プロローグ
突然のことだった。
あと少しのところだった。
第41回全国高等学校剣道選抜大会。
小学校の頃に男女混合の全国大会で3連覇。中学でも全国大会女子の部で3連覇。そして高校進学後最初の全国大会。
準決勝を勝ち星で決め、小休憩を挟んで決勝というところで、コンビニに行くために渡った大きな交差点で、ブレーキとアクセルを踏み間違えた乗用車が横断歩道を渡る通行人たちの中に突っ込んだ。
ほかにだれが轢かれたはわからないけど、少なくとも突っ込んできた車のエンブレムと車のルームミラーは直線状に重なって見えた。
ぶつかった瞬間、私の視界には晴れ渡った東京の空と東京の喧騒が見えた。
地面に肩と額がぶつかって皮膚が削れる感覚。それに体全体が地面にたたき感覚が頭に届けられる。だけど、不思議と痛みの感覚はない。
目に飛び込んでくる景色は、ほかのはねられた人は腕をついて起き上がったり傷を抑えて叫んでいるところだった。
(あぁ、私死んじゃうのかな。惜しかったなぁ。あとちょっと、あと15分だけでいいから。私に竹刀を握らせて神様…。ここから10分で支度を終えて、今年の決勝の対戦相手は今まで何度か対戦したことがある選手だ。今までの感触から見ても、2分もあればだれもが納得できる一本を入れられる。だから神様、私の運命をあと15分だけ伸ばしてください…。)
でもその願いは届かなかった。
刹那に今までの剣道の修行や、一緒にやってた空手や柔道に合気道、弓道に薙刀といった武道のことを思い出す。
(あぁ、これが走馬灯っていうのかな。全然女の子らしい生活できなかったなぁ。でも、ちょっと解放されたっておもっやうのは私が悪い子だからかな。)
薄れゆく意識の中、倒れた人々に駆け寄る人々や、そのまま走り去ろうとする乗用車の運転手を引きずり下ろす通行人などの姿が視界の端っこで見えるが、その視界のほとんどはアスファルトの道路だけだった。
『本日午後14時20分頃、東京都千代田区の都道302号線九段下の交差点付近で、横断歩道を渡る歩行者複数人を巻き込む事故が発生し、うち高校生が1名その場で死亡が確認されました。警察は、乗用車を運転していた東京都在住の男性79歳を、過失運転致死傷の疑いで現行犯逮捕しました。はねられた女子高校生は、鎌倉市在住の……高校に通う…………さん。彼女は剣道の小学生男女混合大会と中学生大会の全国大会にて、それぞれ3連覇を達成した生徒で、高校でもその活躍に期待されていました。また、彼女は合気道や空手といった様々な武道の大会でも優勝する成績を残した生徒で、それらの武道の専門家たちからは、突然の訃報に惜しむ声が出ており、一部からは【世界はまた1人天才を失った】と報じられています。』
「オギャーー!!」
次に目が覚めた時、私は赤ん坊になっていた。
「おいオリビア!どうすればいいんだ!」
「あらあら。あなたはすこし落ち着かれてはどうですか?」
聞き覚えのない声。
ゆっくり開かれた視界には、西洋人のような顔立ちの2人と、メイド姿の女性が数人見える。
あぁ思い出した。
私は異世界転生ってやつをしたんだ。