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第77話 シャイロックの子供たち

「シャイロックの子供たち」という池井戸潤が執筆した小説。この小説が初めて世に出たのが2003年らしい。それも「近代セールス」という金融・営業専門誌だ。かなり一般的ではない雑誌なのだろう、俺も「そんな専門誌あるんだ?!」とちょっとビックリしたのだが、その専門誌の2003年4月1日号から2004年2月15日号にかけて第6話までが掲載されたのが始まりらしい。しかし1年と1カ月で6話って、2カ月に一度発売される雑誌なのかな~? それに連続小説載せちゃったら、「おお、この小説って面白いじゃん」って感じた人も、前回までのストーリー忘れっちゃうぞ。って言うか、その小説に興味を持ったこと自体を忘れそう。っで、もっと凄いのが第7話から第10話の書下ろしを加えた単行本が2006年1月に文藝春秋から刊行。ってことは専門誌の連載どうなったんだろう? 放置プレイ? まぁ、そんなことは置いといてーーー俺は原作読んでないしーーー映像化された「シャイロックの子供たち」の感想を書く。


「シャイロックの子供たち」には映画版とドラマ版の二つがあり、結末は大きく違ってんだよね。だからここでは映像化された2つの「シャイロックの子供たち」についての感想を書こうと思う。ちなみに小説版の結末はドラマ版とも映画版とも違ってるらしい。


 実は去年だったか一昨年だったかハッキリしないのだが、映画版は観たことがあったのだが、最近になって初めてドラマ版を観て「あれ~~こんなストーリだったか? なんか微妙に違うような……」って感じたもんで、映画版を再び観たのだ。

 題名にあるシャイロックというのはシェークスピアの戯曲「ヴェニスの商人」に登場する強欲なユダヤ人の金貸しだ。この「ヴェニスの商人」というお話しなのだが、子供の頃に何かで読んだ。確か国語の教科書だったような気がするけど、中学だったかな? でもあのお話しって「強欲な金貸しのシャイロックは悪徳のどうしようもないヤツ」って単純なお話しじゃなく、人種差別が背景にあるチョっと深いお話しのはずなんだよね。中学の国語でそこまでやるとは思えないな。とにかく、そんな背景のあるシャイロックを題名にしてるから、ドラマでも映画でも、金貸し=銀行員、という単純な設定ではなく、違法な行為に手を染める銀行員の「こんなはずじゃ……」というような哀れさみたいなものを、日本企業風土に絡め、上手く表してた。うん、うん、ドラマ版も映画版も凄く良かった。それに随分と考えさせられる映画・ドラマだ。


 ドラマ版は2022年10月からWOWOWで連続ドラマとして放映。

 映画版は2023年2月に劇場公開。配給は松竹。


 そうなのです。ドラマの方が先行放送なんだよね。それにしても時期が随分と近いよね。

 そしてドラマ版は監督が鈴木浩介なんだけど、この人って元々が俳優らしいんだけど、俺にとっては名前を聞いても全然ピンとこなくてネットで画像検索したら「ああ、なんとなくだけど知ってるわ」って人。で監督業でどんな映画やドラマを撮ったのかを調べても、知ってるのは(観てはいないけど)「けっこう仮面」だけだった。

 っでドラマ版の脚本は前川洋一。この人、WOWOWドラマの脚本けっこう書いてて、空飛ぶタイヤ、マークスの山、下町ロケット、推定有罪、アキラとあきら、鉄の骨。他にもずいぶんとWOWOWドラマ書いてるんだけど、池井戸潤作品と相性が良いみたい。


 次に映画版なんだけど監督は元木克英。釣りバカ日誌、超控高速参勤交代、大コメ騒動、そして映画版の空飛ぶタイヤもこの監督が撮っていて池井戸潤作品を撮ったのがシャイロックが初めてではない。

 っで映画版の脚本なんだけどツバキミチオって人。誰それ? って人なんだけど、原作者の池井戸潤のペンネームって言って良いのか、とにかく池井戸潤が脚本を書いてて笑った。


