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第14話 エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略

 2015年制作のデンマーク映画。

 俺は題名の「エイプリル・ソルジャーズ」が原題で「ナチス・北欧大侵略」が邦題かと思ったのだが、「エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略」全部が邦題だった。長げぇよな。

 それじゃあ原題は何かというと「APRIL 9th」で極端にあっさりした題名なのだ。意味は「4月9日」だ。


 この映画を鑑賞してまず最初に感じたのは「4月9日って邦題にした方が良かったんじゃね?」だ。しかし実際の邦題は非常に物々しくて、「ナチスが北ヨーロッパを侵略してくるんだぜ、それも大侵略だ」だ。しかし「エイプリル・ソルジャーズ」が邦題の頭にきていて「4月の下士官たち」って意味だろうから全部を繋げると「ナチスが北ヨーロッパに対して行った大侵略に関する下士官たちの4月の物語」なんだろうな。…長すぎる。


 改めて書くが、この映画は事実に基づいた戦争映画で戦闘場面では人も死ぬ。しかし見終わった俺は「もしかするとこの映画ってシュールなコメディ映画?」ってな感想を持ったのも事実だ。


 これって映画では描かれていない当時の背景なんだけど、デンマークの首都コペンハーゲンには海からの外敵侵入を防ぐために、コペンハーゲン港の入口に17世紀に建設されたカステレット要塞があった。だけど第二次世界大戦においてドイツが攻め入って来た際にこの要塞の守備兵は一戦も交えることなく降伏しちゃってるんだよね。っでこの要塞の地理的条件が凄くて、王様がいる宮殿から徒歩で15分の距離なんだよな。そんなもんだからコペンハーゲン唯一の防壁。それなのにそこを守る軍人たちが「あ…ドイツが攻めてきた。よ~~し……ハイ、降参」ってな具合。すんげーよな。太平洋戦争の日本軍を描いた邦画やベトナム戦争を描いた洋画を多く視聴していた人にとっては、そういった現実には驚かされたちゃう。更に続きがあって、宮殿からえらい近所の要塞が速攻でドイツ軍に占拠されたもんだから、国王と政府高官と陸軍高官が話し合ったらしいんだけど、抗戦を主張したのは陸軍の将軍だけだったらしくて、その時の国王と将軍の会話は次の内容だったらしい。


 将軍「王様、全然戦わねぇで降伏しちまったら、オラが軍は何のためにあんだか判んなくなりやす」

 国王「おめぇ、そったらこと言ってるけど長げぇ時間戦ったことあんだべな?」

 将軍「そりゃ~……ねぇかも……」


 しかしこの国王ーークリスチャン10世という老齢の王様なんだけど、かなり気骨があった方だったらしく、ナチス・ドイツ占領下において「ユダヤ人にダビデの星の腕章を付けさせろ!」との要求に対して断固反対し、「デンマーク人であるユダヤ人」には指一本触れさせないよう頑張ったらしく、実際にデンマークのユダヤ人の98%がホロコーストから逃れられたという。


 デンマークって北欧でも最も勇敢なバイキングを祖先に持つ国なんだよね。確かにその誇りみたいなものが国王にはあったんだろうけど、この映画にはびっくりだった。


 映画は3人のデンマーク人が徴兵されて訓練に向かう風景から始まるんだけど、なんだか牧歌的なんだよな。

 そして「明日は本当の戦争になるかもしれない」って夜には兵舎に集められた青年兵士たちはさすがに緊張で眠れないのだけれど、それぞれの兵士に割り当てられたライフルの弾が各人40発づつで、「お前なんか役にっ立たねぇんだから、その弾俺によこせ」って言い出す輩までいる。いやいやいや、戦争だろ? 40発ってマジかよ。どうやって戦うんだ? と思いながらも、きっと主人公のいる小隊が基地外みたいに頑張っちゃうんだろうな、と考えながら俺は視聴を続けた。


 そしてナチス・ドイツが国境に近づいてきたとの情報が入り主人公のいる小隊に出撃命令が出る。「本隊からの援軍到着までお前たち小隊がドイツ軍の進攻を食い止めろ」って命令なんだけど、その小隊って自転車なんだよね。そう、自転車部隊なの。

