第69話 リップヴァンウィンクルの花嫁
第68話に続いて岩井俊二氏の作品について書くぞ。
なんせ岩井ワールドと言われるくらいファンが多いのだろうから、もうちょっと別の作品も観てみようと思い、「リリイ・シュシュのすべて」を観たのだが……胸糞が悪くなり、感想など書きたくない。なんだアノ映画わ! 大体な~…………止めた。書き出したら止まらなくなりそうだ。
そんで気をとりなおした俺は「リップヴァンウィンクルの花嫁」を観たのだが、長いね~~、キリエのうたも178分と長かったし、胸糞のリリイ・シュシュのすべても146分、そんでもってリップヴァンウィンクルの花嫁は180分だ。3時間だぜ。昔の映画で3時間ものは映画館で公開される時には途中休憩があったらしいが、この映画はどうだったんだろう? まぁ、そんな話はどーーだっていいのだが、この映画の感想を一言でいうと「不思議なお話し」だ。
っで、題名にある「リップヴァンウィンクル」なのだが、なんとなく記憶にあって、2016年製作の映画らしいから、きっと数年前に観た事があるのだろうな~って思ってたのだが、初めて観た映画だった。だったらどうして記憶にあったのだろうと考えていたが、ドラマ版があるらしいからそれを観たのかとも思ったのだが、ドラマ版は2016年にBSスカパーで放映されたらしく、絶対に観てないわ。
っで、ついに思い出した!! なんで「リップヴァンウィンクル」って単語が記憶の隅に引っかかっていたのかを。
いつ観たのかまでは思い出せないが、松田優作主演映画「野獣死すべし」だよ。うん、うん。
「君はリップヴァンウィンクルを知ってるか?」
この台詞で始まる超超なが~い台詞を、松田優作が異様な雰囲気で、感情が欠如したように淡々と、だけど間合いもなく句点もつけずに一気にしゃべるーーーまるで稲川淳二の怪談話みたいにリップヴァンウィンクルのことを喋ってたわ。それで覚えてたんだ。
だから俺はリップヴァンウィンクルって薄気味が悪い話かと思ってたんだけど、浦島太郎みたいなお話しなんだね。
映画の話に戻るが、この映画を何故「リップヴァンウィンクル」というしたのかがイマイチ分からなかった。そんでリップヴァンウィンクルを調べてみた。
ワシントン・アーヴィングが1819年から1820年にかけて書いた短編集「スケッチ・ブック」に収録されたSFチックな短編小説がリップヴァンウィンクルらしい。内容を簡単に言ってしまうと次のようなお話しだ。
まだ大英帝国の領土だったアメリカの片田舎に住む、心優しい男がリップヴァンウィンクル。その性格から周囲の人々からも愛されていたが、横暴な妻からは虐げられていた。ある日、彼は愛犬をつれて猟に行き、山を登ると不思議な男達が集う奇妙な円形の建物に辿り着く。そこでたらふく酒を飲んでしまった彼は深い眠りにつく。目が覚めると愛犬がいない。そして持っていたはずの銃もない。奇妙に思った彼は山を下りて村に帰った。だが村は変わり果て、自分が住んでいた家は朽ち果て、村には星条旗がたなびいていた。村人に聞くと、リップヴァンウィンクルという男は20年前に銃を持って家を出たまま帰ってこないという。横暴な妻はすでに死んでおり、幼かった娘は大人になって子を産んでいた。そして自分の姿も年をとっていた。
世の中は、独立戦争後のアメリカだった。アメリカ合衆国の自由を保障されたリップヴァンウィンクルは、横暴な妻からも解放され、幸せに暮らしました。
こんなお話しなんだけどね、物凄く簡単に言ってしまうと、リップヴァンウィンクルが眠っている間に世の中が激変した。だけど彼は、鬼嫁がいなくなったことの方が重要だった、ってお話しなんだよね。ある意味においては「世間がどう変わろうと、俺は、俺個人の狭い世界が全てなんだよ。めんどくせーゴタコタなんか俺が知らない間に解決してくれたら最高だぜ!」という逞しさみたいなものが読み取れるけど、別の意味では「社会の仕組みがどう変わろうとそれに目を向けない人は眠ってるのと同じだ」という話にも読み取ることができる。
このお話が「リップヴァンウィンクルの花嫁」という映画にどう関係するのかというと、「3.11」なんだろうね。原発事故まで起きてるのに、冠婚葬祭への代理出席商売、別れさせ屋、息子を溺愛する子離れできない母親、若い男と逃げた嫁、教師イジメを楽しんでる子供たち、病をおしてまで仕事に励むAV嬢………みんな逞しいよね。だけど何かから目を背けて生きてる……ってことなのかな~~~
