14話 ニューモクムの日々
ゲルマニアを出て1年と3ヶ月。
2人はニューモクムに滞在していた。
この国について詳しく調べているうちに、反対側の海岸に出れれば、そこから東洋の国に船で行けるという情報を得て、2人がいる東海岸から反対側の西海岸に行く旅に出るため、資金調達をしていた。
ウェンディは周囲の魔物を狩ったり自警団の協力をするなどして資金を集め、ロッティは宿屋の1階の酒場で給仕の仕事を手伝って資金を集めていた。
「ロッティ、こいつを運んどくれ!」
「は~いママさん。」
調理場から出される料理をトレーに乗せて運んでいく。
テーブルに料理を運んでいると、客たちが酔った様子で話しかけてくる。
「ロッティはすごいなぁ!こんな小さいのに金を稼ぐために働いて!」
「俺たちがこれくらいの頃なんて遊びまわってたぞ!」
「ロッティは旅をしてるのよ。そのための路銀を稼ぐために一緒に旅してるウェンディと働いてるのさ。」
「だけどよぉマム。こんなちっこいのに2人ともしっかりしてると思わねぇか?2人そろって魔術も銃も使って、ウェンディに至っては剣も使って旅してるなんてよぉ。」
ガリアやブリタニアとは全く違った大人たちに、ロッティはいつまでも慣れず少したじろいでしまう。
その後もしばらく話が続いていると、周りのテーブルの客も話に入ってきてちょっとした大騒ぎになっていると、背後から声を掛けられる。
「楽しそうねロッティ。」
ウェンディだ。
今日は地元の冒険者と一緒に魔物の討伐に行っていたウェンディは、カウンターに腰かける。
「あ、ウェンディお帰り!」
「ウェンディちゃん帰って来たね?何か食べるかい?」
「いえ、帰り際に今日一緒に行ったメンバーと済ませてきてしまいましたので。お水いただけますか?」
「はいよ。」
ママが奥からコップに入った水を持ってくる。
目の前におかれる水を飲んでいると、横に座っていた男性が話しかけてくる。
「そういえばよぉ。ウェンディとロッティは欧州からきたんだよな。今はゲルマニアが周辺国家を仮想敵国としてるせいで船がほとんど出ていないと聞いてたけど、よく見つかったな。」
「運よくライアンの商船がちょうど国に戻ると聞いたので、乗せてもらってきました。その時の航海を最後に、しばらくは欧州には向かわないらしいですよ。」
「そいつは運がよかったな。まぁゆっくりしていくといい。ここもまだまだ発展途上だが、少なくともゲルマニアよりかは過ごしやすい国だぞ。」
「……。」
この国に来てから、ウェンディがゲルマニアで育ったことは伏せている。ライアンという国は、ゲルマニアの圧政を脱するために独立した国だから、いまだにゲルマニアに対していい感情がないのだ。
(この世界のアメリカは、もとの世界で言うところのドイツから独立したんだ。向こうではイギリスからの独立だから、やっぱり歴史は違うんだな…。)
そういう事情もあってか、欧州各国に対してここライアンは、明らかに工業基準が高く加工能力も高く見える。何よりこの国には魔導エンジンというものもあり、車やバイクといったものまで存在する。
「さてロッティ!今日はもういいよ!時間も遅いからね!」
「は~い。じゃぁまた明日!ウェンディ、上行こ!」
「うん。じゃぁ行こうか。」
ロッティに連れられて、ウェンディは階段を登って3階の2人が借りてる部屋に入る。
扉を閉じた瞬間、ロッティはベッドに倒れ込んだ。
「は~疲れた~!!」
「お疲れ様、ロッティ。さっさと身体拭いちゃいな。」
「は~い。」
服やガンベルトを置き、2人とも体を拭き、寝間着に着替える。
寝る支度を整えていると、外が騒がしいことに気づく。
「外、なんだろうね。」
「小火でもあったのかな。それかギャングが騒いでるのかもね。」
窓に近づかないようにしてベッドに座って話していると、急いで階段を駆け上がってくる足音が聞こえると、今度は部屋の扉をドンドンと叩かれる。
「ウェンディ!ロッティ!いるか!!」
この声は、この町で保安官をしている人物の1人の声だ。
「ちょっと待ってください。今開けますから。」
扉を開けると、傷だらけの制服を着て拳銃を持った保安官が立っていた。
「あぁよかった!君たちは無事だったか!すぐに来てくれ!君たちの力を借りたい!」
「力って、何があったんですか?こんな時間に。」
「最近、他の町から移ってきたギャングどもがほかの地域の魔物を連れてきやがった!なんで連れてきたかは謎だが、そいつらが町で暴れてるんだ!」
「あぁ、それで騒がしかったのね。分かった。少し待ってて。あとから保安官事務所に向かうから。」
「ああ頼んだ!俺は先に行ってるぞ!」
そう言い残し、保安官は階段を駆け下りていった。
扉を閉めて寝間着を脱ぐと、ロッティも着替えの用意をしていた。
「魔物かぁ。多分保安官や自警団では相手にならないかもね。」
「ここら辺の魔物と戦ってみたけど、多分私でも勝てるよね。」
「ロッティの魔術なら十分勝てると思う。この前教えた弾丸への魔術の付与をうまくできれば十分だと思う。」
一通り着替えを終えると、銃と刀を腰に携え、ロッティは腰の銃を取り出して弾丸を確認してから、予備のシリンダーに弾が入っているか確認する。
「じゃぁ、行こうか。」
扉を開け、階段を下った。
そんな中でも、外からは怒号や叫び声が響いていた。