるまでに、ロッティはドローすることもできなかった。
「相手が銃だけを使う相手の場合は、最初は一発撃つよりも先に自分の位置を変えた方がいい。もう一度やろう。」
そういって、左手に持ったウェンディの銃のハンマーをハーフコックに入れてシリンダーのさっき撃ったチャンバーに合わせてハンマーを戻してからウェンディに返す。
そこから何度も何度も、エルザと2人のレッスンは続いた。
ある時、始まった瞬間に2人ともが同時にお互いの方向に動いてしまったせいで、正面からぶつかって地面に転げた。
「いったいな~!!なんでこっち来るのよウェンディ!」
「ロッティこそなんでこっち来るの!!さっきもこっち来てたじゃん!次は後ろでしょ!!」
「ウェンディこそ2回前もこっち来てたじゃん!ここは2人で右に行くんじゃないの!?」
がっつり喧嘩が始まる。
そういえばロッティと出会って5ヶ月弱で、初めて喧嘩になったのかもしれない。
下に倒れたウェンディに馬乗りになる形でロッティと言い争いになっている。
「ちょ、ちょっと2人とも、どうしたんだい?何があったんだい?」
離れたところにいたエルザが心配して駆け寄ってくる。
寄ってくるエルザに目もくれずに、2人は言い争いを続ける。
言い争いはしてるが、2人の喧嘩では一切手が出ず、ウェンディと馬乗り状態のロッティの言い争いが続く。
「ウェンディさっきから出だしでダメダメじゃん!撃ちながら動かなきゃ負けちゃうのは目に見えてるでしょ!」
「シャーロットこそさっさと魔術付与して目くらましでもすればいいでしょ!相手が目が見えないなら爆音とかでさぁ!」
ウェンディも起き上がって、ウェンディの足の上にロッティが座るかのような形で言い争いが続く。
「シャーロットはいつも魔術の発動が若干遅いんだ!私の動きに合わせて早めに動いてよ!」
「ウェンディが早すぎるんでしょ!魔術の発動には時間がかかるんだから少しぐらいはこっちのことも考えてよ!」
「シャーロットこそさっさと前衛の事も考えて前もって発動の準備しといてよ!援護が遅れてやられるのは私なんだよ!」
「ウェンディはいっつも自分の事しか考えてない!自分が魔術も剣術も使えるからって、誰でもウェンディみたいに素早く発動できると思わないでよ!速度重視で威力を犠牲にしてるウェンディとは違うんだよ!」
「シャーロットは私の魔力が少ないのをわかってるの!?シャーロットみたいに強力な魔術を安定して使えるような魔力私にはないの!」
ずいぶんと言い争い、それを見ていたエルザはとても困ったかのような顔でオロオロしている。
息を切らしながらお互いの目を見つめていたが、そこまでのレッスンの疲れや言い争いの疲れで、ウェンディが後ろに倒れ込むと、その上からロッティが倒れ込んできた。
ウェンディの頭の横にロッティの頭が来て、ウェンディの上に乗っかる形でロッティが息を切らしている。
「……ごめんね。言い過ぎちゃった。」
ロッティがぼそっと、耳元でささやいた。
「…私こそ、ロッティの事見てなくてごめんね。それからは気を付けるよ。」
「……うん。」
しばらく息を整えてから、起き上がって草原の葉っぱをはらい、エルザに謝罪をする。
「いきなり言い争いをしちゃってごめんなさい。もう一度お願いします。」
「あ、あぁ。大丈夫なのかい?怪我とかはしてないかい?」
エルザは、本当に優しい人なのだとわかった。
夕方の日が落ちるまで訓練をして、後半にはエルザにウェンディとロッティの弾丸が掠めるくらいにはなっていた。
もう夕日が沈みかけているころに、エルザが2人に合格の一言を言ってレッスンは終わった。
エルザを銃砲店まで送ってから、2人は少し気まずい雰囲気の中、宿屋に向かっている。
「…ねぇ。リリーを連れてどっかでごはん食べない?いつもと違うところで。」
「……そうだね。私もそう言おうと思ってた。」
そのあとは、宿屋でリリーを呼んでから今まで行ったことのないレストランで食事をして宿屋に戻った。
リリーには泥だらけな理由や、今日は何をしてたのかなど、散々聞かれたが、2人とも銃の訓練を受けていたとだけいい、初めて喧嘩したとは、一言も言わなかった。理由は、なんとなく、言うような内容じゃないとおもったからだ。
とはいえ、問い詰められて宿屋で2人とも自白してしまい、リリーには『喧嘩するほど、仲がいいとも言うでしょ。』といわれた。




