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20話 魔人の村

 ゲルマニアを出て1年と4か月半。

 ウェンディ達は山頂でテントをモトルに積み込んでいた。

 ドラゴンとの闘いで負傷したウェンディの傷がほとんど癒えたことで、ようやく旅の再開だった。

 先に積み込みを終えていたウェンディは、スタンドで支えたモトルに座って煙管を吸っている。

「…正直その煙管に助けられたよね。」

「何が?」

「その煙管で焚いてるハーブ、最初は体力とか魔力の回復効果だけだと言われてたけど、傷の回復もできるなんてね。回復できるものは少なくても、少しずつ傷を癒してくれてたから、ただ治癒魔術を掛けるよりもずいぶん傷の治りが早かったんだよ。」

「そうなんだ。治癒魔術は使えないからいまいちそういうのはわからないんだよね。」

 話しながら荷物を積み込んでいたロッティも積み込みを終え、モトルに乗り込む。

 それを見てから、煙管に入った葉を捨てて、懐に煙管(きせる)をしまってからモトルに乗り込み、後ろにリリーが乗る。

「それじゃぁ行こうか。」

「うん。ウェンディ無理しないでね。」

「わかってるよ。何かあったらすぐ伝えるよ。」

 2台ともギアを入れ、山を下り始める。

 森の中を走り抜けながら、山を下っていく。

 谷を越えて川沿いを走り、抜けられそうなポイントで川を越え、山麓をゆっくりと走る。岩が多く道とは呼べないような山麓の一角を、2台のモトルが走る。

「もうすぐ、魔人の集落があるはず!」

「こんな険しい山の中にある集落なら、今まで人間に見つからなかったのも納得できるね。」

「ほんとに険しいねこの道…。」

 がたがたと道が悪い中を、サスペンションのないモトルで走るが、衝撃がもろに乗っている人の尻に直撃してくる。

 少しでも段差の少ない場所を選んで走るが、どうしても獣道ですらないような道は、3人を攻撃しているようなものだった。

 そんな道を走り続けて少し山を登ったところで、ようやく少し開けた場所に出て、地面も踏み慣らされた道になる。

「ここをまっすぐ行けば、多分集落だよね。」

「多分そう!このままいけばあるはず!」

 しかし、走って見えてきたものは集落なんかではなく、ただの廃墟だった。

 村の入り口を通って村の中に入るが、はやり誰かがいるようには見えなかった。

 村の中心部でモトルを停めると、ウェンディの後ろに乗っていたリリーは唖然とした顔してモトルを降りると、周りの家を見回り始める。

 入り口の近くで家を物色していたロッティのモトルがウェンディの横に停まると、2人ともモトルを降りてスタンドを立てる。

「……ここ、調べたけど襲われたのはつい最近みたいね。燃えた後とか撃ち込まれた弾丸がまだ新しいし、燃えた家の地面は少しあったかかった。」

「…誰がやったのかわからないけど、もしこれが人間がやったのなら、人間ってのは、ずいぶんと自分本にな生物なんだね。」

「それ、私たちも自分本位って言ってるよ…。」

「否定する気はないね。」

 モトルに寄りかかり、煙管を咥えるウェンディとその横に立ったロッティは、呆然とした顔のまま集落の家を物色しているリリーを見つめている。

 特に手伝う様子はない。

 2人は、リリーが何を求めて何を探しているのか、それすらも一切わからないからだ。

「ロッティ、私も少し村の中を歩いてみるよ。」

「私も行く。ちょっと見て回りたいから。」

 2人はモトルを離れて村を歩いて回る。

 燃えた後の村を歩くが、どう見ても生き残りがいるようには見えない。

「これ、生き残ってても連れ去られたんじゃ…。」

「リリーを引き取った時の奴隷商人も、魔人は高く売れるって言ってたもんね。でも死体がないのはなんでだろう。」

「燃え尽きた?にしては骨まで朽ちるほどの火が出たとしたら家が残ってるのも変じゃない?」

「逃げれたのかなぁ。」

 村の中を見渡しながら歩くが、家が燃えた匂いがかすかに立ち込めるだけでそれ以外には何もなかった。

 モトルを停めた広場に戻ってくると、リリーはまだ物色を続けている。

