第64話 1979年版「地獄」
この映画はリメイクというか……作り直してほしい!!
前半部分が1977年版の映画「八墓村」を彷彿させ、尚且つ、悪魔が来たりて笛を吹く、のように親近相関ーーーインモラルでタブーな性愛が核になっているホラー映画なのだ。
ちなみに、
映画版「八墓村」1977年公開、野村芳太郎監督、脚本は橋本忍、配給は松竹、原作は横溝正史。
映画版「悪魔が来たりて~」1979年公開、斎藤光正監督、脚本は野村龍雄、配給は東映、原作は横溝正史。
映画版「地獄」1979年公開、神代辰巳監督、脚本は田中陽造、配給は東映、原作は無し。
この「地獄」なのだが、上にも書いたように原作が無い。当時の東映の社長から「因果応報の世界を地獄として描いてくれ」と要請された神代監督が、脚本家の田中陽造と打ち合わせに入り、最終的には「不倫の無間地獄に陥った女の因果応報」のストーリーを作ったという。
この映画の後半はそれはそれでいいんだけどね………とにかく主要な登場人物がみんな揃いも揃って死んじまって「地獄めぐりツアー」が始まっちゃうんだけど、まぁ題名が地獄だからね~……ただね~~当時の技術だから今観てみるとチャッチぃんだよね、地獄が。それに、前半のーーー八墓村を彷彿させる部分が1時間あって、それから30分が人が次々と死んでいくんだけど、最後の30分が地獄めぐり。これってさ~別の映画にした方が絶対にいいよ。
監督の野村芳太郎って人物が、70年代の日本ロマンポルノの代表的な監督なんだよね。ただ、東宝で撮った「青春の蹉跌」というポルノやピンクではない映画は高評価で、それ以降は日本映画の著名監督の一人に名を連ねる監督なんだけど、この「地獄」を含めて東映で撮った映画はあまりパッとしなかったみたい。
でも「地獄」の前半部分っていうのか、設定、若しくはプロローグ的な部分は凄く良い。「姦通」という村社会ではタブーから生まれた娘が、20年の時を経て今度は「親近相関」という根源的なタブーから逃げることが出来ない中で、次々と関係者が死んでいくというお話し。そこで終われば横溝正史の作品以上にドロドロとしたホラー映画になったはず。だから冒頭にも書いたが、この映画は撮り直してほしい。別の監督で。でも原作のないオリジナル作品だから無理か?
結局はこの映画、ポルノのようで、愛憎劇のようで、ホラーのようで、ジャンル不明の映画なのだが、R12でもR15でもなければ18禁でもない。
主演は原田美枝子なのだがミホという名の母親役と、アキという名の娘役という二役だ。
彼女がこの映画のオファーを受けたのが19歳だったというから驚き。っでチョっと調べてみてもっとビックリ。彼女が映画デビューしたのが1974年の「恋は緑の風の中で」という東宝映画だ。この映画は「10代半ばの少年の性への目覚めと戸惑い、そして幼馴染の少女との切ない恋」というお話しで、日本映画が初めて捉えた「思春期における美しい性のめざめ」として有名らしい。
中学3年役だった原田美枝子は実際には高校1年生の15歳なのだが、みごとにヌードを披露している。そしてこのシーンが通っていた高校で問題となり、原田美枝子は夜間高校への転校を余儀なくされた。そんなこともあってか、この「地獄」という映画でもまだ成人前だった原田美枝子は見事にヌードシーンを演じ切っている。
