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高校2年の冬、僕は人を殺した。  作者: 小西行長
2章  No.15 詩人 ①共犯者
6/16

役者E 踊る少年 小鳥遊チヅル

「さてと、まずはこいつから聞くとしよう。」



 神崎は、鑑識と一緒に道路を眺めている男に、話しかける。



 身長はものすごい小柄で、中学のころから年をとらなかったかのような童顔だ。一喜一憂するその姿は、まるで無邪気な小学生を思い浮かばせる。



「おい、何をしているんだ?」

 低い声で、神崎はのぞきこむ。



「おお、君が周りに噂されていた変人かあ。」

 顔を見て、子供のように無邪気に笑う。体育座りから、突然ムクッと立ち上がる。



「僕は『踊の小鳥遊たかなし』。鑑識から唯一捜査1課の警部になった、君と同じ変人だよ。で、何が聞きたいの?」



 ずっと笑顔の彼は、少し怪しく見えるほど、笑い以外の感情がない。可愛らしい見た目をしており、周りの女鑑識たちはひどく、神崎を睨んでいる。



「ああ、少し聞きたいことがあってな。ちょっと向こうで、タバコでも吸わないか?」

「ごめん、僕、タバコ吸えないんだ。話なら聞くよ。」

 しゅんとした子犬のような目つきで、小鳥遊は上目づかいで僕を見てくる。



「了解した。」

 少し、キュンとしてしまいそうになりながら、神崎は出したライターとタバコをしまう。



 まだ11時、暑い昼の日差しが制服の隙間を照らす。小鳥遊はものすごい笑顔で喜んでいる。彼女にするなら、こういうタイプがいいな、と神崎はひそかに思った。



「じゃあ、ここはまかせるね。」

 女鑑識の嫉妬にまみれた表情に気づかないふりをして、神崎はゆっくりと歩みを進めた。



「で、僕に何のようかな。」

 小鳥遊は、人がいないところに来ると、神崎に質問をした。彼が言うと、きつく感じる言葉でもやわらかく受け止めれる。



 彼の話術は、この先、広いところで生かしていけるだろう。神崎は用件を伝えるため、重い口を開けた。



「突然だが、聞きたいことがある。警部の中に犯人との内通者がいることがわかった。お前は誰が怪しいと思う。」

「あはは、突然だね。」



 少し驚いた表情はするも、彼は素直に考え始めた。しかし、少し難しげな表情をして、彼は返答できないでいた。



「うーん、そうだなー。しいていうなら、僕的にあやしいと思うのは、観音寺さんとアバラさんかな。」

 やっと、2人の名前を出す。



「根拠は?」

 続けざまに神崎は質問する。少し、難しそうな顔をしたが、小鳥遊は今度は早く答えた。



「観音寺さんは、何事にも明確なことを言わないのと、自分のプライベートの話を1回も聞いたことがないから、かな。前、僕が家に行っていいかと尋ねた時、ものすごい冷たい声で『ダメだよ。』って答えたんだ。何か、知られたくないものがあるのかも、と思って。」



「じゃあ、アバラといった理由は?」

「彼女は、人と話しているところを見たことがない。なんだか、影を感じるような、誰かのかたきでも探しているような表情をしているから、かな。」



「少し根拠が薄いように感じる、が。」

 疑いの表情を神崎が小鳥遊に向けていることに、小鳥遊はすぐに気が付いた。



「確かに、そうかもしれないね。」

 小鳥遊が微笑する。はにかんだ笑顔が神崎の目に映る。



「僕は、鑑識の立場から物を考えられる力が雨宮さんに評価され、警部までなった。つまり、鑑識の証拠がない今、僕にはできることが何もないのさ。」



 笑顔ではいるが、気丈に振る舞っているのか、拳は固く動いていない。雨宮さんには、相当な恩をもらっていたのだろう。



「では、何か鑑識として見つけた証拠はあるか?」

「証拠といえるほどのものでもないけど、1つ分かったことはあるよ。」



「何だ?」

 神崎は、警部全員の情報共有の不十分さに驚いた。いや、こいつが意図して隠していたのか。



「この事件、何か見たことがあると思って、データベースを調べてみたんだよ。そしたら、類似した事件が1つ見つかって。」

 間があく。この森には、人っ子一人もいないのだろう。静けさが耳に響く。



「15年前、高校2年の17歳 男子生徒が殺されるという事件で……。」



  少し、小鳥遊は口ごもる。表情が陰っている。



「その時も、アイシテルという文字が書かれていたらしい。現場の近くには、トラックが置かれていたんだが、そのトラックは数km先の海で墜落しているところが発見された。中には、その男の子の母親の遺体が入っていた。

 だから、当時の警察は『母親が彼を衝動的に殺してしまう。しかし、それを後悔した彼女は海に飛び込んだ。』と結論づけ、無理やり事件の幕を下ろしてしまったんだ。」



「なるほど、確かに類似している、な。」

 (警察の裏に何かいたのか?だとしたら、何が?)神崎は、考えられる可能性全てを考えていた。



「だから、僕は思い切って仮説を立ててみた。15年前のこの事件の真犯人が、真の黒幕だという、ね。」

 やはり、鑑識だけはある。与えられた情報からの推理力はピカイチだ。



「でも、この事件の犯人も、今回の事件の犯人もいったい何が目的だったんだろうね。」

 その問に、神崎はハッとする。”殺人衝動が私の生きがいだ。私が初めて殺し”



「神崎さん?」

「ああ、すまない。もう1つ質問していいか?」

「ああ、構わないよ。」



 笑顔が全く崩れない。まるでご主人様と話せるようになった犬みたいなその姿に、神崎は違和感を覚えた。なんだか、不気味なものを感じた。



「お前の名前の由来はなんだ?」

「えっと、どういうことかな。」



 少し、表情がこわばる。何かを思い出したかのような。崩れた表情は、何かに気づかれまいとしていることを必死で訴えている。



「『踊の小鳥遊』、つけられた後、理由を雨宮さんは説明してくれるだろ。」



 少し、睨み付けるように言う。しかし、きゃしゃな体からは想像できないような低い声で、小鳥遊は1つも怯まずに答えた。



「ごめん、それだけは答えられない。」 

 笑顔の感情が、消える。なるほど、こいつも観音寺も似たようなやつだ。



 自分を見せようとしない。隠れた素顔は、どんなものなのだろう。だが、そこは今の議題じゃない。



 表情がコロッと変わり、小鳥遊は笑顔にもどる。

「ごめんね、神崎さん。それじゃ、今回はこれで終わりでいいかな?」



「ああ、時間をとらせて悪かった。」

 明るく笑ったその笑顔に、陰がかかる。

「じゃあね。」



 大きく手を振っている小鳥遊は、神崎が行ったのを見ると、やっと歩みを進めた。



「さて、どっちがあいつの素顔だ?」



 鼻につく血の臭いを、神崎はまだ取れないでいた。”心の奥には魔物がいる。” 昔、教わった言葉だ。



 そろそろ、あいつの仮面も壊さなければならない。神崎は、次に話しかける警部を考えていた。

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