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第55話 ボーダー 二つの世界

 俺が大好きな北欧映画だ。

 この映画の主人公は、かなり有名な民間伝承のトロールをモデルとしていて、ジャンルとしてはファンタジーに分類される映画なのだろうが、しかしテーマは相当に深い。現代のダイバーシティーに対して正面から問題提起をしている。


 映画の内容に触れる前に、トロールについてチョコッと書いてみよう。

 北欧でも地域によってトロールの特徴は様々らしく、

 ・大きな鼻と大きな耳を持ち、臭気に敏感。

 ・尻尾がある。

 ・トロールの子供と人間の子供を入れ替える。

 ・異世界との境界に住んでいる。

 そんな特徴をこの映画では見事に体現させていて、単純に映像としても面白い映画だ。


 トロールは元々がノルウェー起源の妖精だそうだが、日本ではトロルとしてゲームや小説で御馴染みのキャラだ。ハリーポッターやドラゴンクエストにも敵キャラとして登場するらしい。

 だが可愛らしいキャラとしても描かれていて、「となりのトトロ」のトトロはトロールがモデルらしく、「ムーミン」の正式名称は「ムーミントロール」だ。


 この映画の原作を書いたのは、ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストって名前のスウェーデン作家なんだけど、あの「ぼくのエリ 200歳の少女」・「モールス」の原作者だ。いや~凄いね、「小さな恋のメロディー」の吸血鬼版と言われるアノ小説を書いた人が、この小説を書いたの?! ちょっと信じられない。


 2018年公開のスェーデン映画で、108分だから観やすい映画なのだが、上にも書いたようにテーマが凄い。どのように受け止めるかは観た人それぞれなんだろうけど、ジェンダー問題やら病気・障害など、様々な属性の人に関して、「多様な要素を尊重しましょ~なんて綺麗ごとで片付くのか! お前たちはコレを受け入れることが出来るのか!」と突きつけてくる物語だと感じた。

 最近観た日本映画の「正欲」と同じテーマを全く違った角度で訴えているようにも思えたんだけど、俺は個人的には映像がメッチャ綺麗な北欧映画である「ボーダー」の方が好みだな。主演女優の性に関する演出も「ボーダー」の方がより強烈だ。



 この映画、衝撃的なシーンがあって、トロール同士によるセックスシーンというか交尾シーンなんだけど、日本での劇場公開では無修正だったという。いや~感心したわ。だが、動画配信ではボカシが入っちまってる。これね~、ここをボカシちゃったらこの映画を台無しにしてるって気づいてないのかな? 俺もボカシ入りで観たもんで、「ん……??」って思っちまったから速攻でネットで調べて、「ああああ、そうなんだ」と解った次第です。とにかくこのシーンは非常に重要です。DVDではボカシが無いらしいから是非観たいのだが、レンタルDVD屋がいつの間にか無くなっていやがんの。一時期はあっちこっちにツタヤがあったのに。おっ、そうだ、ゲオならまだある……と思ったのだが、俺ってゲオの会員だったのかが不明。


 主役の1人であるティーナを演じたのはスウェーデン出身の女優:エヴァ・メランデル。1974年生まれだから、当時43歳なのだが、現在の写真を見ても知らない女優さんなんだよね。でもフロッキングにも出てたらしい。

 もう1人の主役ヴォーレを演じたのがフィンランド出身のエーロ・ミロノフ。1980年生まれだから当時36歳。俺はこの俳優さんも全く知らなかった。

 っで、この2人が人間とは染色体が違うトロールを演じていたのだが、特殊メイクが凄い。より自然にみせるためにシリコンではなくゼラチンが使われ、その特殊メイクを施すのに、監督は1時間以内に仕上げろ、との要望だったらしいのだが、とてもそんな短時間で仕上がる訳もなく、結果的には2人がかりで、顔の半分づつを担当したらしいのだが、それでも3時間掛かったという。

 そして何といっても凄いのが、主役の2人は役作りの為に体重を20キロ増やしたというのだから驚きだ。


 この映画の原題は「ボーダー」。日本語にすると「へり」・「ふち」・「端」・「国境」・「境界」って意味なのだが、ここは日本語に訳をしないまま、色んな意味を含めた「ボーダー」のままがしっくりくると思うし、邦題で「二つの世界」と入れてしまったのは妙に説明臭くて、余計だ。要は、自分は普通の人間だと思ってる人は同じように思ってる人とだけコミニュティを作り、何かが違う人は違う者同士だけでコミュニティを作った方が幸せなのか……? というような二つの相まみえない世界があるという前提の物語だからだ。



 上にも書いた日本映画の「正欲」なのだが、俺は小説を買ったぞ。まだ読んではいないが。あの映画では、なんだかチョットとな~~って感じてしまって、どうしても原作が読みたくなったのだ。新垣結衣と稲垣吾郎にあれ以上の生々しいシーンは無理だったのか、それとも原作もあの程度の描写だったのかが知りたい。というのも、あの映画では日本では色々な問題がありすぎるからだろうかオープンにすらならない「ペド」が出てくる。それをチラっとでも物語に取り入れているのに、特に新垣結衣が演じた桐生夏月が、どうにもピンとこなかった。唯一、諸橋大也を演じた佐藤寛太が、「性欲はあるが人間には全く興味が無い」という役柄を目線と表情だけで表していて、おおおお、っと思ったね。



 追記

 多様性の尊重ってどうなんだろう? 「人間は美しいモノを好み、醜いモノを嫌う」っていうのはどうしようもないもので、ある意味本能みたいなものだろうな。人それぞれの美的感覚ってものに影響された好嫌なのだろうけど……

 それと特殊性癖と呼ばれているものって病気じゃないから治せない。或る特殊性癖の持ち主が次のような事を言っていたのを何かで読んだことがある。


「僕の目に触れるとこに居ないで欲しい。見てしまうと自分を制御できない。だから、居ないコミュニティーで暮らしたい。そういうコミュニティーがあれば皆が幸せになれる」


 映画「ボーダー」は、境界など無い世の中が本当に幸せなのかを視聴者に問い掛けてくる強烈な映画で、いろんな意味で一見の価値がある!!

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