 主だったキャストも書いておこうと思うんだけど、( )に書くのはドラマ版のキャスト。


 西木雅博 阿部サダヲ(井ノ原快彦ーー元アイドルグループV6)

 映画版ではベテランお客様相談グループ課長代理。ドラマ版では出世の見込みがない営業課課長代理。


 北川愛理 上戸彩(西野七瀬ーー元乃木坂46)

 給料の半分を実家に仕送りしている。映画ではお客様相談グループ。ドラマでは営業課。


 三木哲夫 映画版ではいない(矢野聖人)

 業務課。北川愛理の恋人、実家が裕福。


 半田麻紀 木南晴夏(早見あかり)

 映画版ではお客様二課で北川愛理を嫌ってる。ドラマ版では融資課で三木哲夫の元カノ


 滝野真 佐藤隆太(加藤シゲアキーーアイドルグループNEWS)

 エリート行員。映画版ではお客様一課課長代理。ドラマ版では業務課課長代理


 九条馨 柳葉敏郎(前川泰之)

 支店長


 古川一夫 杉本哲太(萩原聖人)

 副支店長。高卒。パワハラ気質。


 遠藤拓治 忍成修吾(ドラマ版ではいない)

 お客様一課課長代理 成果が上がらず同期の滝野との差がどんどん広がっている。


 竹本直樹 映画版ではいない(三浦貴大)

 融資課課長代理 優秀だが過去に部下の起こした不祥事により責任を取らされ出世の見込みはない。


 小山徹 映画版ではいない(森永悠希)

 融資課。父親が会計事務所の代表で裕福な家庭。


 坂井寛 映画版ではいない(玉山鉄二)

 本社人事部調査役。


 黒田道治 佐々木蔵乃介(水橋研二)

 本社検査部次長


 石本浩一 橋爪功(橋本じゅん)

 映画版では江島エステート代表で江島宗広を名乗ってる。ドラマ版では伊島工業代表で伊島宗広を名乗ってる。


 沢崎肇 柄本明(ドラマ版ではいない)

 西木雅博の飲み友達 一級建築士の資格を持っている不動産業。



 上記に書いたのが主な登場人物なんだけど、映画版とドラマ版のどっちが面白かったかというと、これが甲乙つけがたいな。ただドラマ版は連続ドラマで時間的な余裕があるから結構掘り下げてて、登場する銀行員の、表はメガバンクという一流企業なんだけど、実際は業績に追いまくられ、そして出世街道から外れちゃった人とか、ハッパをかけまくるパワハラとかをしっかりと描いてる。


 メガバンクの支店長ってどれくらいの年収なのか調べてみたんだけど、ちょっと前なら800万~2000万程度らしくて、正直、ええ?? その程度なのって驚いた。でも最近なら店舗の統廃合で支店数減らして、更には、行員のベースアップに比例して支店長の年収も上がったみたいだけど、それでも1600万~2200万程度らしい。行員の中で出世競争勝ち抜いて支店長になれるのって1%に満たないって言われてる。その出世競争にしても、このドラマや映画でもあるんだけど、部下がやらかした不祥事でも管理責任問われてバッテンがつく。そうなったらもうそれ以上の出世は望めない。これね~、確かドラマの方だったと思うんだけど、ある行員が父親から言われてるんだよね。「銀行マンになったのだから、絶対に出世しろ!」って。「地域経済に貢献するとか中小の民間企業を育てるのが銀行マンの使命だ」な~んて綺麗ごとじゃないの。ズバリ「出世こそが銀行マンの全てだ」って言い放つんだよね。俺は金融業に勤めたことなんてないから想像だけど、これって真理だと思う。ネットで「メガバンク適正チェックリス」なるものを見っけた。主な内容は次の通りだ。


