23話 理由
「で、お兄さんは誰?」
街の宿屋のウェンディ達の泊まる部屋。
ベッドに腰かけたり、壁にもたれかかっている3人の前に、部屋の真ん中で椅子に座っている太った男。
「お、おれはカルノー。この町の冒険者ギルド所属のシャーマンだ。さっきの2人は、僧侶がシエラ。剣士がヴォルフだ。」
「いや、あの2人については聞いてないんだけど…。」
「シャーマン?珍しいね。でもシャーマンじゃ冒険者は結構難しいんじゃない?」
「あぁ。シャーマンには最近なったんだ。精霊なんてほとんど使えないし戦闘もできない。」
「じゃぁ元の職業に戻れば?それなりに強いんじゃないの?」
椅子に座るカルノーは、バツが悪そうな顔で話している。
ロッティとウェンディが顔を合わせながら、カルノーに尋ねる。
「…今は、無理なんだ。旅先で呪いを掛けられてしまって、すべての人がおれのギルドカードを確認できなくなったんだ。おれ自身も含めて。」
「呪いね~。で、あの僧侶とはどこで出会ったの?」
「彼女とはこの町に流れてきたときに出会った。彼女はあの時初心者冒険者で、この町に移動中のキャラバンが盗賊団に襲われたとかで、行くあてもないままこの町で途方に暮れてたんだ。そこを俺が拾って、2人で廃墟に住んでた。おれは今でもその廃墟にいるけどね。」
「え、廃墟に住んでるの?」
「ああ。まともにクエストを受けられないから、宿代を払えるほどの金もないから。」
驚く3人をよそに、カルノーは話をつづけた。
「しばらく2人で子犬探しや巻き割りや魔獣の解体をしていたんだ。だけど、それまでに行ってきた鍛錬やクエストで魔力も上がり、治癒魔術もちゃんと使えるようになったころ、そのころブラスランクだったヴォルフが、初心者冒険者たちの育成を目当てに自分たちのパーティーで初心者冒険者を連れてクエストに行くと声をかけてきた。」
ウェンディはそこまで聞いた段階で、もうオチが見えた。
正直聞きたくない気持ちで一杯だった。
椅子に座りなおし、背もたれにかけられた剣の鞘が椅子にぶつかる音だけが部屋に響く。
「彼女は最初こそ嫌がっていたけど、成長のためにもおれが行くように促して、同行することになった。それが、1か月ほど前だ。」
周りを見るが、リリーは若干嫌な予感があるのか顔をしかめ、ロッティはわかっていないのか普通の顔をして聞いている。
前世の文学作品でよくある展開、時代の進んだ前世の世界でもよく見かけた略奪愛とかいうやつだ。男が悪い場合もあれば女が悪い場合もある。男2人で女を取り合う場合もあれば女2人で1人の男を奪い合うこともある。どれもあまりいい結果になる未来などない事がほとんどだ。
「最初の2週間ほどは、寝床に戻ってきていたんだ。しかし半月ほど前から戻ってこなくなった。そして、彼女を町の中で見つけ、ついて行ってみたら、あそこを見つけてしまった。」
話し終えたのか、カルノーは黙り込んだ。
話を聞いていた3人の中で、この話の結末を予想で来ていた2人は、「そういう結末だよなぁ」といった顔をして、予想できていなかったロッティは、なぜか口元をおさえて驚いている。
「一つ聞きたいんだけど、私はギルドランクについて詳しくなんだけど、そのブラスランクというのは高いの?」
リリーが周りを見渡しながら、素朴に疑問を問いかけた。
「ブラスってのは真鍮、ランク的には下から3つ目のランクになる。」
「冒険者ギルドのランクは、冒険者ギルドの加盟国はすべて共通で、一番下はオブシディアンから始まって、ブロンズ、ブラス、シルバー、ゴールドと上がっていく。ゴールドの上にはプラチナ、ミスリル、アダマンタイトがあって、アダマンタイトが最高ランクになってるよ。昇級には、規定回数対応した難易度のクエストを達成することとか魔獣の討伐とか、条件があるんだよ。」
「一応一番上にアダマンタイトとミスリルがあるが、世間ではそこまで到達できる冒険者はいなく、実質の最高ランクはプラチナランクといわれてる。ギルドカードが確認できなくなる前は、おれもゴールドクラスのそれなりに名の通った冒険者だったんだ。」
首にかけられた金と銅の文字が書かれた金色と茶色の2本のネックレスを見せながら少しドヤ顔をする。
そこで気が付いたのか、リリーがウェンディとロッティの方をみて聞く。
「ウェンディとロッティって、ギルドカード持ってなかったっけ。2人は何ランクなの?」
「え、2人とも冒険者なのかい?」
リリーとカルノーが2人の方を見てくる。
ロッティはじっとウェンディの方を見てきていた。
「…別に大したランクは持ってないよ。それより、カルノーはこの話をして何がしたいの?」
「そうだね。こんだけ話して、何がしたいの?結局。呪いの解呪?それともそのシエラって人を取り戻したいの?」
ロッティもこっちの意図に気付いてくれたのか、話題変更に乗ってくれた。
カルノーが少し驚いたようにそっちの話題に乗る。
「…おれとしては、この町の事はよくわからないのだけど、あのヴォルフという冒険者が信用できないんだ。呪いも解きたいが、それよりもだまされて人生を壊されるのを見てるだけなんて耐えられないんだ…!」
少し泣きそうになってるカルノーを見ながら、ロッティが首をかしげる。
首をかしげているロッティに気付きながら、話題を変えるためにお金の入った袋を取り出すウェンディ。
「リリー、カルノー連れておかみさんのとこ行ってきて。カルノー、今日はこの宿に泊まりな。明日、冒険者ギルドに行っていろいろ情報を集めてみよう。今日はギルドカードが共通化を聞きに行っただけだし、挨拶もしたいしね。」
「わかった。行ってくるね。」
「いいのか?お金も出してくれて…。」
「一応それなりに旅をしてきた冒険者だからね。お金はそこそこ持ってるから気にしないで。それに話を聞いた以上は無視することはできないし、寝床とやらに行かれちゃ探すのが大変でしょ。」
「そ、そうか……。」
「ほら行くよ。」
リリーに連れられて、カルノーが部屋を出ていく。
2人だけになった部屋の中で、ロッティがウェンディに呼びかける。
「ねぇ。カルノーの呪いって…。」
「うん。媒体があるね。あんなわかりやすい媒体の呪いとは、簡単でいいじゃない。」
「どうしたんだろうね。あんなの。」
「さぁ。拾ったんじゃない?」
煙管を咥えるウェンディと、窓を開けて外を眺めるロッティ。
町の風景を見ながらロッティがボソッとつぶやく。
「この町も、なかなか個性的な街並みだよね。」




