第76話 邦画「ラスト マイル」
2024年に公開された日本映画のラストマイルについての感想を書くぞ……但し、クソミソに書くから。
けっこう新しい映画だから出来るだけネタバレにならないようにしよう、と思うが、書いちゃうかも……
監督は篠原あゆ子。映画の監督よりもテレビドラマの演出を数多く務めたみたいだが、よく知らない人。40代後半だそうだ。生年月日が非公表で、どうにもそこらへんから好きになれない。ただ、ドラマの演出ってのがよく解らない。昔は監督の下に演出家がいて、監督や脚本家の意見を汲み、脚色していくのが演出家だったが、今のテレビドラマであれば、監督がいるのであれば演出家はいない。演出家がいるのであれば監督はいないケースが珍しくはない。
まぁそこらへんは置いておいて、この映画の脚本は野木亜紀紀。この人はもともと女優を目指したが挫折し、そして監督を目指すも挫折。っで脚本家になったというチョっと変わり種なのだが、図書館戦争や空飛ぶ広報室、そして、逃げるは恥だが役に立つ、アンナチュラルなど、大ヒットドラマを次々に生み出した、と言われてるが、俺が観た事があるのは図書館戦争と空飛ぶ広報室ぐらいかな~~。図書館戦争はしょーもなかった。
ここから映画「ラストマイル」の感想に入るのだが、興行成績が51億円を超えたんだって。う~~ん、どうしてなんだろう?
俺は満島ひかる、それと岡田将生が好きなもんで、この二人が主演を張る映画なんだから相当に面白いだろうと観たのだが、イマイチどころか、全然ダメだった。
それと題名のラストマイルなのだが、俺は震災時のラストワンマイル問題をテーマにした映画なのだろうと勝手に想像してた。うん、ポスターを見れば解りそうなもんなんだけど……あははは……
ここで話は横道に逸れまくるが、震災時のワンマイル問題についてを書いちゃう。
震災時に被災地に送る物資には、支援物資と義援物資がある。支援物資というのは政府が管理して被災地に送られる物資。っで義援物資は個人や姉妹都市が報道を見聞きし「これは大変なことになってる。俺たちに出来ることをやろう」と考えて被災地に送った物資のこと。
東日本大震災の時に、この義援物資が大量に被災地の保管所に届き続けた。うん、毎日毎日、凄い量だったそうです。しかし問題が幾つもあって、それは次の通り。
被災地の保管場所が狭い。そしてフォークリフトもなく、保管に適した建物ではなかった。
義援物資の種類がアイテム数にすると何千・何万種類にも及び、アイテム毎の保管など不可能だった。
義援物資の中には、口の開いた段ボール箱やビニール袋に入った物も多く、段積み保管が不可能だった。
義援物資は、何時、何処から、何が、どれくらいの量で送られてくるのか分からず、計画が全く立たなかった。
これらによって、一時保管の為の施設がパンクーーーどこに何があるのか全く分からない。だから必要なモノを取り出せない。必要なモノが送られてきていたのかさえ分からない。それなのにどんどん送られてくる。
っで熊本地震の時にこの教訓を生かし、次の点を徹底しようとした。
①義援物資を送らないで欲しい。
②支援物資を被災地に入れるな。
この②にある「支援物資を被災地に入れるな」というのがチョッと解り難いのだが、被災地に支援物資の一次保管場所を作ろうとすると、そこは当然被災地だから、もともとは保管に適した倉庫であろうとも、どんな状況にあるのか分からない。だから被災地と隣接した県ーーー被災していない県の倉庫に支援物資を一旦集め、そこから個別の配送を行う。そういった意味での「支援物資を被災地に入れるな」ということだ。
これで整理がついた部分もあるにはあるが、必要としている人に必要なモノが届かない、といった問題が改めて浮き彫りになった。それがワンマイル問題。最後の1マイルをどうやってスムーズに配送させることが出来るのかが、未だに研究されている極めて大きな問題なのだ。
そんな映画なのかと思ったのだが、全然違った。2024年問題で注目された宅配業のラストマイル問題だった。
だけどラストマイルという宅配業の問題を題名にしてる割には、メインストーリーが宅配ではなく、巨大なショッピングサイトの流通加工業務を行っている施設がメインのお話し。っで、視点がその施設と宅配と警察と法医学に分散されていて、なんだか凄く雑な造りの映画って印象。これね~宅配に特化した映画にした方が面白かったんじゃないかな。
