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第72話 邦画「野獣死すべき」

 ここで書こうと思ってるのは、1980年製作で松田優作が主演の「野獣死すべき」だ。

 と言うのも、この映画の原作は大藪晴彦の「野獣死すべき」なのだが、この小説の映画化はこれが初めてではなく、1959年に仲代達也主演(配給は東宝)で映画化され、その続編として1974年には藤岡弘主演(配給は東宝)で映画化されていて、続編版の題名は「野獣死すべき 復讐のメカニック」だ。

 ちなみになのだが、原作は大藪晴彦のデビュー作で1958年に発表され、そして続編の「復讐編」と「血の来訪者」でもって野獣三部作と言われている。

 又、1997年には木村一八主演の「野獣死すべき 復讐編」というオリジナルビデオが作られるなど、幾度も映像化がなされた人気小説なのだ。


 そんな前置きはどうだっていいのだが、とくかく松田優作の「野獣死すべき」を久々に観たのだが、凄すぎるぞ、この映画わ。

 俺は原作は読んでいないし、仲代達也バージョンも藤岡弘バージョンも観た事がないからハッキリは解らないが、松田優作バージョンは原作とは全然違うらしい。うん。ちょっと変えたちゃった……というレベルではないそうだ。

 脚本を書いた丸山昇一がインタビューに答えている。


「あまりにも原作とかけ離れた主人公を描いたため、大藪晴彦とは顔を合わせられない」


 その大藪晴彦はこの映画を観て、脚本を書いた丸山氏に大激怒したみたい。

 だけど丸山氏にしても、「俺だけのせいじゃねぇからな」と思ったはずで、撮影が始まると松田優作がアドリブをガンガン入れて主人公像を作っていっちまうわ、監督の村川透も「おお、それいいね!!」とOK出すだけじゃなく、「いや、こうやった方がいい!!」と言ったりと。

 主演の松田優作と監督の村川透の二人は、原作を読んだことがあるのか、一切読んでいないのか知らないが、丸山昇一が書いたシナリオを巡って激論を交わしながら作った映画が「野獣死すべき」だ。う~ん……凄いね、としか言いようがないのだが、脚本を書いた丸山さんがちょっと気の毒。原作者には怒られるわ、撮影ではどんどん変えられるわ。

 っで笑っちまうのはラストシーン。そのラストシーンは謎のシーンで正しい答えがない。視聴者に対し「どういう意味なのかは、みなさんにおまかせします」というような、観る者によって解釈が違うラストなのだが、もちろん原作とも違うが、そういう脚本だったのか? というと、それもちょっと違うみたいで、松田優作のアドリブが多分に入ったあげくのラストシーン。

 サイレンサー付きのライフルから発射された弾丸が、ヒュン、ヒュン、と風を切る音が2度聞こえ、松田優作が撃たれたように崩れ落ちるのだが、血痕らしきものは見えない、というラストで映画は終えるのだが、そこはきっと脚本通りだろうな。問題なのは次に書くシーンだ。


 クラッシックのコンサートホールで目を覚ました松田優作。周りには誰もいない。そんなホールをキョロキョロしながら出口にむかい、そこで片手を挙げ、天を指さす。それは洞窟で示した同じポーズだ。そして突如「あーっ!!」と奇声を上げる。誰もいないホールに響き渡る奇声。一呼吸おいてもう一度「あーっ!!」と奇声を上げる松田優作。


 このシーンって全部が松田優作のアドリブらしく、撮影していたカメラマンの仙元さんは、「ぇ………今のってナニ?」と監督に聞いたそうだ。すると監督は「…………分らん……俺にも」と答えたらしいが、なぜかOKか出てそのまま使われ、ラストシーンに繋がっていく。


ちなみにだが、この映画のラストは、俺は「夢落ち」説を取る。



 松田優作が演じたのが伊達という名の人物なのだが、原作では野性的なタフガイらしいが、この映画の伊達はPTSDによって精神を病んだサイコパスみたいな男。

 松田優作は役作りのために10キロ減量し、それでも痩せて見えない、もっと頬がこけていなければダメだ、と奥歯を4本抜いたらしい。どうして一つの映画の為にそこまでヤル? それも監督から「もっと痩せろ」と指示されたのならまだ分かるけど、撮影現場に現れた幽霊みたいな不気味な風貌の松田優作を見た監督は激怒したとか。



