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第82話 星の子

 2020年公開の日本映画「星の子」。

 5年前に公開されたこの映画、初めて観たんだけど、すげーな。2020年だから、例の旧統一教会の問題が起きる前に劇場公開されてるんだけど、宗教2世って言ったらいいのか、要は両親が或る宗教の信者で、その次女が主人公で中学生のちひろ。そのちひろ役を演じたのが16歳の芦田愛菜。そんな宗教2世の「中学校での世界」、「家庭での世界」、「宗教団体内での世界」という3っつの世界を描いた映画。これね~、映画では怪しいカルト的な宗教団体をベースとしてるんだけど、例えばカトリックといったまっとうな宗教であっても、その教えに完全に従ってる人の生活って、そうでない普通の日本人から見たら、「えええ?」の連続なんだよね。そんなんだがら政治と宗教の話はするなって言われるんだけど、それを題材にした映画って、まずもって凄い。


 主役の芦田愛菜は、なんでも6年ぶりにスクリーンに復帰したそうだ。天才子役と謳われてた彼女が思春期になってどんな演技をしたんだろうって興味を持って観たのだが、うん、凄い女優だ。脇役陣には岡田将生、原田知世、黒木華、高良健吾、蒔田彩珠、池谷のぶえ、永瀬正敏など、けっこう脇を固めた布陣で、それだけでも引き締まった映画なんだけど、芦田愛菜の演技には圧倒されたわ。なんて言ったらいいのか、とにかく喋る時の間の取り方、笑い方、目線の泳がせ方、沈黙時の表情、そして思わず涙を流すシーンなどなど、全部が演技に見えない。この女優ってこれからどんなふうに成長するんだろう? って思わずにはいられない。っでどうしても考えちまうのは、汚れ役とかオンナを出す役も何時かはやるんだろうけど、そういう年齢になった時の彼女の演技は絶対に観たい。


 この映画には原作があり、作者は今村夏子。っで2017年に刊行され、2018年の芥川賞と本屋大賞にノミネートされたという作品。俺は未読だが、映画の大まかな流れやエピソードは原作に忠実に描かれていたらしいがラストが違うみたいだ。

 ただ映画のポスターをネットで見たのだが、「信じる  愛する  大人になる」という文字があり、おそらくいはこれがキャッチコピーなんだろうけど、特に「信じる」と「愛する」というワードが、この映画の背景に宗教ーーーカルト的な宗教があるためにボヤケたような印象を持ったな。ちひろが信じるのは決して宗教ではないのだ。だからといって宗教を完全否定してる訳ではなくーーーちひろの姉は宗教にドッツリはまっている両親に耐えられずに家を出て行くのだが、ちひろは普通に受け入れている。この映画を観て思ったのは、思春期のちひろが少しずつ成長して、親を盲目的に信じる子供から脱皮していきそうで、なかなかそうならない揺れ動くさまが伝わってきたのだが、だけどちひろが何を信じ、何を愛するのかが今一つハッキリしなかった。


 俺自身、ごくごく一般的な日本人で、親が特定の宗教にハマってることもなく、父親が長男ってこともあってーーー何故かわからないが、墓と納骨堂があるから普通に曹洞宗の檀家で、お盆だの春・秋の彼岸になればーーーお盆と秋の彼岸って近すぎないか、翌月だぞ。ご先祖さんも、また来たのかって思ったりしねぇのかと考えたりしながらも墓参りをして納骨堂でお経をあげてもらい、正月になれば神社に初もうでにいそいそと出かけ、そしてクリスマスになれば、誰が食うんだ? というほどバカでかいケーキを買って食い、おまけに俺はカトリック幼稚園に通い、更に小学生になると可愛い女の子がいたルーテル教会に通ったのだけれどその女の子がいなくなった途端に俺も通うのを辞めた。だけど聖書はいまだにあるぞ、読んだことないけどーーー宗教などどーだって構わない輩なのだが、「もしも自分の親がカルトな宗教の信者だったら」などと考えた事は一度もなかった。そしてこの映画を観て初めて考えたのだが………想像できんかった。

 そして映画の初めの方で、なぜ両親がこの宗教に縋ったのかが分るのだが、次女のちひろが生まれた時にアレルギーなのか肌が酷く荒れていて、そのせいで赤ん坊のちひろが泣き止まなかった。そんな時に父親が職場の同僚から言われるのだ。「それは水だね」と。そしてその同僚の勧めに従い高貴な水ーーー念を込めて浄化した水ーーー「金星のめぐみ」という水で身体を拭いてあげれば治ると言われ、それを実践すると治ったのだ。これね~~親なら信じちゃうわ。うん、うん。アトピーとかで赤ん坊の頃から肌が真っ赤になって見るからに痛々しい状態の子が自分の子供なら、なんでも試すだろうし、それが偶然だろうと治ったのなら、信じる親は多いだろうな。この設定は上手い。うん、なんの違和感もなくストーリーに溶け込む設定だよ。