この映画には原作はないのだろう。監督は「夜中にポチっと注文した荷物があなたに届くまでのお話を、ビールとポップコーンにあう映画に仕立てた」と言っているそうだ。っで脚本家は「宅配荷物が爆発する話で、物流が止ると大変」という監督のワンアイデアをネタに一本書いたとのこと。う~ん……まず最初に書いておくけどさ~、物流全体の中で宅配の占める割合って確か9%程度なんだよね。だからさ、何らかの理由によって宅配が止ったとしても、物流は止まらない。それは些細な事実なんだろうけど、この映画を見て、まっさきに感じたのは「取材ってしてないの??」だ。あまりにも現実とかけ離れた内容に驚いちまって、正直、冷めた。うん、観てる途中に冷めた。原作があれば、それを書いた作家さんが取材をしながら物語を構築するのだろうけど、監督のアイデアを基に脚本家が作った? 映画に登場する巨大ショッピングサイトの運営会社や宅配会社には内容のチェックをしてもらっていたのだろうけど……
先ずローッカーに書かれていた「2.7m/S→0、70㎏」というメッセージの意味が最後の方で解る仕組みなのだが、このメッセージが出た時点で「あ~、これはベルコンの速さだろうな。っで70キロは人の体重だ」と分った。だって施設内で稼働してるベルコンやら、仕分けをしているロボットが随分と映し出されていたからね。だが「0」というのが解らなかった。というのも人が乗ったところでベルコンは止まらないぜ。だからベルコンに巻き込まれて死んでしまう事故が起きるんだよね。うん、絶対に止まらない。それを知らなかった奴がベルコン目掛けて飛び降りたって設定なんだろうけど、派遣社員でもない正規の社員が知らないかね~? 映画に使われていたような施設で使用するベルコンはオーダーメイドだよ。既製品じゃない。だから緊急時の停止スイッチは何処にある、とか、巻き込まれた人を助け出す為にベルコンを逆回転させるにはどうやるのか、なんてことは絶対に知っていなければならない。素人同然の派遣社員が何千人も働いてる職場であれば、年に数件は巻き込まれ事故が発生してるはず。そんな環境で、人間一人が乗ればベルコンは止まると考える社員がいるかな~。社員がゴッサリいるのなら分かるけど、ほんの数人しか社員がいない職場で、飛んだヤツの後任の後任の後任が岡田将生だよ。
そんな事を気に掛けながらもこの映画を見続けたのは、メッセージに隠された意図があるのだろうと思ったからで………でも隠された意図は無かった。ただ飛び降りた奴は事故ではなく自ら飛んだと分るメッセージだった。うん。だけどそれがナニ? なんでそんなメッセージを「謎」のように引っ張ったんろう??
ただ、このメッセージを書いたヤツは、多忙な業務に心を病んでしまいベルコン目掛けて飛ぶのだが、それでもベルコンは止まらなかったというのは、「巨大な経済システムの一部に組み込まれた人間が、そのシステムを止めようと藻搔いたところで、決して止りはしない」といった現代社会を比喩で表したものなんだろうけど、ベルコンを使っての比喩には無理がある。
ベルコンに起因した死亡事故って毎年発生してて、4日以上の休業を要する事故なら千件以上も毎年起きてるから、労働局はベルコンの事故については凄くうるさいし、緊急停止装置の設置を義務化してる。「ナニか起きれば全部を止めろ」が鉄則。
そしてこの映画のようにベルコンの上に落下した事故が起きると、警察は事件性と過失を疑うけど、労働局は安全管理義務違反を疑う。警察だけでなく労働局も捜査権を持ち、手錠まで持ってるから、映画のようにベルコンをそのまま稼働させたなんてバカな管理者がいたら書類送検どころじゃなく、身柄送検されるし、事故現場は強制的に稼働停止。外国資本の企業だろうがお構いなし。それを有耶無耶にしようとしても数千人も派遣労働者がいたのであれば、彼らは雇い主に不満こそあれど、忠誠心なんか無い人が大半だから、絶対に胡麻化しきれない。それなのにベルコンは稼働させ、そしてメーッセージが書かれたロッカーには鍵を掛け、だけど誰もそのメーッセージを消さずに何年間もそのままにした意図って………いったいなに?