 それでも俺は「きっとこの自転車部隊が鬼神のような活躍をする映画なんだろう」って考えて視聴を続けた。


 ところが森を抜けてる途中で1台の自転車がパンク。その為に途中休憩。なんだか緊張感のない戦争映画だな~って思いながらも、「だけどきっと活躍するんだろう。でなければわざわざ映画にする訳がない」と考え視聴を続けた。


 っでついにドイツの最前線部隊が現れ、物陰に隠れての銃撃戦ーー自転車部隊による急襲をするんだけど、ドイツ軍には装甲車までいるの。もっと何かーーでっかい落とし穴を掘るとか頭を使っての待ち伏せなんかをするのかと思いきや、かなり正攻法での待ち伏せ攻撃で、急に攻撃されたドイツ軍も最初は混乱するんだけど簡単に盛り返しちゃう。だって40発しか銃弾持ってないんだから、こっちから撃ち始めたのに、ものの5分程度で「弾が切れた!」、「こっちも弾切れだ!」って言い出す始末。そんでもって散り散りに退散。

 っで少尉を含む5~6人でとある農家に隠れるんだけど、ここまで視聴してようやっと「あ~、この少尉がきっと主人公なんだろうな」と分かった。そしてそこの老農婦がかなり興味深い事を言うんだよね。


 農婦「あなたがたはいったい……何が起きたんですか?」

 兵隊「ドイツが攻めてきたんです!」

 農婦「え…ドイツ? でも30年前まではここら辺一体はドイツだったんですよ」


 少尉たちは農家を出て更に後退するんだけど、その途中の村でバリケードによる防衛線を造っている味方部隊と遭遇して手伝うんだけど、そこの村人たちが「なんだなんだ? 何が始まるんだ?」ってな感じでゾロゾロ野次馬見物。一人の男の子なんて大勢の見知らぬ人たちーー銃を持った兵隊なんだけどーーがいるもんだから妙にはしゃいじゃって兵隊たちに牛乳を売って回るんだよね。

 だけどバリケードなんてものはドイツ軍の装甲車に一瞬で蹴散らされ、空を見上げればドイツの戦闘機が群れをなして飛んでいるのが目に入った自転車部隊の少尉。もう痛々しいの通り越しちゃって、これってコメディ映画? って疑問が芽生え始めた。


 とにかく戦いにならないの。そんなんだから少尉とその部下5~6人はどんどん退却ーー本部から「防衛線を下げる」との指示があって退却を繰り返すんだけど、そもそも防衛線ってあんなに簡単に下げる事を繰り返しちゃっていいんだろうか? 


 それでエンディングがまた強烈で、市街地を防衛拠点にするんだけど、一般市民が普通の生活をしている中での銃撃戦。


 要は、デンマークっていう国はドイツを中心にヨーロッパがきな臭くなってきてもまるで戦争準備などしていなくて、実際にドイツが国境を越えようとしてきても国民になんのアナウンスもしなかったんだと思う。


 っで最後は少尉も銃を捨てて降伏するんだけど、ドイツ軍指揮官との通訳を介しての会話がふるっていた。


 ドイツ「君たちはなぜ撃ってきたのだ?」

 少尉「はい??…………言っている意味が分からないのだが……」

 ドイツ「君たちの国は4時間前に降伏している」

 少尉「…………」

 ドイツ「知らなかったのか?」

 少尉「…………知らなかった」


 デンマークVSドイツの戦争は、この映画に描かれている通り、実にあっけない内容らしいのだが、ドイツ占領下における国王のふるまいーー戦いが上記にも書いたが見事なものだったという。


 追記をするがデンマーク国王のクリスチャン10世には弟がいて、その弟はノルウェー国王のホーコン7世。

 第二次世界大戦当時、ヒットラーはホーコン7世に対し「降伏文書に署名しろ!」って求めるのだが王は「NO!!」と答えた。これが「ヒットラーに屈しなかった国王」という題名の映画で再現されているそうだ。こんど観てみよう。

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