 ①年功序列による上下関係に馴染める。

 ②理不尽な命令でも受け止め、それを行動に移せる。

 ③朝が早くても大丈夫。

 ④納期や締め切りを守るのが得意。

 ⑤空気を読むのが得意。

 ⑥つねに礼儀正しくできる。

 ⑦上司にうまく話を合わせられる。

 ⑧数字やデーターに強く、物事をロジカルに整理できる。

 ⑨プレッシャーの中でも冷静に対処できる。

 ⑩地道な作業でも集中力を保てる。

 ⑪組織の中でキャリアを積みたい。

 ⑫出向や転勤をキャリアの一部だと受け止めることができる。

 ⑬高い役職を狙いたいという意欲を持ってる。


 併せて、体育会系のノリと媚びる術が重要らしい。そんでもってメガバンクに向かない人は次の通り。


 ①創造性重視の人。

 ②上下関係が嫌いな人。

 ③忖度ができない人。

 ④プライベートの時間を大切にする人。

 ⑤自分の意見を言い過ぎる人。


 そして実際に出世してる人は次の通り。


 ①東大卒、京大卒

 ②敵を作らない人

 ③本社→支店→本社といったローテーションに乗ってる人。

 ④バッテンがついていない人


 メガバンクって大よそ2年サイクルで異動があるみたいなんだけど、そのサイクルで異動し続けて、そして行く先、行く先の上司とうまくやる。嫌われたら異動サイクルから外れる。そして最も大事なのが、成果を出すことよりもバッテンが付かないこと。だけどこれってどうなの? 俺が30代の半ばごろに関西の或る支店に出張で行った時のことなんだけど(上にも書いたけど俺は銀行マンではありません)、そこの支店の部長さんが料亭に連れていってくれた。本来は部長という役職は本社にしかないんだけど、そこの支店は規模が大きかったせいで支店長の下に部長がいる。その部長さんが酒に酔ったこともあって俺に愚痴をこぼした。


「若い頃から仕事一筋に頑張った。それが認められ、3年おきに転勤をして階級も見ての通り立派なものだ。結婚もした。最初の頃は赴任先に嫁もついてきて慣れない土地に戸惑ったろうけど一緒に頑張った。その内に子供が生まれ、家族みんなで転勤を続けた。だけどその子供が高校受験となると話が変わる。いつのまにか俺一人で転勤をすることになり、単身赴任の生活だ。子供は2人いるが、2人とも別の大学に行って、嫁は子供が高校生の頃に住んだ街で今も働いている。だから4人家族のはずがバラバラ。俺の人生っていったい何んだ」



 転勤って家庭を壊すよ。そういう俺も転勤した事があって、最初の赴任先には嫁もついてきたんだけど子供の大学と時期が重なっちゃって、金が無くってしんどかった。っで3年でまた転勤したんだけど単身赴任よ。焼き魚と納豆ばっかり食ってたら痛風になって、治ったと思ったら今度は尿管結石ときた。ギャハハハハ。その単身赴任も3年間で終わって嫁と再び暮らすようになってからは、そんなヘンテコな発作になってない。うん、食生活って大事だよな。ちなみに転勤がある企業の支店長は殆どが単身赴任なんだけど子供が大学生なら物凄い貧乏だよ。年収が2000万超えていようが大変。財布の中身が千円札が2~3枚しか入ってないなんてザラだから。メガバンクの支店長もそうだと思うけど、株式を上場している企業なら、支店長の奥さんっておかしなところで働けないんだよね。


「シャイロックの子供たち」に話しに戻るけど、映画版の九条支店長を柳葉敏郎が演じてるんだけど、もう出世のラインから外れた支店長なの。ドラマ版の支店長はまだ次を狙ってる生々しい支店長だったけど、次は関連企業に出向という支店長ならヤバイことに手ぇ出しちゃうのは分るわ。銀行って簡単に言ってしまうと、預金者に払う金利と融資先に請求する金利のサヤで稼ぐ商売だから、優良企業にどんだけ金を貸すかで勝負が決まる。そりゃ~~「貸して来い! もっとだ! もっともっと貸倒せ!!」ってプレッシャーは凄いだろうね。形のある物を売る商売ーーー物販もノルマはキツイけど、金融商品のノルマは凄まじいだろうし、そんな中で30年近くもの間、メンタルをやられることもなく、部下の不祥事もなく、上司にゴマを摺り続け、やっとこさ支店長に辿り着いたのに、次に行く場が無くって出向って、哀れだわ。

