1話 女神との出会い
「お疲れさまでした。」
目が覚めた時、私は真っ白い空間にいた。
周りを見渡そうとしても、体も視界も動いているのか全く感じられない。
「そのままでお聞きください。まず最初に、貴女は亡くなりました。それは自覚されていますか?」
(自分が死んだのは自覚してます。私は死んだのだと、あなたに言われて最後のピースがはまった感じがします。とりあえず、私は輪廻に基づいて転生するんですよね。)
声を出しているという感覚はない。
だけど、心で念じることでそれがこの相手には伝わっているようだ。
「そうです。貴女はこれから輪廻転生の輪に乗って新しく生まれ変わります。ですが、その過程で前世の記憶などはすべてなくなります。」
(そうですか。では心機一転新しいことでも始めてみようかな。)
「いえ、貴女には選択する権利を与えると協議の結果決定しました。理由としまして、貴女のその才能は、神々でも意図的に引き出すことは難しいからです。才能には、神々から与えられる才能と自分自身にもとから備わっている性格的な才能が有ります。神々からの才能は本来備わった才能によって引き出されるものがほとんどであり、その才能は、そのままでは本領を発揮しにくいのです。今回の場合、貴女には神々から様々な才能が与えられました。そのうちのいくつかが剣や格闘技などです。それらは、鍛錬を行い成長させねば意味のない才能ですが、あなたは努力する才能があった。」
(つまりは、私はかなり低確率のものに当選したくらいの認識であってますか?)
努力する才能なんてものは、誰にでも備わっている気がするけど、神様からしたらそうでもないのかな。
「その通りです。それらの才能と、その年ですでに人類の極致まで至っていたという事実を踏まえて、あなたにはいくつかの選択肢が用意されています。」
(選択肢ですか。二択ではないんですね。)
漫画とかアニメだと、こういう時は大体二択くらいなのに、この世界の神様ってやつは相当人手不足なのかもしれない。
「一つ目は、本来の輪廻の流れに戻るものです。記憶をなくして、赤ん坊として一から成長するのです。二つ目は記憶を残して輪廻に戻るものです。武道の記憶や、ほかにも様々な記憶を残した状態で現代社会に戻っていただくものです。三つ目は、この空間にとどまるものです。この空間にとどまって、神々の尖兵として天使になっていただきます。四つ目は記憶をなくして異世界で生活するというものです。あまりお勧めはしませんが、ご希望ならその道を選んでください。そして最後は、我々が推薦するものです。異世界に記憶などを残したままに、赤ん坊として生まれていただくものです。以上の5個の選択肢から選んでください。」
5個の選択肢のうち、自我が残ったまま自由に過ごせるとしたら2つ目と最後だろう。
その瞬間、今までの現代社会での嫌な思い出がよみがえった。
かわいい小物も持てず、友達とどこかへ遊びに行くことも許されなかったあの、ただずっと武道に向き合い続けていたあの日々。
(…記憶を持ったまま、異世界に行きたいです。)
「それを選びますか。では転生にあたって、何か希望がございますか?例えば、貴女は前世で女性だったようですが、次の世界では男性になりたいや、強力な力が欲しい。さらに強力な魔力が欲しいなどの願いなどでしょうか。あ、現在の才能を消してほしいなどはやめてくださいね。そうしないと貴女を転生させる意味がなくなってしまいます。」
(いくつか質問いいですか?)
「はいどうぞ。」
(では最初に、異世界への転生は私が初回ではないですよね?私は何人目ですか?)
しばらく黙り込んでしまう。
「…どうしてそう思ったのですか?」
(私が初回というのはどうにも納得できないんですよ。私以上の才能を持った人なんてザラにいるのに、私だけがこのような話を受けるのは腑に落ちないんです。)
「なるほど。では答えましょう。確かに過去にも転生者はいました。ですが、全員がもともと高齢だったという原因も含めて異世界に適応できず、若いうちに剣を置いたりその命を落としたりする方がほとんどという結果になってしまいました。ですが、若い才能のある方を無理やり殺めることはできませんので、どうしたものかというときにあらわれたのが貴女です。」
(それは高齢が問題なのではないような感じがするのですが…。)
視界の中なのか思考の中なのか。認識の中にパソコンのブラウザのような画面がいくつも出てくる。
「転生に際し、今までとは違う試みとしてご自身の才能やスキルと別に、転生のボーナスというものを設けているので、どれか選んで転生後の世界にお持ちください。なお、転生後の世界では胎児からのスタートですので、認識できるとしたら1歳後半から2歳ごろが最初だと思われます。生まれる家も貴族と平民で選べますので、そこもご考慮ください。」
表示される内容を読んでいると、エクスカリバーにアスカロン、クラン・ソラスなどの剣から、魔法に使うのか杖なんかもあり、強力な魔力や不老不死なんてのもある。
しばらくしてすべての文面を読み終えると声をかける。
(とりあえず、魔力は欲しいですね。魔法が使える世界なら魔法は使ってみたいですし、あと、もっと強くなりたいです。今までは女性での成長の限界の壁を感じていたのですが、異世界に行って魔法を使うんなら、限界のない体が欲しいです。あ、最初から最強とかはやめてください。それでは面白くないんで。)
「ではそのようにしましょう。いらぬお世話かもしれませんが、成長速度増加の加護をわたくしから与えましょう。武器はいらないのですか?」
(ありがとうございます。武器は結構ですもらったところで使えないですし。あ、転生先はできれば貴族でお願いします。平民から頑張るのもいいですけど、ある程度の環境がそろってた方がいいですので。)
「わかりました。では異世界での生活頑張ってくださいね。」
そこからの記憶はなかった。
どれくらい時間がたったかわからないが、真っ暗な視界の中で急に視界に光が飛び込んでくる。
ぼやけた視界の中で、真っ白の光からオレンジ色に変わったと思うと、視界の目の前に人の顔が見えてくる。
(あぁ、もう現実世界には戻れないなぁ。でももう戻る気もない。絶対、今までの世界よりも楽しい世界のはずだから…!)
おそらく体があったのなら、涙を流していただろう。
今までの日々は、ずっと人を殺す術を学んできた。まるで暗殺者のような殺し屋のような生活のように感じてた。
今まで学んだ武道は、すべて人を殺すためのもの。
華道も茶道も殺し方を学んで揺れた心をただすためのツールにしか感じなかった。
経験だと海外の格闘技も学んだ。だけど、やはり心は揺れた。
人を殺すためのツールとしか見れなかったあの技たちが、今では少し懐かしくも感じてる。
いや、それはちょっと早いかな。
今は何より異世界がちょっと楽しみだなぁ。