ちなみに原田美枝子の公表されている身長は157㎝だ。そして顔はちょっと細長で決してパンパンな丸顔ではないのだが、10代の彼女の身体は顔に似合わず豊満で、まるで外人にような身体をしている。第43話ロスト・イン・トランスレーションでも書いたが、スカーレット・ヨハンソンが160㎝だから身長はあまり違わない。そしてヨハンソンの体重は57キロだそうだ。若い頃のヨハンセンはマリリンモンローの再来と言われ、大変なグラマーだったのが或る時期からーーーグラマーであるために役を逃したことも多々あったらしく、減胸手術をしたのでは? と言われるくらいな胸になっている。う~~ん……原田美枝子の10代の頃のヌードを見る限りは豊満なボディーなのだが、さすがに55キロもないだろう。しかし似てるのだ。若い頃のヨハンセンの体型と、若い頃の原田美枝子の体型が。原田美枝子が若い時の水着画像をネットで見ることが出来るが、その中でもビキニではなくセパレート水着が圧巻だ。ウェストが締まっていてバストとヒップがボンッボンっとしていなければアノ水着は似合わない。スレンダーだと貧弱過ぎる。
そんな原田美枝子を語る上で欠かせないのが、彼女が25歳の時にオーディションを受けた黒澤明の「乱」だ。あの傲慢でヒステリックな「楓の方」を見事に演じ切っていて、あれを演じたのが原田美枝子だと言われるまで気づかなかった人も多いと思う。ちなにみ原田美枝子に白羽の矢を当てたのは黒澤明らしく、凄いね。あの映画自体はイマイチだと思うけど、オーディションを受けた大勢の女優の中から原田美枝子を選んだのは凄いとしか言いようがない。ただ、黒澤明は「楓の方と末の方、どちらかを自分で選びなさい」と言ったそうで、台本を読んだ原田美枝子が「潔くて、怨念を抱えて生きる楓の方は、すごくカッコのいい女性で演じてみたい」と言ったそうだ。それに対して黒澤明は「撮影は1年かかり、眉毛も剃ってもらわなければならいが、いいのか?」と問うと、「かまいません」と答え、25歳の女優が1年間まゆげ無しで過ごしたそうだ。
若い頃の原田美枝子自身は「全身全霊で演じているのに、みんな私の身体しか見てくれない」と思い悩んでいて、周りに反発していたそうだ。そんな中で「もどり川」で共演した萩原健一に「お前の演技はなんなんだ!! もう二度とお前とは仕事をしない!!」と本気で叱られたらしく、彼女は萩原健一を今でも恩人だと言っている。そして「これでダメなら女優を辞めよう」と賭けたのが黒澤明の「乱」だったそうだ。でもね、あの身体は天から授かった贈り物だと思うな。女優としての絶対的な武器だよ。
ちょっと「地獄」とは関係のない話が長くなったが、ここでこの映画の設定を書くことにする。
先ずはキャストだ。
生形竜造 (本家) 西田健
妻 シマ 岸田今日子
生形雲平 (分家、竜造の弟) 田中邦衛
妻 ミホ 原田美枝子
生形松男 (本家の長男) 石橋蓮司
生形幸男 (本家の次男) 林隆三
生形久美 (本家の養女) 栗田ひろみ
山尾治 加藤嘉
水沼アキ (孤児院育ち) 原田美枝子
生形家は村の盟主で大地主と思われる。
本家の竜造が弟:雲平の嫁:ミホと出来てしまい、二人で逃げる途中、二人ともが雲平に殺される。
竜造の妻:シマは夫が殺されても平然としていた。
しかし殺されたミホは竜造の子を身籠っており、それも女の子だと分かっていて、死ぬ間際にアキと名付ける。
村人がミホの死骸を発見するが、その死骸が村人の見ている前で赤ん坊を産む。アキの誕生。そして村人はその赤ん坊をシマの元へと連れていく。驚愕するシマ。
後日、山尾治が道端で拾ってきた赤ん坊を持って来て、シマに言う。
「奥さん、あんたも死体が産んだ赤ん坊など気味が悪くて育てたくはないだろう。おまけに夫を寝取った憎きミホが産んだとなれば尚更だ。だけどな、村の衆が見てる。あんたが赤ん坊を育てる様を見てる。この拾って来た赤ん坊は女の子だ。交換しようじゃないか。ミホが産んだアキは自分が責任を持って連れていくから、あんたはこの赤ん坊を養女にして育てればいい」
アキは孤児院に送られた。
それから20年の時が経った。アキは何かに導かれるように生形の本家へと行く。アキを見たシマは息を飲むほど驚愕する。20年前に殺したミホと瓜二つのアキ。聞くと、アキは孤児院育ちで年齢も20歳、そして名前もアキ、更には尻にある痣。ミホが死体となっても産んだ怨念の塊のような子が、今ここに現れたアキだと確信する。