 だけど、支店長の次は本社の部長、そしてその次は役員待遇、っで役員ってラインだけど、次に行けば行くほどポストは先細りで、役員になれる人なんて「強烈に優秀だから役員になれる」訳じゃないからね。取締役会の中に自分を引っ張り上げてくれる人がいるかどうかだけで決まる。要は、お友達がいるかどうかだ。だから若い頃から上司のご機嫌を取って、理不尽な命令にも従い、絶対に嫌われないようにしながら少しづつ少しづつ階段を上って行って、最後の最後が「自分のことを特別に気に入ってくれてる人が取締役にまで出世していること」がサラリーマンの世渡り術なんだけど、物凄く長ーーーいレースで、同期とか年の近い同僚がどんどん脱落していく中をひたすら頑張り続ける。「泳ぎ続けなければ死んでしまうマグロ」だと言われる所以だ。俺には絶対にムリ。上司と喧嘩ばっかりしてるもんな。

 その出世競争なんだけど、映画・ドラマの中で帯封を拾う場面が2回出てくる。帯封っていうのは1万円札100枚を束にしている紙の封のこと。その帯封ーーー中身の100万円は無く、破かれて不要となった帯封を銀行の店舗で拾っちゃう。1つはその銀行名が印刷された帯封、もう一つは競馬場の換金所名が印刷された帯封。っで帯封って紙幣を束にして封じた年月日も印刷されている。っでその帯封を拾った人は誰かに報告する訳でもなく、それでいてゴミ箱に捨てる事をせずに自分のポケットに仕舞い込む。目的は、誰かの足を引っ張るネタに使えると考えたからだ。これって出世競争が激しい企業ーーーそれも出世競争から外れた人は関連会社に片道切符の出向なんてのが当たり前の企業であれば十分あり得る。おそらくは原作にも出てくるシーンなんだと思う。原作者の池井戸潤って作家はそうとうに取材を重ねて、銀行内で実際に起きた様々なエピソードを丹念に拾い集めたんだろうね。


 ちなみに映画版の最後の方なんだけど、痛快エンターテイメントにしちゃって、半沢直樹の「ヤられたら倍返しだ!」というストーリー展開なんだよね。これは観てて面白いんだけど………


 次にキャストなんだけど、主役の西木を演じたのが映画版が阿部サダヲ、ドラマ版が井ノ原快彦。但し、西木のキャラ設定が違うから単純な比較はできないけど、やっぱり阿部サダヲは凄いと思うわ。アイドル出身の井ノ原快彦を比べるのは気の毒なんだけど、あんなにいっつもヘラヘラしてて逆に不気味だった。原作のラストではこの西木が黒幕か?! と思わせるようなエンデングらしくて、それなら不気味にヘラヘラしてるのも分るんだけど、ドラマ版では最後まで良い人なんだよね。


 北川愛理役を演じたのは、映画版では上戸彩、ドラマ版では西野七瀬。そのドラマ版を一緒に観ていた嫁が「この子って……アレ……女の子がいっぱいいるアイドルグループの………AKBじゃなくって……とにかくアイドルグループにいた子なんだよ」と教えてくれた。調べてみると乃木坂46だった。でも、いいわ~、凄くいい女優さん。設定がお父さんが死んでしまったことによって給料の半分を実家に仕送りしている女性行員なんだけど、上戸彩は、なんだか「意地の悪いお局さん」みたいでチョっとって感じだったのが、西野七瀬は設定にピッタリな印象だった。


 パワハラ気質の古川副支店長を演じたのが、映画版では杉本哲太、ドラマ版では萩原聖人。映画版の杉本哲太の副支店長なら、今現在でもあの程度の上司ならいっぱいいるし、パワハラとは言えないだろうな。