 煙管に火を入れて見守るウェンディとその横でただ黙ってウェンディと同じように見つめ続けるロッティ。

「……今日はここで野営しよう。もう日も落ちてきた。」

「…そうだね。じゃぁテント張ろうか。」

 ウェンディがモトルの荷物からテントを取り出して組み立て、ロッティが焚火を焚いて夕食を作り始める。

 旅での食事といえば、この2人からすればスープが定番だ。少なくてもいいし具材も適当に放り込んで煮込めばいいから、ちょうどいいのだ。

 少しして、リリーが暗い様子で戻ってくる。

「お帰りリリー。どうだった?」

 ウェンディが問いかけても、リリーは何もしゃべらずに焚火の前に座り込んだ。

 2人とも目を合わせながら、リリーにスープを差し出した。

「リリー、とりあえずご飯食べよ。」

 小さくうなずいてスープをすするリリーを見守るウェンディと、スープをよそって座るロッティ。

 カップに口をつけようとすると、その場でウェンディは動きを止めた。

「……。」

 ほかの2人には何も聞こえなかったが、ウェンディの耳には村の外から聞こえてくるホルスターが足にぶつかる音と靴についた拍車がカラカラとぶつかる音が届いていた。

「…2人とも、すぐにテントに入って。誰か来る。」

 真剣な顔立ちで、手に持っていた煙管を消してしまい、脇に置いていた刀を腰に差して立ち上がるウェンディを見ながらいそいそとテントの中に入るリリーとロッティ。

 すぐに火の光が届く範囲に男たちの集団が現れる。風貌は完全にアメリカンカウボーイといったところだ。

 焚火の方を向いていたウェンディに対して、男たちの先頭に立っていた小太りの男が話しかけてきた。

「あんた、何モンだ?こんなところで何してる。」

「いきなり何モンとはずいぶん荒っぽいな。まぁ答えない理由はない。私は旅人だ。欧州のガリアからやってきた。」

「じゃぁもうひとは?モトルは2台あるんだ。最低でももう1人いるんだろ。」

「あぁ、もう1人も同じ旅人さ。もう1人とはブリタニアで出会ってここまで旅をしてきた。」

「ふ~んそうか。まぁこんなところで夜を迎えた自分たちを恨むんだな。」

 その言葉と同時に、後ろに控えていた男たちが周りを取り囲む。

 全員が腰から拳銃を抜き、ハンマーを降ろす。

「お前さんは見た目もいい。ずいぶんと高く売れそうだ。こんな子供で旅をしてるんだ、どうせ大した家の出でもないだろう。」

 集団のリーダーらしき男は、周りの男たちに目配せで何やら合図を送る。

 周りで銃を構えた男たちは、テントの方をちらちら見ているが、刀の鞘を左手でつかみ、右腰に提げた拳銃の近くに右手を持ってきているウェンディに警戒を強める。

「あまり抵抗するなよ。商品の価値が下がる。」

 にやにやと笑う小太りの男は、ウェンディへの投降を勧告してくる。

 その言葉を聞いて、少し感じることがあったウェンディは、両手を武器から遠ざけて、男に話しかける。

「一つ聞きたい。この村のことを知っているか?」

「あ?この村だと?ああもちろんだ。盗賊に襲わせて逃げる魔人どもを捕まえたのさ。老人や抵抗するやつは殺したが、それ以外のやつは捕まえて売り飛ばすのさ。欧州の悪趣味な貴族どもには高く売れるんだ。」

「そうか…。それを聞いて、安心したよ。」

「安心だァ?なんだ気でも振れたか?安心しろ、お前みたいな娘は高く売れる。」

「……哀れな男だな。」

 ボソッとつぶやくと同時に、体を前に倒して魔術を唱える。

「≪風系統・超加速≫」

 風の力で加速されると同時に腰の刀を抜刀し、周りを取り囲んでいた男たちを切り伏せる。銃を抜いていようとも、懐まで高速で寄られてしまえば銃で刃物に対処することはできない。

 一気に周りの護衛を殺された小太りの男はうろたえている。

「な、なんだお前!何者なんだぁ!!」

 うろたえている小太りの男に刀を持って近づくウェンディ。

 歩み寄りながら、もう1人いることに気づき、足を止める。

 感じる気配は、剣士やカウボーイではなく、魔術師のものだった。

「ん?おまえ、魔術を使うのか?」

「ああ。魔術も使えるよ。」

(≪火系統・火炎剣≫)

