詩人の罠、神﨑の罠
「詩人さん。」
「ああ、すまない。少し、眠っていた。」
コーヒーを飲みほし、そのまま立ち上がったスーツを着た男は、詩人と呼ばれている。彼は、今まで表立った舞台には立たないようにしてきた、非戦闘員であった。そのため、補助役として、私が雇われることとなった。
「ですが、まさか、あなたが協力してくれるとは思いませんでしたよ。」
空になったコーヒーカップを回しながら、詩人は私に言う。
「いや、私が適任だったのでしょう。警察にも顔が利き、警察への宣戦布告をすることもできる。」
「まさに、あの方の思う通りに。」
「ああ、そうそう。実績を確認したいのですが。」
詩人からの問いかけに眉を細める。
「なるほど。あなたも風変わりな人だ。僕が、【人の会】の四柱だということくらいは、知ってるでしょう。」
あくびをしながら言う。暗殺業界では、名の知れた組織である【人の会】は、理不尽な社会を形成している人を殺すために存在していた。
スローガンの「人のために」。【人の会】には、柱といわれる幹部四人が、トップの意思を聞いて、実行している。あくまで、自分たちが正しいという理論を、詩人は理解できなかった。だが、協力者としてはふさわしい存在だろう。
「で、次のターゲットはこの男だ。」
指さされた写真に写るのは、優しそうな風貌の高校生。
「また、高校2年の男を。」
「ああ、あの事件を再現しないとダメだ。私の作ったホームページは、徐々にPVが伸びている。これから、有名になっていくだろう。」
「なあに、心配そうな顔をするな、四柱の1人よ。」
「ええ、そういえば、1つ気になることがありまして。」
暗い深夜の会合を、誰も疑いはしないだろう。いや、気づきもしない。だが、彼には報告しておかなければ。
「神﨑と名乗る男が来まして。Rという名を冠しているそうです。あの、天才が来たのかも……。」
「なあに、【狩人】、【おどけたピエロ】、【トランプの魔術師】。彼らは、嵌められただけ。俺が嵌められることはない。現に、柱という餌で釣れそうなんだから。」
悪趣味な人だとは思うが、彼の言葉には信頼性がある。元詐欺師という情報だけは知っていたからだ。でも、顔も声も誰も見たことがないのに、どうして俺に見せたのか?少し疑問に思いながらも、まあいいと思って、今日は解散となった。