 支店ごとに業績を競っている企業であれば、営業会議で支店の№2の副支店長から激が飛ぶだろうし、業績の上がらない営業マンにはキツイ叱責もある。っで支店長からは副支店長に対し「どうすんだよ! 本社には俺が報告しなきゃならないんだからな、計画を作り直せ!」と説教が始まるだろうし、本社ではその支店長が他の支店長がいる前で吊るし上げにされる。それが民間企業の常だわ。でもドラマ版で萩原聖人が演じた副支店長は凄かった。あれは現代ではいないわ。給料ドロボー、バカだアホだの人格否定、あげくには言い返した部下を押し倒して怪我をさせ、刑事告訴されちゃう。時代設定っていつなんだろう? 昭和や平成の中頃までならあっただろうね。ドラマ版では携帯電話がガラケーだったはず。映画版ではスマホ。映画とドラマは時代設定が違うのかな? そのせいで副支店長のパワハラ加減も違う?


 滝野真を演じたのは、映画版では佐藤隆太、ドラマ版では加藤シゲアキ。この滝野真というエリート行員が2つの事件の中心人物。1つは銀行店舗から100万円が無くなるという事件。もう1つは億単位の融資が架空融資だったという事件。ドラマ版ではどうして加藤シゲアキを使ったんだろう? 確かに甘いマスクで爽やかで、愛想も良くて、それで仕事も出来るのなら上司や顧客から可愛がられるだろうけど、加藤シゲアキではどうにもインパクトが弱い。

 映画版の佐藤隆太なんだけど、いい意味で驚いた。佐藤隆太という役者さんって、俺の印象じゃ妙にハイテンションな演技ばっかりしてる役者ってイメージだったんだけど、この映画では抑えた演技で、真面目なエリート行員なんだけど、それでいて何かを絶えず隠していて決して本心を言わない演技がすごく良かった。


 100万円が銀行店舗から無くなった、という事件なんだけど、銀行の店舗で現金が合わない、という事象は昔から今もあるという。銀行は毎日たくさんの現金を預かったり払い出したりしてる訳だが、顧客が書いた「伝票」に基づいて行員が「勘定系システム」に入力をする。一日の終わりに全ての伝票を集計し、それが勘定系システムと合わないと、「現金が足りない」又は「現金が多い」となる。

 1円、5円、10円、50円、100円、500円、千円、5千円、1万円というように硬貨1枚、紙幣1枚が合わないというのが多いみたいで、2千円札がけっこう流通していた頃なんか大変だっただろうね。

 合わない原因で多いのが次の通りらしい。


 ①伝票は1万円なのに10万円と桁を間違ってシステムに入力。

 ②入金なのに出金としてシステムに入力(逆も)。

 ③窓口で現金を多く渡してしまった(逆も)。

 ④外回りの行員が預かってきた現金が足りない(逆も)。

 ⑤現金自体がどこかに紛れ込んだ。



 っで合わなかったどうするのか? 現金が足りない場合は「仮払金」という科目を使い、多い場合は「借受金」という科目を使ってその日の勘定を締め、必死に探す。っで見つからない場合は本社に「過誤金報告書」を提出し、それでも探し続ける。そして発見できないままで期末となると、銀行にもよるが多いのが、例えば10万円の仮払金の場合は50%の5万円を、その事故を起こした店舗の支店長と担当者と担当者の管理者で拠出し、残り5万円を損金処理。そしてその損金の額が一定の額を超えると、金融庁(鬼の金融庁と呼ばれている)に事故報告をする。金融庁は当然、何らかの行政指導をするが、再度ともなれば業務改善命令が発せられ、経営トップの退陣に発展することも。だから必死に探す。

 映画とドラマでは100万円が足りなくなり、結果的には支店長が30万円、副支店長も30万円、課長が20万円、課長代理も20万円、計100万円を出し、全行員には「男子更衣室で見つかった。きっと誰かが置いていったんだろう、めでたし、めでたし」と事を収める。