 頭の中で魔術を詠唱し、手に持った刀に炎をまとわせる。

「敵?敵なら攻撃しなきゃいけなくなる。」

「敵になるんだろう。俺はお前たちをさらうつもりで来たからな。」

「それなら、仕方ない。」

 さっきかけた超加速の効果で、瞬時に魔術師の懐まで近づき、下段から刃を振り上げるが、直前で見えない壁のようなものにはじかれる。

 何も見えないウェンディに、魔術師は手のひらに風を発生させ、振りかぶってその風をウェンディに飛ばしてきた。

「くッ……。」

 素早く飛んでくる強力な風をよけるが、風相手にはすぐに追いつかれ、刀を風に当てて破裂させるが、その反動で後ろに飛ばされる。

 後ろに倒れそうになりながら魔術師を睨みつけると、こんどは詠唱を始めた。

「≪風系統・空気弾≫!」

 さっきよりも鋭い空気の弾がウェンディめがけて飛んで来る。

 地面に刀を突きさし、右手で拳銃を抜いてハンマーを降ろす。

「≪雷属性・付与雷弾丸(らいだんがん)≫!」

 雷を付与させた弾丸を相手の空気弾にぶつける。

 前世で撃ったこともなければ銃の心得もないウェンディだが、剣の中で培った反射神経と動体視力のみで引き金を引く。

 6発撃ち尽くすと、銃身を外してポーチに入った弾丸が装填されているシリンダーを取り出し、弾の装填されているシリンダーをつけて銃身を戻す。本来ならねじを外さないと取れないが、ウェンディの母ソフィの手により、より戦いに向けてカスタムが行われている。

 しかし、いくら素早く装填を行えたところで、飛んでくる空気弾の速度にはかなわない。

 何もないところで戦っていたウェンディは、銃でけん制をしながら家の陰に移動し、ポーチからシリンダーを1つ取り出した。

「…埒が明かないし、このままじゃ……。」

 シリンダーを握りながら、手の平に魔力を集中させる。

「≪無属性・付与魔術(エンチャント)≫≪火系統・火炎龍≫…。」

 魔術を2つ唱え、シリンダー内の6発の弾丸に魔術を付与すると、一気に身体が重くなるのを感じる。

 シリンダーを握る手から力が抜け、地面にシリンダーが落ちる。地面に落ちたシリンダーには、赤く光る刻印が浮かび上がっていた。

「……さすがに、もう魔力が厳しいか…。」

 剣と銃と魔術を扱うウェンディは、オールマイティな戦士のようであるが、その一方で魔力量は平均より若干少ない。付与魔術と雷弾丸はそこまで魔力の消費量が多くないとはいえ、連続で何発も使用すればウェンディの魔力量ではすぐにガス欠になってしまう。

 そこで、一発ずつ付与魔術をしないで、前もって付与をすることで、魔術付与から引き金を引くまでのタイムラグと魔力使用量を減らす目的だった。

 今銃に装填されているシリンダーには残弾が3発、魔術付与をしたシリンダーを握りしめたまま、陰からでて銃を構えた。

 魔術を打つのをやめていた魔術師は、出てきたウェンディを睨みつける。

「…そろそろ魔力がなくなってきたか?」

「……なぜそう思う?」

「お前は、魔術をメインに使っていない。どれも剣や弾丸に付与してつかっていた。魔力量に問題が無ければ、そこまで武器には頼らないだろう。お前は、魔力量に自信がないから、そうして飛び道具は使わないだろう。」

