警部の中の共犯者
「くそ、あいつはあれから何してやがる。」
小石を蹴りあげる。近くを流れる用水路にポチャンと落ちた。神﨑が来なくなってから、1週間。
事件は進歩を迎えるどころか、新たに発生してしまう。そのことに、天笠は苛立ちを隠せていない様子だった。
「天笠さん。落ち着いてください。神﨑さんのことです。きっと何か考えがあっての行動です。」
「だから、だよ。なんで、俺たちに教えないんだ。」
「あなた達を信用できないでいる、それが答えだと思います、が。」
小鳥遊が、突然、天笠に噛みついたからこそ、場は凍りついた。普段、大人しい小鳥遊が、あまりにも冷たい声で言ったからである。
「長年付き合ってきた俺たちですら分からないあの男のこと、お前に何が分かる。」
天笠は、そのことへの最後の否定材料を使う。神﨑は、捜査1課にいなくなってから、みるみるうちに変わっていった。
なんだか、前よりも温かみがなく、冷酷な男になっている気がする。
神﨑を信じている天笠にとっては、複雑な気分であった。でも、誰にも悟られたくない。その逆鱗を小鳥遊は、逆撫でしたのだった。
「いえ、あの男は、僕に話しかけていた時、僕を熱心に見ているふりをしていました。でも、会話自体に、興味なんてなかった。」
「なんで、分かる!!」
天笠が少し、怒った口調で言う。怯まず、小鳥遊は言い返す。
「鑑識のファイルの情報を一通り見て、嘘がないか、チェックしていた。僕と話す前、覗きこむようにして、しばらくその情報を見ていたんだ。」
「それは、分からないだろ。お前の、憶測に過ぎない……。」
「いえ、それに……。」
あくびをしながら、神﨑はその場に来た。そんな姿が、なぜか許せない。天笠が胸ぐらをつかむ。
「何してたんだよ!!」
「犯人が分かった。離せ。」
「そういう問題じゃない!!」
「離せ。」
「なんで、俺と向き合ってくれないんだ。前みたいに、本心から笑えよ。」
涙ぐみ、天笠は言う。複雑そうに、神﨑は笑った。その姿を見て、天笠が手を離す。
その瞬間、神﨑は銃のトリガーをある男に向けた。