 銀行員は「ポケットマネーからの補填は絶対にやってはいけない」と叩き込まれるそうです。ただね~、それは基本であり原則だと思うんだよね。俺は銀行マンじゃないから想像になるけど、長いことサラリーマンやってるから思うんだけど、とにかく探すよ。うん、探し続ける。でもどう探しても出てこないとなると、出すわ。うん、ポケットマネーから出しちゃう。先ずね、千円や2千円の不足を本社に報告するか? しないだろう。そして金額がデカイ不足の場合なんだけど、これね~~やっぱ報告できないよ。人間だからミスは付きもなのに、最悪の場合はトップの退陣って、そうなったらその元凶を作った支店の主だった人達ーーー担当者、係長、課長代理、課長、副支店長、支店長、ぜ~~んぶの人がいられないゼ。退職を余儀なくされる。だ~れも幸せになれない。それ考えたら、支店長、副支店長、課長、課長代理といったレベルで処理してしまうのが妥当。それを隠蔽だって騒ぐヤツがいるだろうから関わる人員はせいぜい4人程度。

 現金商売をしている業種って銀行だけじゃなく、スーパーだってコンビニだって現金商売。最近はキャッシュレスが増えてるけど現金商売は未だに多い。或る業種の話しなんだけど、伝票と現金が合わないなんてのはしょっちゅうで、当時は伝票主義だったから「現金が〇〇円なければならない」ってんで大変だったらしい。合わないっていうのは先ずもって現金が足りないんだけど、探しても出てくるはずがなくって、無いものは無いの。っでその都度その担当者、又は上司が弁償せざるを得なかったんだけど、それが問題になって、結局は現金主義に変わった。要は「現金が〇〇円しかないんだから伝票をそれに合わせろ」ってやつ。

 ただね~銀行は形のある物を売ってるわけじゃなく、人様の金を預かってるだけだからね~、水屋みたいな商売だと思う。その人様の金が足りないとなると、損金処理って言葉を使えばなんだかぼやけるけど、要は弁償だよ。全額組織で対処すべきなんじゃねぇのかな~。


 映画・ドラマで起きた、もう一つの事件ーーー架空融資なんだけど。今年(2025年)の5月にマスコミを賑わせた「いわき信組の不正融資247億円」なんだけど、経営難に陥った大口取引先に資金を注入するために実態のない企業ペーパーカンパニーを使う迂回融資なんだけど、元検事のある弁護士が雑誌のインタビューで「20年前に私は何度もこの手口を担当しました。そうです、20年前には多くの金融機関でやっていたんです」とハッキリ言っちゃってる。映画・ドラマの時代設定がーーー特にドラマの方の時代設定がイマイチ分からないけど、過去には多かったんだろうね。

 っで映画・ドラマではエリート行員の滝野真が抜き差しならない状況に追い込まれ、不正融資だと知りながら融資の稟議を書く。どんな抜き差しならない状況だったのかというと、以前、数億の融資を担当した際、融資を受けた企業の社長が「本当にありがとう。君のおかげだ」と300万円を謝礼として出してきた。滝野は一旦断るが、結局は受け取ってしまう。その負い目ーーー渡した社長にしてみれば「俺は知ってるんだぞ」という無言の圧力ーーー滝野にとっては脅迫。それによって明らかな犯罪行為に手を貸すことになる。これも俺の想像になるけど有り得ると思うな~。融資を受けた企業が上場企業であればリベートなんか絶対に出せないけど、社長がオーナー会社の地域のちょっとした優良企業であれば300万程度のリベートなんか簡単に出せるし、その銀行の担当行員が優秀なヤツだってことは付き合っている内に分かるだろうから、金を受け取らせて後々のナニかに役立てようと考えるのは不思議じゃない。蛇足になるけど企業の使途不明金って、上場企業じゃ出来ない芸当だけど、例えば300万円の使途不明金があるならそれを自ら国税に申告して、その半額を税金で払ってしまえば国税は何も言ってこない。もちろん黒字決済でちゃんと法人税を払っている場合なんだけど、だから数億の融資を受けたら300万程度のリベートぐらい平気で出しちゃう。狙われた銀行員は悩むだろうね~。ただ映画版のラストの方で阿部サダヲが受け取った小切手の額面はリベートってレベルじゃないね。あれは「お前も共犯だからな、忘れるんじゃねぇぞ」って脅しと口封じだ。小切手を渡した柄本明が演じる沢崎は優しい笑顔で「あんたも金に困ってるんだから」的な事を言ってたけど、あれで阿部サダヲはまっとうな世界では生きられない人間になったのを暗に示すラストだった。



