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高校2年の冬、僕は人を殺した。  作者: 小西行長
2章  No.15 詩人 ①共犯者
3/16

役者B ミステリアスな男 観音寺春

大地を踏みしめる。呼吸が地に落ちていく。ボサボサの髪の神崎は恐怖していた。この血の臭いはあの時以来。



 まだ捕まっていないあいつが関わっているかもしれない。恐怖と喜びの感情が入り交る。



「敵をとれればいいが、もしとれなかったら俺はただの犬死か。」


 

あの時の後悔を、懺悔を俺はひと時も忘れなかった。また、大地を踏みしめる。



「Ryuさん、必ず見ていてください。あなたに救ってもらった命は、俺なりにあなたのために使わせていただきます。」


 なれない敬語が、口からこぼれる。昨夜は雨だったんだな。水たまりに映っている自分は、ひどく情けない顔をしていた。



 カメラのシャッター音がひびきわたる空間に、やっとたどり着いた。あくびをする。のばしきった髭と、ボサボサの髪。いつもだるそうに、歩みを進めてくる彼は、警視庁では有名な捜査員だ。



「おい、あれって。」

 鑑識のひとりが口を開く。すぐに彼の話が始まった。続けざまに、別の鑑識の男が話し始める。



「ああ、捜査1課の元エリ-ト、なんかの事件で失敗したから左遷されたやつだよ。頭は切れるから、地方の警察署からこうして、呼ばれるんだってさ。」



 鑑識のかげ口が盛り上がっている横で、ポケットから煙草とライターを取り出した神崎は歩きながら吸い始めた。

 


 鑑識たちはこの光景に唖然とする。空高く煙が舞う。彼のする行動1つ1つを興味深そうに、彼らはじっと眺めていた。



 そんな様子を知ろうともしない神崎は、大声で手を振った。



「来てやったぞー、観音寺。」



 当然のことのように、口からたばこがこぼれ落ちる。まだ消えきっていない火が煙草をつたっていっている。



「はあ、めんどくさ。」

 突然煙草を踏みつける。それが火を消すための行為だと理解するのに、時間はかからなかった。



 その間に、あぜ道にそって流れている川に蹴り入れる。警察としてあるまじき行為を平然とやってのける彼に、誰もが固唾を飲んでいた。吸い殻がプカプカ流れていく。



 そんな様子を見て、1人だけわなわなと肩を震わしている男がいた。



「何が、来てやっただあ。何分遅刻すりゃあ、気がすむんだよ!」



 腕につけた時計を何度も指さしながら、眼鏡をかけた男が叫ぶ。ものすごい眼力で睨み付ける。

   


 やせてはいるが、威圧感は警察界でもトップレベルだ。エリート中のエリート。彼の目の奥には、いつも獲物を狙うヘビがいる。彼と目があったとき感じる感情は、たった1つ『恐怖』しかない。しかし、たった1人を除いてはだが。



「これはこれは、天笠警部。お久しぶりですね。」

 


 まるで天気のあいさつをするように、親友に話しかけるかのようにな、やわらかい口調で話す。抑揚がつきすぎている声がせまい道にこだまする。その様子に余計に怒る。



 水と油のこの関係性は昔から変わらない。あの日の捜査1課の光景と何ら変わっていない。



「てめえ、先輩に向かって!」

「まあまあ、落ち着いてくださいよ、天笠さん。」

 


 長い髪を束ねている男が制止させる。ものすごい美貌だ。不思議な、ミステリアスな雰囲気を放つ彼は、見たものをとりこにする。



 ちょうど陰っている森が、彼のバックに広がっている。まるで異世界から来たかのような、そんな雰囲気を身にまとっている。



「おお、観音寺。元気にしてたか。」

 長髪の男は、振り返り笑顔で答える。



「ええ、元気でしたよ、神崎先輩。前みたいに、パパッと事件、解決しちゃいましょう。」

「ああ、そうだな。」

 神崎が笑う。

 


 この空間がずっと続けばよかった。でも、狂った運命の歯車はもどらない。時刻は10時を回っていた。冬の冷たい太陽は、彼らをバカにするかのように見下ろしている。



 木々があやしく笑う。始まりをつげるかのような風が吹き抜ける。神崎がたずねた。



「で、現場の状況は?」

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