役者H 人格者 亜門晴明
「話を聞いてもいいか。」
神﨑は、真面目そうな中年の男に声をかける。
「いいとも、で、何が聞きたいんだい。」
「ああ、事件のことなんだが」
「なるほど、君がみんなが噂していた変人か。よろしく。」
神﨑は、目の前に出てきた手を握り、要件を伝えた。結婚しているのだろう。婚約指輪が太陽に照らされて、光っていた。
「ああ、実は……。」
事情を説明すると、神妙な顔で彼は話し始めた。
「ここだけの話、もしかすると、犯人は小鳥遊さんかもしれない。」
「どうして、だ。」
「実は、見たんだよ。その日、雨宮警視総監と話している小鳥遊さんを。ちょうど、事件の5分前に。」
「何を話していたか、分かるか?」
「いや、捜査1課が終わったばかりの時に彼を見たんだけど、普段の笑顔ではなくて……。」
「なるほど、な。」
少し悲しそうな目つきの彼は、ポツリと呟いた。
「どちらにせよ、警部の中にそんなことをするやつがいるなんて、悲しいよ。雨宮警視総監には、役に立たなかった新人時代からお世話になっているから、ね。」
雲が太陽をかくし、森に涼しい風が吹き抜けた。
「おい、天笠、観音寺、ちょっと時間があるか?」
高そうな腕時計ごと手を引っ張ったので、天笠は顔をしかめていた。が、観音寺は笑顔で、まあまあと、さとしていた。
「あの後、警部に話しを聞いて回っていた。」
「それで?」
その程度のことで呼び出したのかと、天笠は神﨑を睨んで言った。
「ああ、それで聞きたいんだが、お前達は数年前に起こった事件のことを知っているか?」
「いや、何のことだ。」
やはり、か。神﨑は、1つの推測をたてる。小鳥遊の素顔は……。
「ならいい。」
神﨑は、沈黙のあと、そう告げた。
「おい、どういうことか、説明しろ。」
「すまない、今日は帰る。」
タバコをふかしながら帰る彼に、天笠と観音寺は何か怪しいものを感じていた。まるで、身体に悪魔を宿しているような。