 黒木華と高良健吾がその怪しげな宗教のちょっと偉い人なんだけど、この二人は凄いわ。もう、そこに笑顔で立ってるだけで「圧倒的にヤバイオーラ」っていうのか、狂気みたいなものをガンガン醸し出してて、いや~~この手の役やらしたらズバ抜けてないか? 俺、黒木華が大好きで高良健吾も好きなんだけど、この二人はヤベ~~

 っで実は岡田将生も好きでイイ役者だな~って思ってて、昭和元禄落語心中の岡田将生には感動したぜ。この映画「星の子」では中学の教師役なんだけど、女子生徒にもてるんだけど嫌な性格の教師。上手いね~~。鈍感で嫌味な性格を隠そうとせずにガンガン行っちゃうのを本当に自然な演技で、決してオーバーアクションになることもなく、ちひろに対して「何やってんだ、完全に狂ってるな」と言い捨てるの。もう相手にもしたくないって雰囲気出して。上手いわ。

 そんで岡田将生の車でちひろが家まで送ってもらうシーンがあるんだけど、このシーンは強烈過ぎて、とてもじゃないけど笑えない。そのシーンは次の通り。


 ちひろは面食いで、イケメンの岡田将生に片思いをしている。同級生はそんなちひろの思いを知ってるから、気を利かせ、自分達は後部座席に乗り込み、助手席にちひろを座らせる。

 自宅の傍まで車で送ってもらったちひろは車を降りようとする。すると「待て、降りるな!」と岡田将生に腕を掴まれる。岡田将生は「最近、不審者がうろついてる」と続ける。その岡田将生は公園の方を見ていた。その公園には緑色のジャージを着込んた男と女が互いに頭から水を掛け合っている。頭に小さなタオルを乗せて真剣に。誰が見ても異様な光景。っで岡田将生は更に「2匹いるな」と言う。

 だが、その水を掛けってる男と女というのは、ちひろの両親。涙を必死に堪えるちひろ。そんなちひろに気が付くこともない岡田将生は黙って異様な光景を見続け、車内では沈黙が流れる。


 このシーンね~、痛すぎて目を背けたくなった。ちひろは当たり前に言えないんだよね。アレはうちの親ですなんて。後部座席に乗ってるのは同級生の女の子が一人と男の子が一人。女の子の方はアレがちひろの親だってことを知ってるんだけど、そこでは何も言わない。そして男の子の方は何も知らずに異様な光景をただ見ていて、後からちひろの両親だと知り、驚き、「カッパかと思った」と口を滑らせる。

 映画でのちひろの学校生活は、決して仲間外れにされることもなく、「不思議ちゃん」的な感じで仲間に溶け込んでいるのだが、それは何でもズバズバ言う友人ーーー岡田将生の車で送ってもらった時に後部座席に乗り込んだ女の子が凄く優しくて、親が宗教にハマってるちひろを気味悪がったりすることもなく、そのままのちひろを受け入れている事が大きいのだろうな。それが他の同級生にも影響してると思う。



 この映画って、或る家庭の宗教2世の生活を淡々と描いていくんだけど、急激な展開がある訳でもなく、思春期特有の「親を否定」とか「親からの脱皮」を解り易く描いてはいない。ちひろの姉はきっと親を否定して親から脱皮した結果が「家を出る」という選択なんだろうけど、ちひろはそこまで極端ではない。だからチョっと解り難いというか、「これからちひろはどうなっていくの?」と思わずにはいられない展開なんだよね。宗教2世の暗い部分をどうして描かないのか不思議な映画。


 っでちょっと解り難いシーンとか意味深な台詞が幾つもあって、その意味が幾通りにも解釈できる。


 ちひろが熱を出して学校の保健室言った時のやりとり。

「この水をを飲むと風邪をひかないんです。でもやっぱり風邪ですか?」

「風邪でしょう」

 まるでそれが当たり前で、あえて相手にもしたくないというように保健の先生に言われたちひろは黙り込む。

 岡田将生は更に凄くて、

「だいたい水で風邪ひかないんだったら誰も苦労しないんだよ! 両親にも言っとけ!」


 この2つの台詞って、明らかにちひろを拒絶する台詞なんだけど、なぜこの二人だけを迫害者のように描いたのかが今一つ分からない。学校でのちひろは上にも書いたんだけど、ただの不思議ちゃんなんだよね。


 それと両親揃ってこの宗教にドッツリはまってるからなのか、父親は仕事を辞めて働いてないようでどんどん貧乏になっていって、毎日の食事もその宗教の信者のお宅からの御裾分けが多い。だから「金星のめぐみ」という水の値段が高いのだろうな~って思て観てたんだけど、それほど高価ではなく、更には信者だから会員価格ってのがあって、2リットルのペットボトル6本で3440円。まぁ、1本500円の水は高いっちゃ~高いんだけど、「うええええ!!」ってほどでもない。それにしても父親も母親もどうして働かないんだろう? 毎日毎日二人揃ってなにやってんだろう? これね~すごく謎。そして水の価格も中途半端。



