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第85話 でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男

 この映画は強烈だ。ホラー映画に分類すべきだろうな。

 2025年に制作された極めて新しい映画で、まだ観ていない人も多いだろうからネタバレは書かないようにしようと思うのだが、「この映画は事実に基づいてます」というテロップが冒頭にあり、実際にあった事件を基にしている。その事件というのは2003年に福岡市内で起きた、小学校教諭への告発と、それに続く「マスコミの報道、行政対応、裁判」などの一連の出来事を指して「福岡殺人教師事件」と呼ばれている事件。その事件の最大の特徴は、刑事事件や殺人事件は起こっていないのに殺人教師という極端なネーミングが社会に広がり、おまけにかなり早い段階で実名報道までなされた異様な事件だ。そうなんです、民事事件なのに実名報道されてたんです。

 なにを言いたいかというと、映画自体は新しいのだが、20年ほど前に起きた実際の民事事件ーーー全国的に超有名な民事事件を題材にしているから記憶のいい人なら覚えている。だから俺がここでネタバレを書こうと書くまいと、知ってる人は知ってる事件だってこと。だけどね~、この事件のことを俺は全く覚えてなくって、「ええええ?! 刑事事件じゃないから誰も逮捕も送検もされてないのに実名報道されちゃったの?!」って感じで衝撃を覚えたわ。そんなんで、ネタバレを書かないようにしながらも書いちゃう、という、ちょっと解り難い文章になりそうだ。


 なにから書こうか悩ましい映画なのだが、まず最初に書いておきたいことがある。それは「この描き方で本当に良かったのか?」ってこと。

 先ずはこの映画には原作があって、ノンフィクション作家の福田ますみ氏が書いた「でっちあげーー福岡殺人教師事件の真相」ーーー第6回新潮ドキュメント賞を受賞した傑作ルポルタージュが原作。っで俺はこの原作をこれから買って読もうと思っているのだが、読んだ人によるとこの映画は「いくつかの脚色と省略を加えてはいるものの、根幹部分は驚くほど原作に忠実だ」とのこと。


 まず最初に4年生の男の子の母親が担任教師を訴えるのだ。訴えの内容は大きく次の通り。


 ①自分の曽祖父はアメリカ人だから息子も純粋な日本人ではない。担任教師はアメリカ人のことをバカにする差別主義者で、息子の身体にも穢れた血が流れていると言い、担任自ら息子を日常的にいじめた。


 ②「ピノキオ」と「うさぎさん」というネーミングの体罰を息子に頻繁に与えた。ピノキオとは鼻血が出るまで鼻を摘んで強く引っ張る。うさぎさんとは両耳を摘んで引っ張り上げる行為で、息子の耳はこの体罰によって裂けた。


 ③息子のランドセルをゴミ箱に放り込み、上から足で踏みつけた。


 ④息子に対して「お前には生きる価値がなかけん、死ね」と自殺を強要した。


 ⑤それら担任からの行為・言動によって息子は深刻なPDSDとなった。



 訴えの内容は上記の通り。

 っで話は前後するんだけど、先ず両親が校長室に来て、担任に謝罪を求める。すると校長と教頭は「担任が謝罪をすればそれで済む」と考え、事情を確認せずに謝罪をさせる。ところがそれで終わらず、両親は父母会の開催を求め、そこで更なる謝罪を要求し、校長と教頭はその求めに応じ、担任に謝罪をさせた。だがその父母会の内容が漏れーーーここれは映画の内容というより事実なんだけど、先ずは朝日新聞のローカル紙面で、平成15年6月27日に『小4の母「曽祖父は米国人」教諭、直後からいじめ』という大きなタイトルの記事を掲載。しかしこの時はまだローカルニュースだった。だが同年10月9日号の週刊文春が『死に方おしえたろか、と教え子を恫喝した史上最悪の殺人教師』というタイトルで実名報道までなされた。するとテレビ各局のワイドショーも飛びついた。そして両親は数千万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こし、両親側には500名を超える大弁護団が付いたが、訴えられた担任には引き受けてくれる弁護士はなかなか見つからない。それと前後して福岡市教育委員会は「教師によるいじめ」があったと認めた。ちなみに教師による児童に対するいじめを教育委員会が認めたのは全国初。そして担任教諭が懲戒処分されたこともマスコミは大きく取り上げた。


 っで裁判の行方なんだけど、原告側ーーー両親の訴えは殆ど却下されるの。映画では裁判官が判決を述べる前に判決理由を説明するんだけど、


『原告側の主張は信用できない』


 とハッキリ言う。信用できない理由は次の通り。


 ①母親の曽祖父が米国人で、それ故に人種差別を受けたとの主張だが、母親の戸籍には外国人はおらず、母子ともに純粋な日本人である。

 ②耳が裂ける、鼻血を出すといった怪我を負わされたという主張だが、保健室に行った記録も無く、更に児童はアレルギー性鼻炎・両外耳道発疹と診断されており、又、母親が児童が暴行を受けたと知った日から整形外科を受診するまで期間が長く、不自然。併せて、両親以外に教諭の暴行について学校に抗議した者がいない。