 そしてこの映画で俺がスゲーーーと思ったのが5点ある。


 先ずは、この映画のポスターだ。

 真っ赤なドレスを着た小林麻美が仰け反るように松田優作に身体をあずけ、その小林麻美を後ろから抱きかかえている真っ黒なスーツを着た松田優作。松田優作は片手に銃を持ち、死んだように身体から力が抜けている小林麻美のドレスの下半身は薄っすらと透けている。


 こんなポスターなのだが、映画でこんなシーンは無い。うん、小林麻美がすごくセクシーでそそられるポスターなのだが、映画には一度もそんなシーンは出てこない。それに真っ赤なドレスの小林麻美なのだが、この映画で彼女が演じる女性は、こんな派手でセクシーな女ではなく、どちらかというと地味で大人しい女性だ。それと真っ黒なスーツに身を包んで銃を構える松田優作は誰が見ても「殺し屋」。だが松田優作が演じる伊達という男は、そんな絵に描いた殺し屋ではない。うん、このポスターって何なんだろう??



 2つ目は、泉谷しげるが出演しているのだが、公園で寝そべる男。ただそれだけの役だぞ。もっといっぱい出てたけどカットされちゃったの? それとも最初っから寝そべるだけの出演?


 3つ目は、前半の30分程度は台詞らしき台詞が殆どない。ほとんどの登場人物が重要なことを喋らないから、説明めいたクドイ台詞なんて一つもないんだけど、映像だけで全部を理解させる造りは、凄い。


 4つ目は、加賀丈史。この時の加賀丈史って、変なギラギラ感があって爬虫類みたいなんだよね。いつのまにか人間らしい雰囲気になっちゃったけど、あの当時の加賀丈史の持つ雰囲気は、いいね~。


 5つ目が、この映画のイチ押しのシーンなんだげど、列車の中で松田優作と室田日出男(刑事)が向い合せの席に座ったままでの対決シーン。凄い長回しのシーンで、おそらく10分以上あったと思うんだけど、松田優作は一度も瞬きをしない。そして弾が1発だけ入った銃を室田日出男に向けて、ロシアンルーレットをやるの。引き金を引くたびに室田日出男の顔に汗が浮かんで、4回目の引き金を引いたあたりから室田日出男の顔を汗が流れていくのまで映ってる。あれってどうやった?? もの凄い緊張感が伝わるシーンなんだけど、あれは実際の汗だよ。うん、霧吹きで吹きかけた偽モノじゃない。

 そしてこの対決シーンでリップヴアンウィンクルの話を松田優作が室田日出男に語るんだけど、あまりに強烈なシーンのせいで、俺は、松田優作が句点もつけづに一気にしゃべったように覚えていたんだけど、違った。間を空けて、ゆっくりと、ゆっくりと、目の前で怯える室田日出男の様子をジックリと見ながら語ってたわ。



 とにかくこの映画は原作者にとっては気に入らないものかもしれないが、傑作映画だと俺は思う。



 追記


 松田優作って原田芳雄のことを凄く尊敬していて、若い頃は原田芳雄の喋りかたを真似ていたって聞いたことがあるのだが、実際はそれどころか原田芳雄の家の隣に自分の家を建てたらしいぞ。そんでもって原田芳雄に「どうせなら垣根をとっぱらいませんか」と提案したが、やんわりと断られたらしい。うん、なんだか可愛いぞ。

っで、松田優作って太陽にほえろでデビューして、竜馬暗殺で原田芳雄を共演。若手俳優として知られる存在になった頃に暴力事件を起こし、しばし謹慎。

っで謹慎明けに出演した映画が「暴力教室」。ギャハハハハハ、そのまんまやんけ。そんで面白いのが、この映画には当時の本物の暴走族を出演させていて、その暴走族のリーダーが舘ひろし。

今の舘ひろしはすっかり毒が抜けちゃって、なんだかな~って感じだけど、若い時はギラついてたな~。

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