アキは生形家に来てから何かに憑かれたようになる時があった。それは会ったことのない実母であるミホに憑依されるという事だった。そして憑依された状態で、腹違いの兄である生形松男と関係を持ってしまう。だがアキは、もう1人の腹違いの兄である生形幸男に惹かれ、幸男もアキに夢中になり、関係を持つ。
アキのことが目障りでしかたがないシマは、数人の村人にアキを襲わせるが、間違って養女の久美が輪姦されてしまう。
更には、アキの両親を殺した生形雲平ーーーアキにとっては血の繋がった叔父もアキの身体を求め始める。
前半はこんなストーリーなのだ。ちなみに俺が大好きな「八墓村」の小説版のストーリーを要約するとーーー
当主が精神疾患を発症する多治見家。
古くは、多治見庄左衛門が村人7人を切り殺し、そして己の首も刎ねた。それから何代か後の当主:多治見要蔵は鶴子という女に勝手に夢中となり、拉致してあげくに土蔵に閉じ込め、執拗に犯し続ける。そして鶴子は辰弥を産む。だが辰弥の父親は多治見要蔵ではなく、鶴子が拉致される以前に恋人だった男の種だ。それを知ってなのか要蔵の辰弥に対する接し方は異常で、焼け火鉢を赤ん坊だった辰弥の背中に押し付けるという折檻までやる。このままだと殺されてしまうと恐れた鶴子は辰弥を連れて逃げた。鶴子に逃げられた要蔵は壊れた。村人32人を殺しまくったのだ。
村人達は「惨殺された落武者達の祟りだ」と恐れ、怯えた。
そんな祟りを利用した連続殺人事件が八墓村で起きていくのだが、それは久野医師が妄想で書いたメモを見た森美也子が実行したもので、目的は、美也子が思いを寄せる里村慎太郎に多治見家の財産全てを相続させるためだった。
小説版「八墓村」はこんなお話しだ。どうです? 簡潔に文字にしてしまうと「地獄」の方が血縁がドロドロしていてオカルトチックで面白いと俺は思うのです。
やっぱり映画というのは、ストーリーがしっかりしている小説であることが重要でもあるが、それにもまして監督と脚本だね。1977年版の映画「八墓村」は天才脚本家と言われた橋本忍が強烈な脚色をしている。森美也子が思いを寄せる相手を里村慎太郎ではなく、辰弥に変えちゃってんだよね。そして「やっぱり祟りでした」という極めてバットエンドと言ったら良いのか………尼子の怨霊たちが多治見の家が燃えるのを見ながら「ニヤ」っと笑う様は、ある意味ハッピーエンドなのかもしれない。とにかく完全なるホラー映画にしてしまった力量は、凄い。
それに引き換え「地獄」はというと、キャストに岸田今日子と加藤嘉の二人がいるんだから、それだけでホラー映画には十分のはずで、他にも田中邦衛、石橋蓮司、林隆三という実力派の俳優さんが脇を脇を固め、おかしな映画になるはずがないのだが………うん、なんともパっとしない映画になっちまって、これはもう、アイデアは良かったのだが脚本がダメといしか言いようがない。それと上にも書いたが「地獄めぐりツアー」は別の映画にすべきだよ。
ところでこの映画に、生形久美という養女役で出ている栗田ひろみなのだが、俺は全然知らない女優さんではあるが、そうとうに売れていて、女優であり歌手で、70年代のトップアイドルだったらしい。1957年生れで13歳の時にスカウトされ「吉永小百合2世」と呼ばれてたらしく、当時の写真をネットで見たが、確かに清純っぽくて可愛い。多くの映画にも主演で抜擢され、大島渚監督の「夏の妹」が彼女の映画デビューで14歳の時だ。この映画は観た事があって、りりぃの脱ぎっぷりに感嘆したことした覚えてない。
っで栗田ひろみは「夏の妹」で注目されたのか、映画だけでなくテレビドラマでも主演を張り続け、ドラマ版「伊豆の踊子」のヒロイン役にまで抜擢されたらしい。伊豆の踊子のヒロイン役は映画版は勿論だがドラマ版であっても有望株でなければ絶対に抜擢されない。それを考えても相当な売れっ子だったのだろう。