 とにかく「シャイロックの子供たち」という映画、それにドラマも凄く面白い。ストーリーだけならドラマの方が現実に近い展開で面白いが、キャストの面で言うとやはり映画の方が見応えがある。


 池井戸潤の作品の映画やドラマはけっこう観ていたのだが、シャイロックの子供たちを観た後に、「七つの会議」という映画を観る事にした。この映画は一度観たことがあると思っていたのだが、初めて観る映画だった。いや~~~強烈に面白かった。池井戸潤作品を映像化した中で最高傑作じゃないかな~。ドラマ版もあるらしいから今度観てみよう。

 物語の中心は「ネジ」だ。ちょっとした日曜大工ーーー今はDIYって言うがーーーやったことある人なら分かると思うんだけど、ネジとクギって結構使うから凄く高く付くんだよね。それも錆に強いとかネジ山が舐めにくい日本製になると「えええ!? こんなにするの?」って驚いちゃうくらいに高い。だから費用を抑えたいならネジとクギを安い物にするのが一番で、昔なら、家を建てるときの大工も使うクギの本数を減らして費用を削るという悪徳もいた。

 そんなネジの強度に関するデーター偽造がこの映画の中心だ。そしてそのネジはパイプ椅子に使われているのもから発覚したが、旅客機やら新幹線の椅子に使われているネジの強度も……ってストーリーだ。


 不正の隠蔽、リコール隠しと言えば、2000年に発覚した三菱自動車のリコール隠しだろうな。そもそもが内部告発から国交省の監査に発展して明らかになったのだが、2004年に再びヤらかした。この2回のリコール隠し=隠蔽によって三菱自動車は凄まじい数の退職者を出し、筆頭株主が資本提携を打ち切っちゃったもんで2000年では3,500円の株価が720円まで下落。バス会社やトラック会社は軒並み三菱自動車・三菱ふそうの車両を購入しなくなり、それは乗用車部門でも同じで、三菱の車は嘘のように売れなくなった。普通なら倒産するぜ。でも三菱グループだもんね~。そのグループには三菱重工業が入ってるから凄まじい援助・救済でなんとか生き残った。この事件からじゃないかな? 日本でコンプライアンスが叫ばれ始めたのって。ちなみに池江戸潤の「空飛ぶタイヤ」はこの三菱事件を基にしているんだけど2006年に単行本化されていて、「七つの会議」は2012年なんだよね。三菱自動車事件以降も企業の不祥事って、村上ファンドのインサイダー取引(2006年)、石屋製菓の賞味期限改ざん(2007年)、船場吉兆の食品偽造(2007年)、ミートホープの牛ミンチ偽装(2007年)なんて事件がテレビ・新聞・雑誌を賑わせた。


