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第33話 大いなる旅路

 いきなりだが、この映画はスゲーーー!!


 1960年製作の日本映画、配給は東映だ。

 いや~~東映さん……凄いわ。

 何が凄いのかって? ここまで国鉄の全面協力を取り付けたってのが強烈に凄い。


 主人公は三國連太郎なのだが、俺は「この映画の主役は蒸気機関車だ!」と断言する。


 映画の初めの方で、冬の山間部を走る蒸気機関車が雪崩によって脱線するシーンがある。一緒に観ていた俺の嫁など「ああああああああああああああああ!!」って叫んだほどのシーンだ。俺はというと「これって模型だよな……だけど何なんだこのリアルさわ…」ってんでしばし呆然。そうなのだ、またくもって模型などには見えないのだ。

 雪崩に巻き込まれた蒸気機関車は牽引していた貨物列車ともども脱線するのだが、それは単なる脱線ではなく、崖を数メートルほど落下しているのだ。そこでカメラは崖下に横たわる蒸気機関車を映すのだが…


「オイオイオイ…釜が燃えてるよ……これって本物か?! マジかよ……」


 そうなんです。本物の蒸気機関車に貨物列車を牽引させてレールの上を走らせ、見事に脱線させたのがこの映画なんです。


 当時の国鉄の全面協力が無くては絶対に撮れないシーンだ。それにしても落ちちまった蒸気機関車やら貨物列車をどうやって引き上げたんだろう? けっこうな山間部で横殴りの雪が降っている季節だぞ。おまけに蒸気機関車なんてもんは「鉄の塊」で機関車部分だけで60~70トンあったはずで、石炭とか水を背負っている炭水車と必ずセットでなければ走れないのだが、それを合わせると優に100トンは超えたはず。

 当時の東映の社長が国鉄OBだったこともあって国鉄との信頼関係があったからこそ撮れたシーンらしく、盛岡鉄道管理局長立ち合いの基に脱線転覆させたというが、その後処理はどうやったんだろう? まさか放置なんてありえないだろうけど……いや~~凄い映画だ。1960年製作だぜ。現代のハリウッドなら恐ろしいほどの資金力をもってーー最近ではチャイナマネーらしいがーー撮影してしまうかもしれないが……いやCGを使いそうだ。そう考えるととにかく凄いシーンを撮った映画だ。


 実は俺の死んだ親父が元国鉄マンだった。そんなこともあって俺は決して「鉄オタ」ではないのだが国鉄に対する思い出が多い。

 生まれ育ったのが線路際にあった鉄道官舎だったもんだから、列車が通るたんびに揺れて鉄道関連の音も凄くて、そんな「揺れ」と「音」が子守歌代わりだったのだろうと思う。

 そして不思議なのは、俺の年齢なら蒸気機関車なんてものは、ほんと幼い時分に「DD51」に代わってしまったはずなのに、なぜか不思議と覚えている。三つ子のたましい100までも、ってやつなのかな。それとも親父やお袋に聞いた話が俺の記憶に影響しちゃてるのかな? いや、それにしてはリアルな情景まで覚えてるんだよな。


 俺の記憶の中で蒸気機関車って「まるで生き物」なんだよね。それも「ドサンコっていう農耕馬」に似ている。

 母方の死んだ爺さんが畑作農家だったんだけど動物が好きで、俺が小学生ぐらいまで馬を飼ってた。サラブレットやポニーなんかじゃなくってドサンコ。トラクターがあったから馬はあくまでもペットみたいなものだったんだけど、畑の端っこーートラクターが入り難い場所なんかに残ってた切り株を引っこ抜くのにその馬が頑張ってたわ。


 蒸気機関車って山を登る時なんかに石炭ガンガン入れ続けて頑張らせるんだけど、そんな時の蒸気機関車って真っ黒な煙をモクモク出しながら必死に登って行くの。そして極端に傾斜がきつい峠なんかを超える場合は、その峠の麓の駅で別の蒸気機関車が応援に入るんだよね。それがカッコイイんだよな~~。なんだか機関車が本当に意思を持ってるみたいでさ、2両の蒸気機関車を繋いで走るのを「二重連」、3両を繋ぐのは「三重連」って言うんだけど、峠の麓まで一人で引っ張ってきた機関車に、麓の駅で待ってた別の機関車が「よく頑張った。ここからは俺たちも一緒だ。このまま行くぞ!」って言いてるみたいでさ。