 ③ランドセルの件は、児童の供述以外の証拠が見られず、その児童の供述も全体的に全体的に信用性に疑問がある。

 ④教諭による自殺強要発言は、児童の供述に母親からの誘導が窺われるほか、全体として曖昧である。又、その後に実施された社会見学では、児童が教諭を恐れている様子は見られない。併せて、児童が6月から9月まで通院していた病院の受信記録では、児童は学校生活を楽しんでいたことが窺える。両親が児童から自殺強要を聞いた後も、病院に相談するなどの対応をていないのは不自然。

 ⑤PTSDになったとの主張だが、記録では基準値をいずれも満たしておらず、PTSDとの診断を下した医師による診断前提事実が、事実と大きく乖離しており、信用しがたい。



 この映画は始まってから暫くは母親の視線で描かれていくんだよね。だから担任には「なんだこいつ? 狂ってやがる」って印象を観てるこっちは強く持ちます。一緒に観ていた俺の嫁なんか「うわ……この手の映画は観れない」って言い出すくらい児童への体罰というより虐待が酷い。ただね~~俺がどう観てたかというと、「さすがにこれは変だ。おかしな教師はいるだろうけど、いくらなんでもあり得ない」と思った。そして、そうこうするうちに映画は教諭視線に変わっていく。すると「狂ってるのは児童の母親だ」って描き方なんだよね。

 これね~~朝日新聞と週刊文春、更にはその裏付けの無い2社の報道に乗っかって世間を騒がしたマスコミの無責任ぶりは糾弾すべきだろうけど、映画の作りとして、視聴者の大半が「この狂った母親に天罰があったりますように!!」って思うよう誘導してるのが、上にも書いたけど、どうにも「この描き方で本当に良かったのか?」って思わずにはいられないんだよね。どうしても次の疑問が浮かぶ。


 ①この母親はなにをしたかかったのか?

 ②裁判官がいうように我が子を誘導していたのなら、担任教諭を社会的に抹殺しようとした理由はなに?

 ③それとも我が子の狂言に騙されていたのか?


 それらの疑問は完全スルーしてるのがこの映画なんだよね。

 それと映画の中で母親が「私はアメリカのボストンにある学校に通ってた」って言うんだよね。そしてそれは裁判で証人になっても同様の事を言うんだけど、反対尋問でそれがウソだったと明らかになる。この部分って映画の脚色なんだろうか? でも事実に基づいてますってのがこの映画の売りの一つで、その事実にしても20数年前に起きた事件だから、当事者だってまだ生きてるはず。だからボストンの学校ってのも実際に母親が言ったのだと思うんだけど、そうすると虚言癖? それとも精神疾患? だとするとだよ、この問題児童と同じ学校に通ってる子供たちの母親は、虚言癖(又は精神疾患)の母親と同じコミニティに住んでる訳だから「あそこのお母さんってさ~」って噂は絶対にあったはずだがら、この事件の時だって母親の主張を信じる人っていたの? それに、虚言や精神疾患なら以前から色々とトラブルを起こしていたと思われるし、この裁判が終わった後だって同様のトラブルを起こしてたって不思議じゃない。でもそんな報道ってあったかな~? 「〇〇年前のお騒がせ事件を起こした母親がまたやらかした」とか「以前からトラブルメーカーだった」なんて報道。ゴシップ週刊誌ならきっと書くぜ。だけどそれらしい報道があったとは思えないんだよね。すると、どうしても担任教諭を貶めたい、って理由があったんじゃないかな。


 それとこの映画は脇役陣も実力派俳優で固めてるんだけど、狂った母親役は柴崎コウ、それと気の毒な先生役が綾野剛。この二人の演技が凄い。特に柴崎コウの演技は強烈過ぎちゃって、裁判で自分の主張がだんだんと崩されていって、しまいには裁判官から「お前の言ってることは信用できない!」とまで言われてるのに、真直ぐ前を見て瞬きすらしないし、表情一つ動かさない。これってもう怪しい宗教を信じ込んでる異質な女みたいで、この映画を視聴した誰もが「こいつ……狂ってる」と思い、寒気すら覚えたと思う。だから、こんな描き方で本当にいいの? と俺は思うのです。


 それと調べてみて分かったんだけど、映画では綾野剛演じる先生が家族と弁護士以外は誰も支援してくれずに孤独な戦いを強いられてることを強く描くために、担当してるクラスの子供は誰一人証言台に立ってはくれないが、実際は勇気を振り絞って証言台に立った子供たちがいたそうです。その証言は次の通り。


「ピノキオなんて見たことない」

「先生はいじめてない」

「ウソを言ってるのは〇〇君と、そのお母さんだ」


 この勇気ある子供を映画でも省略すべきじゃない、と俺は強く思った。



 追記


 この映画の監督って三池崇史なんだね。この映画を観て、どういう訳か53話で書いた「怪物」を思い出したな~。

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