「七つの会議」の主役は野村萬斎なんだけど、彼は最後の最後に内部告発に踏み切る。そして映画のラストでは役所広司が演じる弁護士に聞かれるんです。「企業の不祥事・隠避体質を無くすにはどうすれば良いと考えますか?」と。それに対して野村萬斎はちょっと考えた後に答えた。「………無くならないでしょうね~~、忠誠心なのかな………日本では江戸時代の頃から藩の為に武士は命を削っていた。その藩が現在では会社に変わった。サラリーマンは会社のために命を削っていますから………無くならないでしょうね~」的なことを言うの。うん、これって真実だと思う。企業にとっての正義って、それが株式を上場している企業であればなおさらなんだけど、どんな綺麗ごとを言ったところで「利益」なんだよね。だからその正義である利益を上げろとプレッシャーを掛ける経営陣。そしてそのプレッシャーに押されて偽装までして利益を上げようとする現場。これって江戸時代の武士の忠誠心じゃなく資本主義経済の宿命なんじゃないかな~。うん、どっちにしても無くならないと思う。



 ところで「七つの会議」という題名の意味なんだが、会議が7つ描かれている訳ではない。ネットで調べてもこの題名の意味がどうにもハッキリしないから、これはあくまでも俺個人の推測なんだけど、先ずは「会議=企業」だろうな。そして問題なのは「七つ」というのがナニを意味してるかだ。最初は「七つの大罪」かな? とも思った。七つの大罪というのは次の通り。


 ①傲慢(他者を軽視し自己中心的)

 ②強欲(必要以上の富を求め、更には権力を追求)

 ③憤怒(制御不能な怒りや復讐心)

 ④嫉妬(他者を妬み、他者の評価を下げようとする)

 ⑤色欲(制御不能な性的欲望、又は制御不能な欲求)

 ⑥暴食(快楽的なものを過剰に摂取)

 ⑦怠慢(やるべきことを先送りにする、又は放棄する)


 だけどどうも違うような気がする。特に⑥の暴食が映画の中では描かれていなかったと思う。

 ステーブン・R・ゴヴィー博士が執筆した「七つの習慣」というものがある。もしかするこコレか?? 要は、「七つの習慣」に書かれている事が全く実践されていないのが「七つの会議」か??


 一つ目の習慣は「主体的である」だ。自覚、想像力、良心、意思を使い、自分の人生の責任を引き受ける。

 二つ目の習慣は「ゴールを思い描くことから始める」だ。これによって確固たる信念が生まれる。

 三つ目の習慣は「最優先事項を優先する」だ。優先順位で言うと「緊急で重要」>「重要だが緊急ではない」>「緊急だが重要ではない」>「緊急でも重要でもない」

 四つ目の習慣は「win winを考える」だ。相手の立場に立ってモノを考え、互いの力らを合わせる。

 五つ目の習慣は「共感による傾聴」だ。徹底して相手を理解する。

 六つ目の習慣は「シナジーを創り出す」だ。自分と異なる他者を受け入れ相乗効果を出す。

 七つ目の習慣は「再新再生」だ。自分自身を磨け。刃を研ぐように磨いて再新を保つ。



 う~ん……「七つの習慣」の反面教師的な映画が「七つの会議」じゃないかな~と俺は思うのです。ただ、そんな小難しい話はどうでも良くって、とにかく凄く面白い映画だ!! ただ池江戸潤の小説が原作だから企業内のお話しなんだよね。俺は凄く好きだけど、好みが分かれるかもしれない。




 追記


 随分と長い感想(1万文字を越えちまった)で更には、「シャイロックの子供たち」の感想のはずが途中から「七つの会議」になっちまったぜ。

 最後に、シェイクスピアの戯曲「ヴェニスの商人」でシャイロックが述べた有名な台詞を書いておく。


 おれはユダヤ人だ。ユダヤ人には目玉が無いのか? ユダヤ人には手が無いのか? 五臓六腑が無いのか? 感情や感覚それに情熱が無いっていうのか? キリスト教徒とおなじもの食ってんだよ。同じ武器で負傷だってするし、おなじ病気にもかかってる。おなじ治療をうけて治ってるじゃないか。冬の寒さや夏の暑さを感じないとでもいうのか? ユダヤ人は針で刺されても血が出ないとでも? くすぐられても笑わないとでも? 毒を飲まされても死なないとでも? っで、あんたらに酷い目に合わされても復讐しちゃいけないとでも言うのかい?

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