それと、冠婚葬祭への代理出席商売なんだけど、こんな商売ってあるの? って思ってネットで検索したら、あるわ、あるわ、驚いたね。っでその商売をやってる業者のうたい文句が「偽者だとは決してバレません」だって。へ~~凄いね~プロだね~。でも需要があるからそんな商売でも成り立つんだろうけど、いったいどんな人が依頼するんだろう? すげー興味あるわ。だってさ~結婚式ならまだ解るよ、この映画みたいに、向こうの親族はいっぱいいるのに吊り合いが取れない、って見栄をはるケースはあるだろうけど、葬式の焼香客までとなると……。今(2024年)ならコロナ禍以降だから葬式なんてどんどんコンパクトになって家族葬が主流になりつつあるけど、この映画が製作された当時(2016年)はそうでもなかったのかな? 今となってはあまり覚えてない。
ここで「リップヴァンウィンクルの花嫁」という映画について、俺の率直な感想を書こうと思うが、映画に散りばめられた様々な設定について、リアルの世界でもあり得るものを書いてみる。
男性との恋愛経験がない成人女性はいる。
マッチングアプリのようなサイトで知り合った者同士が結婚するケースは珍しくはない。
アプリを使ったら簡単に男ができた、とネットに書き込んでしまう女はいる。
声が小さすぎるという、先生にとって致命的な欠点をもった教師はいる。
生徒にいじめられる教師はいる。
成人した息子と大の仲良しな母親はいる。
息子の嫁となる女の家庭環境を調べる母親はいる。
別れさせ屋はいる。
身に憶えの無い疑いをかけられることはある。
理不尽なことをされても戦えない人はいる。
第三者から夫の浮気を告げられても、それを夫に確かめる事ができない女はいる。
夫の浮気をネタに、身体を要求された女はる。
実の母親が若い男と出来ちゃって、父親と離婚している人はいる。
夫になる男に自分の家庭環境を隠して結婚する女はいる。
夫になる男に隠れて「代理屋」に自分の親族としての結婚式出席を依頼する女はいる。
現在でも結婚前に結納を取り交わす人はいる。
夫の母親から離婚を強制される女はいる。
AV女優になり家族から絶縁された女はいる。
体調が極端に悪いのにそれでも仕事をする人はいる。
病気を苦に自殺する人はいる。
毒を持った生き物を好んで飼う人はいる。
酒を飲むと全裸になる人はいる。
他人には理解できないモノに金をつぎ込む人はいる。
友人と呼べる人が一人もいない女はいる。
住む家が突然なくなった女はいる。
他にも色々とあったような気がするけど、切りがないからここらで止める。
上に書き出した事の一つ一つは実際にあり得るんだけどね、短期間に1人の女の、自分を含めた周りで全部が起きるなんてことはチョっと想像できないんだよね。だから俺はこの映画を観てる内に、だんだんと白けてきちまって、「なんだかな~……」という、感想にもならないような感想が率直な印象。この映画が完全にコメディー映画であれば「あり」だと思うけどね。
っで、どうしても思っちまうのが、上にも書いたんだけど、この映画って物凄く長いんだけど結納のシーンって必要?
映画では妻になる女(黒木華)の母親がかなり突き抜けた女で、夫になる男の両親は「あんな母親の娘がうちの息子の嫁になるのか?!」と思ってしまうシーンとして描かれたんだと思うけど、両家の顔合わせで会食ってシーンで良かったんじゃないのかね? 「いく久しく……」なんて仰々しい台詞を述べる結納の儀とした意図って、「こんな儀式はムダだ」と表現するためなのか、それとも「日本固有の素晴らしい伝統だから堅持すべきだ」と言いたかったのか、どっちなんだろう?
現代の結納でも、男側が結納金として渡す相場は100万円程度で、結納品の費用は10万円ぐらいらしい。そこまでやる家柄であれば仲人を立てないかな~。
それとどうにも腑に落ちなかったのが、真白というAV女優(演じてるのはCocco)が死んでしまう事なんだよね。主役の七海(黒木華)が一人で生きていくというエンディングに向かうには、真白が居なくなった方がいいのだろうけど、それだけのために死なせたとしか思えなかった。
この映画って岩井俊二監督の「集大成」とか「最高傑作」って言われてるらしく、ネットの感想を読んでも「賛美」の嵐なんだよね。正直、気味が悪い。
俺は黒木華の大ファンなのだが、この映画を再び観ることは絶対にない。
あ、それと、この映画での黒木華は凄く可愛い。うんうん。稀勢の里に似てなくてマジでホっとした。
追記ーーー
題名にまで使ってるリップヴァンウィンクルというより、不思議の国のアリスを連想させる映画だと思ったな~。




