第7話 宇宙人の解剖
この映画は見終わった後に色々と調べたくなるーー興味を搔き立てられる映画だ。
2006年公開のイギリス映画で、原題は「Alien Autopsy」といって「宇宙人の検死」という意味だそうだ。ちなみにこの映画は日本での劇場公開はされていない。
しかしながら、どこまでが本当で、どこからがウソなのかが非常に解りずらい、というよりハッキリ解らない。映画の宣伝文句、並びに映画冒頭には「事実に基づいた…」とあるが…これが、コメデイ映画なのだ。
主人公のレイが仲間と一緒になって宇宙人の死体に見えるものを作り、その死体もどきを科学者に化けた仲間が解剖する様子を8mmカメラ(もしかすると16mmかもしれない)で撮影し、それを【①「本物の宇宙人が1947年に死体で発見されていて解剖までしていた。それがこの映像だ!!」と1995年に全世界に発表】していて、【②「その内幕を描いた」と勝手に言っている】のがこの映画だ。
上記の①に記載した部分は事実であり、日本でも1,600万円で著作権を現金で買い取り、1996年にフジテレビ系列においてゲストにビートたけし、大島渚、伊集院光などを招いて「17分間の宇宙人解剖手術映像」がテレビ放映されたのだ。日本での視聴率は20%を超えーー実は俺も観たーー世界中で大反響を巻き起こしている。併せて、日本ではこのフジテレビ系列で放映されたものがビデオソフト化までされたのだ。しかし冒頭にも記載したように、この映画はコメデイの名手との呼び声が高いジョニー・キャンベル監督が仕掛けた「史上最大の捏造事件騒動」を描いた【③「衝撃のSFコメデイ」】だ。
上記③にある「衝撃の」について、なぜ衝撃なのかは、この映画が上映される2日前(2005年)に、「1995年に全世界で放映された【17分間の宇宙人解剖手術映像】は僕たちが作った捏造でした。だけどさ~、本物の映像は他にあるんだよ~~ん」てな発表をしちゃってて、それまでーー1995年から10年間は、専門家ですら「あれは本物だ!」、「ふざけるな、偽物にきまってる!」との論争がずーーーと続いていた為に、まさしく「衝撃」ではある。
上記②の「その内幕を描いたと勝手に言っている」については、何度も書いているようにこの映画はコメデイだ。それ故に、内幕の真相すら怪しいと俺は思っている。
映画内容について少し触れてみる。
レイという名のイギリス人の男ーーこれがそうとうにチャライ男なのだが、友人でかなり真面目なイギリス人の男と二人でアメリカに行って一儲けを企む。「エルビスの映像を求む、高く買い取ります」との新聞広告を出すのだ。要は、アメリカ人であればエルビスの貴重な映像を持っている人もいるはずで、本国イギリスに持ち帰れば高く売れるだろう、と目論んだのだ。そんな中、無声ではあるがエルビスの珍しい映像フイルムを持参してきた爺さんが、「実はもっと凄いのが映ってるフイルムを持ってるんだ、観るか?」と持ち掛け、それが「1947年に撮影された宇宙人解剖映像」なのだ。譲って欲しければ3万ドル。そんな大金など持っているはずのない二人だったが、しかし、レイがスポンサーを見つける。そいつが確か「画商」のような商売をしているヤツなのだが、絵画以外の物であっても珍しくて価値がある物であれば手を出すやからなのだが、どう見てもサイコなサクザ。そんなサイコヤクザに何故か信用されたレイは3万ドルを借りて例のフィルムを手に入れた。しかしそのフイルム、50年前の物で保管状況が劣悪だったためにイギリスに戻って来た際には殆どオシャカ状態。サイコヤクザに殺されてしまうと怯えたレイは、自分の祖母ちゃんの彼氏ーー自称100歳超の爺さんがマネキンを作る会社を経営している事に目を付け、「俺が見たフイルムに出てきたあの宇宙人の死体を作ればいいんだ」と思いつき、仲間を集め捏造映像を制作。そして出来上がった捏造映像を観たサイコヤクザは涙を流して感動する。これがこの映画で描かれた捏造事件騒動の発生経緯だ。
ちなみに登場する宇宙人の死体は、手は2本、足も2本なのだが手足の指は各6本づつあって、妊娠しており腹が突き出ているからメスなのだろうが、ご丁寧にも股間に割れ目まである。それがこの映画は勿論の事、確か1995年当時にはボカシなしで全部がテレビ放映された。
ここまで読んだ紳士・淑女諸君はどう考えるか?
レイなる人物は実際でも映画の中でも捏造をゲロっている。しかし、誰がどう考えても「ウソだ!」と思うだろう事ーー「本物は別にある」を平然と言ってのけているのだ。やはり実際でも映画の中でも。
ある事柄・事実について世間から隠したい人達がいるとしよう。しかし、その事柄・事実が意に反して漏れてしまい世間に広がってしまった。どうやって追及を逃れるか。ただひたすらに「そんな事実は断じてない!」と否定をすれば良いのか? それでは返って逆効果になる。その事柄・事実に大量のフィクーー誰が聞いても「そりゃウソだ」と思われる虚偽情報を大量に含めて流す。そうすると、その中のたった一つの事実も誰からも信用されなくなる。
何故そんな事を書くのか? レイが言っている「本物は別にある」事をお前も信じているのか?
1995年にレイが発表する前からアメリカではロズウエルUFO事件というものが話題となっている。1947年にUFOがアメリカのニューメキシコ州ロズウエル付近に墜落し、回収された異星人の死体が解剖されたという目撃証言がそれだ。
レイが1995年に発表したものは、そのロズウエルUFO事件の異星人では? との憶測を呼んだが、当のレイの証言が二転三転し矛盾を多く含んでいたこともあって、ロズウエルUFO事件の真実を追求してきた人々からも「我々の研究を傷つけるものだ」と非難されてもいる。
だがこの映画、ずっと作り物の宇宙人死体を解剖するシーンが映されるのだが、最後のエンドロールの最中に映し出されるのが別のモノで、それがレイの言う「本物映像」なのか…
蛇足だが、ロズウエルUFO事件と言えば「エリア51」と関連する話に事欠かない。そのエリア51、1996年公開「アメリカ映画インデペンデンス・デイ」の中ではエリア51が実在する設定で描かれている。そしてインデペンデンス・デイではアメリカ大統領が名演説をするのだが、その大統領役を演じたビル・プルマンが、この映画「宇宙人の解剖」にも出演しているのだ。そして解剖される宇宙人の死体もグレイ型と呼ばれているタイプで、顔はインデペンデンス・デイに出てきたエイリアンと似た顔だ。まったくもってちゃかした作りの映画なのだが、どういう訳だか、冒頭に書いたような気持になってしまう映画なのだ。