 俺にとっての蒸気機関車って不思議とドサンコみたいな印象なんだよな。


 話を映画に戻すけど、この映画ーー「大いなる旅路」の主役は先にも書いた通り蒸気機関車だ。

 蒸気機関車が「ゆっくり、ゆっくり」と、だけど駅舎から確実に動き始めた時の車輪の映像や、冬の山を登る時の空転しながらも頑張って登ろうとしている車輪の映像、それと雄叫びのような汽笛と黒煙。

 くどいようだが俺は鉄オタではない、のだが、蒸気機関車ーーなぜかSLとは呼びたくないーーの雄姿が映し出されるたびに鳥肌がたった。


 監督は関川秀雄

 脚本は新藤兼人


 新藤兼人と言えば女優:乙羽信子の夫で、このエッセイ第2話で感想を書いた「裸の島」を撮った監督だ。そして99歳で撮った「一枚のハガキ」が有名だが、永井荷風の半生を描いた「墨東奇譚」が俺は好きで、その「墨東奇譚」は監督だけではなく脚本も新藤兼人が書いていて、意外と脚本家としての能力も高いのが新藤兼人だ。


「大いなる旅路」の主な出演者は次の通りだ。


 岩見浩造  三國連太郎(36歳)

 妻     風見章子

 次男    高倉健(28歳)

 同期の同僚 加藤嘉(46歳)


 そうなのだ28歳の高倉健が36歳の三國連太郎の息子役なのだが、三國連太郎のメイクと演技力によって全く違和感がない。

 ちなみにこの映画では三國連太郎は19歳から55歳までを演じているのだが、年老いた演技ーー当時の55歳はかなりの爺様ーーと老けメイクはかなりのものなのだが、さすがに19歳はちょっと……と思ったのだが、そんな「ちょっとおかしな19歳」を吹き飛ばしたのが加藤嘉氏の19歳だ。


 加藤嘉氏と言えば、1977年の映画「八墓村」で物語の冒頭で毒殺されちまった爺さんなのだが、八墓村撮影当時の加藤嘉氏は64歳なのだが、見た目は「いまにも死にそうな爺さん」で、俺が知ってる限り、とにかく昔から爺さんなのが加藤嘉氏なのだが、19歳役にはギョッとした。「ちょっと無理があるよな」なんて評価は当てはまらない。なんて言うのかな~~、黒目が大きくて妙にキラキラした怪しい目をしていて睫毛がいっぱいあるものだから、なんだか失礼だが「ホラー顔」なのだ。そう「悪魔でござい」って顔なんだよね。

 そんな変な19歳役を観て、俺は日本映画の「十字架」を思い出しちまった。


 2015年製作で監督は五十嵐匠、配給はアイエス・フィールドって芸能プロダクション兼インディーズな映画製作会社。


 中学生のイジメを題材にした重たい映画で「14歳で、僕たちは彼の思いを背負った」というキャッチコピーなのだが、主演の小出恵介が31歳にして14歳役を演じた映画だ。

 これってさ~、さっきも書いたんだけど重たい映画で、観終わっても暗い気分になる映画のはずなんだけど、小出恵介ってポッチャリしてるだろ。そんな彼が同級生と学校のグラウンドにいるシーンがあってーー確かサッカーだったはずなんだけど、ユニホーム着てたと思うんだよね。明らかに「腹が出てる体型」で、最初は「先生が生徒と何かを喋ってるシーン」だと思って観てたんだけど、どうにも台詞が先生っぽくなくって「あれ???」って思ったの。そして「まさか小出恵介が中学生じゃないよな…」って思って観てるうちに、隣で一緒に視聴してた俺の嫁が「うそ……14歳なの? これで?」って言い出して、その後は二人でずっとギャハハハハハ状態。エンディングまで。そして観終わって調べたら、演じた小出恵介すら「意味が解らなかった」ってインタビューに答えてて、更に死ぬほど笑った。

 そんなバカみたいな映画を思い出したのだが、この映画ーー「大いなる旅路」なのだが、いい映画であり、特に蒸気機関車の脱線・転覆シーンは強烈に凄い。


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