そして、「いや~~こいつバカだ」と思っちまったのが、満島ひかる演じるセンター長。爆弾がこのセンターで保管・仕分けされている商品に入っている可能性が高いから出荷を止めてくれ、と警察から要請された際、何億という損害が出るから止められない、と答えるの。これね~~要請の段階で協力しないと令状を出される。令状出されたらアウトだよ。「はい! 全員商品から離れて!! 一切手を触れない! 電話を掛けるのも禁止! 全員別室で待機! 帰宅するのもダメ!!」ってことになる。センター長って管理者だよね? そんなことも解らない管理者ならどーーしようもない。もう、有り得ない設定。
おまけに、「警察が金属探知機で全商品を調てくれるから、検査が終わった商品は警察が安全を保障してくれたってことだから、大手を振って出荷できる!」みたいなことを言い放つんだよね。これさ~バカだよ、完全にバカ。警察が安全を保障するまで全てストップだからね。それは商品の安全ではなく、一般市民の安全のためだから、検査に何週間掛かろうがストップが解除されることはない。大手企業であろうと、たかが民間の一企業の利益を優先して、爆弾を見逃す訳には絶対にいかない。
ただね~、この映画には「再生」と「希望」が中心に据えられてる、と監督がインタビューで語ったらしい。悪いけどそんなモノは俺には見えなかった。
上にも書いたんだけど、俺が仮にこの設定で映画を作るなら絶対に宅配をメインに撮るな。宅配のセンター長を阿部サダヲが演じていたんだけど、彼ならもっと強烈な役柄を熟したと思うな~。
先ずね、巨大ショッピングサイトからの業務が、この運送会社の売り上げ全体の6割を占めているという設定が強引すぎる。あれだけの流通加工業務施設を有する外資系の企業なら、もっと規模が大きな運送会社、それも数社と契約する。阿部サダオが勤務する運送会社は、そのショッピングサイトが「右を向け!」と言えば、当たり前に右を向いてしまう、そういった力関係に描いてるけど、一つの顧客に頼り切った運送会社は中小企業だよ。映画として面白くないし、リアリティーにも欠ける。
宅配というのは荷物を受託ーーー宅配業者が荷物を受けた時点で、その荷物の責任が宅配企業側になる。だから、危険物や爆発物は受託しないし、出来ない。ショッピングサイトから出荷された荷物に爆弾が入っている可能性があると分れば、配送に向っている車両全てを止める措置をし、ターミナルも完全封鎖、っでそのショッピングサイトからの新たな受託も停止。それらのことを阿部サダヲが本社に掛け合い、そして陣頭指揮を執ってやり切る。当然ショッピングサイト側との攻防は激化する。そんな映画の方が俺は好きだな。あの映画の設定通りならね~、病んで自殺しちゃうのは阿部サダヲだよ。
そもそもベルコン目掛けて飛んだヤツは、出荷が極端に集中するブラックフライデーが怖かったらしいが、満島ひかるが赴任してきた時期も、もうすぐブラックフライデーの時期だったと思う。だけど満島ひかると岡田将生の仕事ぶりからは、それほど業務に追いかけられているようには見えなかった。だから数年前に飛んだヤツは、なぜ病んだのかがサッパリわからない。
いや~~~なんだか文句ばっかり書き連ねちゃったけど、満島ひかる、岡田将生、阿部サダヲ、この3人が出演して、他にも随分と豪華キャスト揃えまくって………この映画はないわ。
こんな映画が日本映画をダメにしてる! と俺は声を大にして言いたい!!