「そう思う?試してみれば?」

「そうするとしよう!」

 魔術師はまた空気弾を発射してくる。

 残った弾丸は3発。

 確実に当たらない軌道の弾は無視し、近くを通りそうな弾をよけつつ直撃コースのみに銃弾を当てて破裂させるが、何発かは肩や腕をかすめる。

 避けながら3発撃ち終わると、地面をけって横の家の陰に隠れるように動きながら、素早く銃身を外してシリンダーを交換する。

 外したシリンダーをポーチにしまいながら銃身を戻してハンマーを起こして壁から出る。

 変わらず空気弾を撃ってくる魔術師の攻撃をよけるそぶりも見せずに、魔術師に銃口を向けて引き金を引いた。

 放たれた弾丸は、回転しながら発火をはじめ、その炎は爆発的に巨大化しながら周囲の空気弾を燃焼材にしながら威力を増し、魔術師に到達した。

「…こんな魔術を……。」

 魔術師のいたところを中心にして、周囲の酸素を消費しながら一気に火柱形成しながら周囲を燃やし尽くした。

 ウェンディの目線からすれば、完全に魔術師は燃え尽きたように見える。

「……。」

 銃をおろして体を右に向けたとたん、何かがウェンディの左肩を貫いた。

「っ…!」

 突然の痛みに膝をつき、銃を握る右腕で左肩をおさえ傷口に目をやると、そこには血とは別に水滴がこぼれていた。

「…水、水滴を飛ばしたか。」

「よくわかったな。」

 魔術師を包んでいた火柱は、すぐに魔術で作られた水によって消される。

 さっきまで風系統を操っていた魔術師は、今度は水系統を使っている。

 複数系統を操る魔術師は、実際かなり少ない。ウェンディは6系統すべて使えるとはいえ、得意な系統も存在し、それが火系統・雷系統・土系統の3系統であり、後の水・風・闇はそもそも得意どころか2階級すら安定使用できるかあやしい。

 複数系統を同時に扱うときは、その系統ごとの魔力の質へ変化させなければならないため、同時に高い階級の魔術を使うのはかなり練習を積んで魔力を変質させる訓練が必要だ。

「お前はさっきから火系統を使っている。なら水系統はお前の天敵だ。」

「……。」

 膝をついていたウェンディは、もう一度立ち上がって銃を構える。

 ゆっくりハンマーを起こそうと親指をハンマーにかけると、後ろから声が飛んでくる。

「水が火の天敵?本当にそう思う?」

 投げかけられた言葉と同時に、魔術師を大量の火の玉が高速で襲った。

 ウェンディが振り向くと、メイド服の少女が立っていた。

 ロッティだ。

「≪水系統・水鉄砲≫!」

 火の中から水の弾がロッティに向かって飛んでくる。

 ロッティめがけて飛んでくる無数の水の弾を、よける様子もなく腰の銃も抜かないで右腕を突き出して魔術の詠唱を始める。

「≪火系統・火炎球≫。」

 空中に現れた火の球はロッティの魔力で大きくなりながら魔術師に飛んでいくが、同時にいくつもの火炎球が現れ飛んで行く。

 魔術師の放つ水の球はすべて火炎球の熱で蒸発し、魔術師が張っていた水と風の結界を破壊して魔術師を焼いた。

「ぐぁぁぁぁぁああああああ!!!」

 火だるまになっている魔術師をよそに、ウェンディはそっと魔術師の視界から外れ、周りを見渡しながらさっきの小太りの男を探す。

 ロッティもその動きを視界の端で見ながら、魔術師を睨む。

 のたうち回りながら水系統の魔術で火を消すと、焼けたローブを脱ぎ捨て焦げた皮膚を引っ張りながら立ち上がる。

「相手が水だろうと、火に勝てないものはない。私の炎はすべてを焼き払う!」

 そこには、いつもウェンディの後ろに立ち、モトルで駆けながら旅をするいつものロッティではなく、魔術師のロッティが立っていた。

「ハァ…、ハァ…。お前、どこの魔術師だ。ライアンにこんな魔術師がいるなんて、聞いたことがないぞ。」

「私はこの国の魔術師じゃない。ウェンディと一緒に、欧州から来た旅人だよ。私の出身はブリタニア。私はブリタニアの魔術師。新興国の魔術師に私が負ける要素なんて一つもない!」

 ロッティが右腕を空に向けてあげると、魔力が集まってくる。

 集まってくる魔力はそのまま炎に変換されて、火の球を形成していく。

「死ね。私たちに挑んたことを後悔しながら。」

「……。」

 魔術師は空中の巨大な火の球をただ茫然と見ている。

「≪火系統・焦熱球(しょうねつきゅう)≫」

 ロッティの真上に展開されていた焦熱球は、ロッティの腕が前に振り下ろされると同時に魔術師に向かって飛んでいく。。

 皮膚が焼かれ、身体が硬直した魔術師は、ただそれを見続けた。

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 魔術師の叫び声は、焦熱球の燃える音に、焦熱球は魔術師に直撃して周囲に熱波と爆風を発した。

 爆風を受けて裾を揺らしながら、ロッティは突き出された腕を下げた。

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