そんな栗田ひろみは23歳の時に結婚を契機に芸能界を引退してるのだが、22歳の時に出演したのが「地獄」だ。輪姦されるシーンがあって、これって本人? って思ったけど、彼女はそれまでも胸を出した写真集などを出していてるから、きっと本人だと思う。
それにしてもちょっと酷い役どころなんだよね。シマの養女になり、ミホの実の娘だと言われながら育っていたのが、ある日とつぜんミホの本当の娘が現れ、自分は道端で拾われた捨て子だったと知り、その上、アキに間違えられて村のろくでなし3人に代わる代わる犯され、「私はこれからどうやって生きていけばいいの!!」とアキに殴り掛かる。そして陰ながら生形幸男に思いを寄せていたが腹違いの兄だと思っていたから諦めていたのだが、それが違うと分かり告白するが、幸男は腹違いの妹アキと結ばれたいと心底思っていると知り、怒りの焼身自殺をして、地獄に落ちる。そうなんです、地獄に落ちちゃうんです。どんな罪なのかよく解んなかった。
いや~~ハッキリ言っちゃうけど、なんでこの映画に出たんだろう? トップアイドルだったんでしょ? 輪姦されちゃって地獄に落ちる女。おまけにね~~オッパイ小さいの。別にそんなことはどうだっていいと思うんだけど、この映画観たら誰だって原田美枝子の胸と比べちゃうわ。
つでに書くけど、地獄めぐりツアーでは、岸田今日子は「石臼に摺りつぶされる地獄」で、苦しみながらもやっと死ねたと思ったら蘇って再び石臼。
っで、アキは母親のミホと会うことができるんだけど、ミホは全身毛むくじゃらの獣になっていて、人肉をひたすら食う地獄にいるの。っでアキはミホに噛みつかれる。
これね~~、栗田ひろみだけじゃなく、原田美枝子もよく出たと思うわ。19か20の時だよ。いきなり妊娠してる役で、それも夫の兄に孕まされて二人で逃げる途中に殺されて、死体となったのに赤ん坊を捻り出す。そして今度は娘役で登場したと思ったら、腹違いの兄弟の2人とヤっちまって、叔父さんからも迫られる。っで地獄に行ったら母親もいて、その母親と娘の二役を演じてるから、毛むくじゃらで娘にかぶりつく役と、かぶりつかれる役……いや~~この映画って原田美枝子の黒歴史じゃないのかね。
しかし、この映画が作られた時代が1970年代というのがミソだね。ウーマンリブという女性解放運動がヨーロッパやアメリカで起こったのが1960代で、日本でウーマンリブの伝説的なデモが起きたのが1970年だ。それまでの欧米ーーー特にキリスト教国家では女性を「聖女か売女」に分ける考え方が一般的だった。だから男にとっての妻は「家庭の中の天使」であって、自ら性欲を満たす行動など起こすはずがなく、起こしてはならない存在が妻だった。この映画の設定で不倫ーーー特に夫がいる女性の不倫は姦通罪で、それはこの世の中だけの罪でなく、死んだあの世でも地獄に落ちる「絶対な罪」として描かれてる。この映画って、「女の不倫」と「親近相関」をあえて同列に描いている。女性解放運動なんか日本では通用しないんだ!! って意図で作った映画じゃないのかって思ったりもしました。
ウーマンリブってフリーセックスが根源にあって、性の解放、それと誰が性を支配してるのかを問う運動なんだよね。要は、女にとってのセックスは決して男に支配されるものではなく、女のため、自分のためだ。って運動。
だだね~~これって現代の日本でも似たような状況で「あの芸能人は不倫をしていた」などと報道されると、やれ謝罪会見だと騒ぎ出して、ネットでは「二度と観たくないから干されてしまえ」の大合唱。まるで地獄に落ちれ! って勢いだよね。
1度でも姦通をやっちまった妻が地獄に落ちるのなら、地獄ってとこは満員電車なみの混雑だろうね。




