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11話 魔術師の森

 ガリアを出て4か月。

 ゲルマニアを出て5か月半が経った。

「魔術とは、魔獣が使ったり、自然界において発生する災害の原因や災害そのものである魔法を、人間が自身の身体に持った魔力で模倣したものじゃ。魔獣であれば人間と同じく体内の魔力で、自然現象ならば大気中に存在するマナで現象を発生させる。」

 森の中にある小屋の外で、老人に魔術を教わる少女がいた。

 ウェンディである。

「君には、すでに自身の身体にある魔力の動きを扱う訓練をしてもらった。ここからは実践的な訓練をしてゆこう。」

 ゆっくりと木のかけらを3本地面に並べ、少し離れてから腕を突き出して魔術を唱える。

「≪火属性・火球(かきゅう)≫。」

 小さい火の玉は、真ん中の木のかけらに正確に当たり、木のかけらを弾き飛ばす。

「やってみろ。」

 弾き飛ばした木のかけらをもとに戻し、ウェンディにやらせる。

 老人が立っていた場所に立って、同じ魔術を唱える。

「≪火属性・火球(かきゅう)≫!」

 さっきのよりも大きな火の玉は、左右の木片を焦がしながら真ん中の木片を焼き消した。

「大きな力を持つものは、小さい力を扱うのに神経を使う。どんな魔術師でも最初はこんなものじゃ。むしろ、左右の木片を消し飛ばさないところは優秀とすら言える。魔術というものは使わなければ上達することもない。2ヶ月で魔力の流れをつかんだ君だ。1年とかからんじゃろうて。」

「先生、これからよろしくお願いします!」

 冬はあまり天気の良くないアルビオン島の空の下、毎日魔術の鍛錬を行ったウェンディは、気が付けば4か月、老人のもとで修業を積んだ。

 大きめの火の玉を連続で撃ってくる老人に、刀を抜いてすべて切り裂き、距離を詰めるウェンディ。

 近づけば土の障壁を張って行動を妨害してくる老人に、左手で拳銃を抜いて小規模な爆発呪文を弾丸に付与して撃ちだし、障壁を破壊すると、刀を振り下ろして老人の顔の横に刃を止める。

「…まいった。降参じゃ。強くなったな君も。」

「ありがとうございます!」

「まさかたったの4か月でここまで身に着けるとは。君ならば、より強力な魔術を扱うこともできよう。今の君なら、6階級の魔術も扱えるじゃろう。」

「まだ詠唱は必要ですけど、詠唱すれば問題なく発動できます。5階級までなら詠唱破棄して発生させる事もできるようになりました。」

「だが、忘れるなよ。詠唱とはその魔術を自分の中で納得するためのもの。初めて扱う魔術や威力の調整が必要な時は、詠唱して発生させる方が安定して発生させることができる。低い階級でも、イメージを持てていない使い慣れない魔術や、自分の中でイメージを構築することが難しい魔術は、迷わず詠唱をするのじゃ。」

「はい。分かりました。」

 ウェンディは、そこからさらに魔術の修行や、老人の研究の手伝いをしながら、そのまま3ヶ月を過ごし、合計7か月の月日をかけて、魔術を学んだ。

「君は、あの頃に比べてさらに強くなった。わしには、もう君に教えることのできる魔術はない。7階級までしか教えることのできぬわしを、許しておくれ。」

「いえ、十分です。多分、国に残っていれば5階級すらも扱えていたかわかりません。」

「そう言ってくれるか。君は、また旅に出るのかね。」

「はい。行きたい国が、西と東にあります。」

「そうか…。気を付けていってくるのじゃぞ。この国では、本来師匠のもとから弟子が旅立つ時には、杖を手渡す習慣があるが、君には必要ないだろう。」

 馬に荷物を括り付け、鞍に乗るウェンディに対して、老人はゆっくり近づく。

「先生、今までありがとうございました。これからは、世界の魔法を見てきたいと思います。」

「……世界は広い。わしは生まれて今までこの国を出たことはなかった。だが君は、生まれた国を出ていくつもの国を旅しながらこの国にたどり着いた。君ならば、わしがたどり着けなかった魔術と魔法の境目を、見ることができる。そう確信しておる。」

「先生……。」

()きなさい。わしから君に教えられることは何もない。この国のほかの魔導士に教えを請うのもいい。他の国で学ぶのもいいだろう。」

「先生、行ってきます…!」

 そうして、森の中の老人のもとを去るウェンディ。

 魔導士の老人のもとを離れたウェンディは、7ヶ月もの間修行を行った、ブリタニア人たちが「魔術師の森」と呼ぶ森の端まで来ていた。

 日が落ち、野営をしようと火を焚いて、フードをかぶって水でふやかした干し肉のスープをすすっていると、背後から物音がして顔を向ける。

 向けられた視線の先には、メイド姿の少女が立っていた。身長なんかはウェンディと近く、おそらく年齢も同じくらいだろう。

「あ、あのぉ。よろしければ食べ物と寝る場所を提供していただけませんか…?あ、お金は持ち合わせがないので、こちらでよろしければ……。」

 そういうと、メイド姿の少女は、スカートをたくし上げた。

「…!?」

 ウェンディは、すでに思考停止に陥っていた。

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