 学校でのちひろは、授業中に岡田将生の似顔絵をノートに描いてることが多い。普通のノートに描いてると思ったんだけど、そのノートには「〇〇月〇〇日 ウンチ緩い、食事〇〇回」とかが書いてあるノートなんだよね。一緒に観てた俺の嫁も、「あれってナニ? なんでそんなこと書いてあるの?」って盛んに首を捻っていて、俺もその時は判らなかったのだが、映画を観終わって気が付いた。あれはちひろが赤ん坊の頃に母親がつけていた日記帳だ。それも5年日記か10年日記。だけど凄く不思議なのは、その日記も結構空白が多いから絵を描けるスペースが残ってて、どのページも裏面には何も書かれていないみたいなんだよね。母親はちひろの体調が心配で日記をつけていたんだと思うけど、なんで中途半端な書き方なんだろう? それにその日記を何故ちひろにあげてしまったの? 俺の嫁は日記をつける習慣は今も昔も全くないけど、やっぱり最初の子供が生まれた頃は、いろいろと心配事が多かったせいで、母子手帳やら家計簿にその日の子供の様子なんかを書いていて、それは今となっては自分でもあまり読みたくないらしいんだけど、だからといって捨てることも出来ずに引き出しの中にしまってる。ちひろが絵を描いてるノートが母親の日記帳だと解ってからなんだけど、母親ーーー原田知世なんだけど、いったいどういう母親なの? って疑問が膨らんできたし、そういう設定にした意図って何なんだろう? それとその絵に興味を持ったクラスの女子が「すごく上手」って話し掛けてくるんだけど、結局そのノートを「全部あげる」ってちひろが言うの。その女子も「え……全部?!」って驚いちゃうんだけど、このシーンっていったなんなんだろう? 自分のことを必死に心配した若い頃の母親の日記だってことを解ってるはずなのに、普通なら他人にあげたりできないよ。この映画での母親と娘の関係が、このシーンで全く分からなくなったわ。



 宗教施設の中で、黒木華がちひろを真っすぐに見て、微笑みながら、だけど怪しさを爆発させながら静かに言うの。

「あなたがここにいるのは、あなたの意思とは関係ないのよ」

 これって2つの意味に取れる。一つは、「あなたの意思は関係ないの。運命だから、導かれたの」って意味。それともう一つは「あなたが自分の意思でここに残ると決めるのは、まだ先ね。今はお父さんとお母さんについてきているだけ」って意味。どっちなんだろう? ただね、黒木華があまりにも怪しすぎちゃって、運命とか導きを言ってるようにしか見えんかった。



 年に1度、12月に教団の全国集会があるらしくて、ちひろ一家も教団が手配したバスに乗り込んで集会に行く。ちひろ一家は毎年参加してるみたいなんだけど、今年は初めて両親とは別のバスで、そして別の部屋に割り振りされたちひろ。一日のカリキュラムが終わって友人と大浴場に入って部屋に戻るちひろに、誰かが「お母さんが探してたよ」と声を掛ける。それから両親を探し回るんだけど施設内のどこを探しても見つからない。これって何かを暗示させるシーンだと思う。だけど何を暗示してるのか全然わかんねぇーー!! いったいなんなのよ?

 っで部屋でモンモンとするちひろは、もう一度探しに行こうとする。すると友人が「待ってるほうがいいよ。じゃないとお互いに行ったり来たりで、一生会えないかもよ」って言うんだよね。確かに互いに探し回ったらすれ違いになるケースはあるけど、一生会えない、って極端な言い回しは、やっぱり隠された意味があるんだろうな~って思ったんだけど………これも全然わからんぞ。


 それとラストシーンをどういうふうに理解すべきかが、うん、悩ましい。

 親子3人で施設から出てーーー夜中みたいだから凄く寒いんだけど、3人で星空を眺める。12月だから双子座流星群が見れる季節なんだろうから、すぐさま流れ星が見れるのかと思いきや、これがウソみたいに見えないの。っで父親が「見えた!!」って言っても、「え……どこどこ」ってな具合。

 だから3人が同じ空を、同じ場所から眺めていても「それぞれ別の空を眺めてる」という意味なのか、「今は見えていないけど、3人は同じ空を眺める信じあった家族」だという意味なんだろうか……



 追記


 とにかくこの映画は不思議な映画だ。でも観始めると最後まで観てしまうナニかがある。

 そして出演者のナチュラルな演技に目を見張るぞ。芦田愛菜もそうなのだが、黒木華と高良健吾のナチュラルさは強烈だ。っで岡田将生のイケメンだけど性格悪ぅぅ、って教師役もすっげーナチュラル。ストーリーよりも出演者の演技に感嘆しちまう映画だわ。




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