第18話 アメリカン・ビューティー
1999年制作のアメリカ映画で世界中で大ヒットを記録した作品。
第72回アカデミー賞では8部門でノミネートされ、作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞、撮影賞の5部門を受賞。
すんげーよな、作品賞と監督賞と脚本賞って他にまともな映画が無かったのか? って思うほどの総なめじゃん。この年のアカデミー賞ノミネート作品をちょっと調べてみたら、「インサイダー」、「グリーンマイル」、「シックス・センス」、「ザ・ハリケーン」があった。まぁ確かにグリーンマイルはファンタジーだし、シックス・センスはホラー系のミステリーだけど、インサイダーとザ・ハリケーンは実話系の社会派ドラマだ。この2つを押さえてってのが凄いな。でもアメリカン・ビューティーってけっこう笑えるコメディーだよな。う~~ん…売れたもん勝ちかな?
監督はイギリス出身のサム・メンデス。彼の作品を調べてみると「007 スペクター」と「007 スカイフォール」があるんだけど最近だと「1917 命をかけた伝令」ーー全編ワンカットで作り上げた戦争映画ーー実際は、最初のカメラマンが撮影した後に次のカメラマンが続けて入り、更にはその次のカマラマンがというのを続けていくワンカット風らしいが、どこかで失敗しちゃうと最初からやりなおしという驚異的かつ過酷な撮影方法だったらしく、臨場感は半端ないものに仕上がり劇場で視聴した人は「自分も銃弾の中を走っている感覚になった」という映画が有名だが、みごと第92回アカデミー賞では三部門を獲得している。
この映画ーー1917を実は最近視聴したのだ。うん、なんて言うのかな~~、カメラの位置が出演者の目線の高さで、延々とカットが入らないから、視聴者までもが「そのシーンの中にいる」ような感覚になって、決して「映画を視聴している傍観者」って印象じゃないんだよな。それにしてもカメラマンも相当な緊張感があっただろうけど、伝令を持って最前線まで走る役ーー主役の俳優の演技は、どこでカットが掛かったのか全然解らなくて、さすがに最初っから最後までワンカットって事はないだろうけど、もの凄い長回しでの撮影なのは事実だろうから、NG連発しちまったら精神的にきただろう撮影だな。
それにしてもこの監督の守備範囲の広さは凄いっていうか見事だな。
話をアメリカン・ビューティーに戻すが主演はケヴィン・スペイシーだ。ケヴィン・スペイシーと言えば「セブン」で強烈なサイコ野郎を見事に演じたのが有名で、サイコから政治家からダメ夫からなんでも熟すカメレオン俳優なのだが、いろいろなスキャンダルが噴出してハリウッドから追放されちゃってるんだよね。いや~~勿体ない。この俳優の演技は凄いの一言だ。
この映画ーーアメリカン・ビューティーでケヴィンの役所は広告代理店に勤めるレスターという名の40代の中年男で、妻と娘の3人暮らし。
一見すると幸せそうに見える家族なのだが、ティーンエイジャーの娘は父親を嫌い、そして妻は不動産業を営んでいるのだが自分の事しか考えていない。そんな家族だから親子の断絶と冷めた夫婦が実態であって、それを表そうとしてなのか映画の冒頭では、「見てくれ、これが僕が毎朝日課にしている至福の時間なんだ」ってレスターがナレーションで視聴者に語り掛けるんだけど、自宅のシャワー室でオナってんだよね。「いやいやいや、見てくれって……」って思わず笑っちまったけど、その後ろ姿が妙に哀愁があって、それと「そうだよな~」って変に共感しちゃんうだよな。うんうん、説得力があった。
それとレスター家の隣に、元軍人で絶対に笑わない父親とサイコな息子が引っ越してきて、この一家も物語に深く絡んでくる。
そしてレスターは妻と二人で高校生の娘のチアリーディングを見に行くんだけど、そこで見た娘の友人に一目ぼれ。そこから家族崩壊が始まって行くってストーリーなんだけど、アメリカの中流家庭が崩壊するさまを「アメリカの美」って題名したのは強烈な皮肉なんだろうな。他にもこの題名には意味があるみたいで、「アメリカン・ビューティー」ってバラの種類らしくて、妻もバラを育ててるし、レスターが一目ぼれした女子高生を妄想する際はさかんにバラが出てくる。
だけどこの妄想中年オヤジって、それまでは朝からオナニーに耽り、更には夜ベットでオナってるのを妻に見つかって酷く叱られるーー間違ってもナイスミドルじゃないんだけど、女子高生に恋をしてからは身体を鍛えたり、好きになれない仕事を辞めたり、そして車まで買っちゃって、意外とカッコ良くなっていって、相手の女子高生もこのオヤジに好意を寄せていて、結局は両想いで男女の仲になる寸前まで行くんだよね。ところがオヤジの方から「いや…ダメだ」って止めるの。その理由が彼女が「初めてなの」って告白したからで、俺は「おおおお、カッコいいじゃん」って思わず声が出た。
だけど最後はこの愛すべきオヤジは殺されちゃう。そして殺したのは誰か? 一緒に視聴していた俺と嫁の予想は真っ二つに分かれたんだけど、俺の予想が当たりだった。
うん、面白い映画だったし、演出によっては物凄く暗くてジメジメした映画にもなったんだろうし、最後は主人公が死んじゃうストーリーなんだけど妙な爽快感を覚える映画だった。今から20年以上も前に作られてるんだけど、全く色あせてない作品だし、ケヴィン・スペーシーにとってハマリ役だったと思う。




