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高校2年の冬、僕は人を殺した。  作者: 小西行長
2章  No.15 詩人 ①共犯者
2/16

役者A 消された刑事 神崎

「ふあー、なんで事件なんて起こるかね。」

「まあまあ、神崎さん。なんとか落ち着いてくださいよ。」



 頼りない上司の姿にあきれながら、僕は事件現場へと車を走らせる。車内から見える景色が、人であふれかえっていた繁華街から誰もいない静かな田園地帯に変わった。



 木が揺れる。山の斜面の近くにあるような道を走らせるこの男は、さっきまで寝ていたのだ。


 

 ここまで1時間近く運転してきたのに、一向に起きる気配のなかったハイエナのような男がやっと目を覚ました。



「ったく。俺を呼ぶような事件じゃなかったら承知しねえぞ。」



 ボサボサの髪に、長すぎるひげを生やした彼は、後部座席に寝っころがったまま言う。警察としてシートベルトもしない彼の態度は、悪いとしか言いようがない。



「そうやって事件を選ぶから、左遷されたんじゃないですか。」

「うるせえ。お前みたいな若造には言われたくないね。」

「はいはい。」

 


 会話が止まり、静かになる。運転に集中しなければならないからだ。



 道が細くなっていく。車1台通るか通らないか分からないほどのあぜ道に入った。 



 朝なのに暗い。木々が怪しく笑うように、風に吹かれ揺れている。おぞましき魔物が住んでいる森のように。



「おい、佐藤。車を止めろ。」

 突然の言葉にあわてつつも、できるだけ道の脇に停車させる。



「なんですか。こんなあぜ道で止めるなんて。」 

 パトカーで道全体をふせぐことが許せない僕は、彼に文句を言った。だが、彼はもはや僕を見ていなかった。



「臭いがする、血の。でも今までとは違うほど濃い臭いが。悪臭が鼻をつく臭いが。」

「そんな臭いしませんけど。」



「いや、する。こんなこと始めてだ。事件現場に行きたくない。」

  怖いもの知らずの彼の足が震えている。青ざめた顔に凍りついた表情。



「お前は帰れ。」

 突然、言われる。彼の観察眼は優れている。でも、自分の目で現場を見てもいないのに、信用できない。



「なんでですか。僕には、目の前の事件を無視することなんてできない!」

「帰れって言ってんだろ。」

 


 彼のこんな顔を初めて見た。静かな空間に、彼の怒号が響き渡る。空気が張り詰める。



「同じ臭いがするんだよ、あの事件と。」

 彼は、どこかせつなそうな顔で笑う。

「なんですか。あの事件って。」

 


 上司の肩を持ち、必死で問い詰める。彼がどこか遠くへ行ってしまいそうな気がした。このまま行かせたくなかった。めんどくさいけど、人一倍正義感が強い先輩を、行かせたくなかった。



「この事件には関わるな。絶対だ。」

「嫌です。」

 


 子供のようにだだをこねる。先輩を一人にしてはいけない。そう思った。



「顔無し。」

「えっ。」

「帰って調べてみな。そうすれば、おのずと分かるさ。」

 


 先輩は颯爽と手を挙げて進んでいく。僕は一人ポツンと取り残された。

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