初めての殺し。
高校2年の冬、僕は人を殺した。初めてだった。
寒い冬の午後だった。毛糸で編んだ手袋がほつれて、彼の胸には包丁がささっている。制服についた返り血は、きれいな赤色をしている。
「どうして。」
涙ながらに聞いてくる彼に、心が動かされる。彼と僕は親友だった。まぎれもない親友だった。お互いの考えることは手に取るように分かるほどの。
「僕は、知らなかったんだ。」
「何を。」
彼は精一杯の声をふりしぼる。口から、つばと一緒に血が出てくる。
「人にはね、あらがえない欲望がある。それは、人それぞれ個人差はある。でも、僕はその欲望が人には理解されないものだったんだ。」
もう声も出ないようだ。肺からの呼吸音があらわになる。友人の僕を見る目は、恐怖に染まった暗い灰色だった。
「さようなら。」
月明かりと街灯がまぶしい冬の午後、僕は人を殺した。
「さてと、話題になるといいなあ。」
にやりと笑う彼の姿には以前の面影はない。アスファルトに染み込んだ赤いアイシテルの文字が、異色を放っている。
制服を捨て、乗り込んだトラックで一服する。これが、ただの序章に過ぎないことも、天才の登場で状況が一転してしてしまうことも、今は分かるはずもない。
粉雪がしとしと死体をぬらす。数分後、警察のファンファーレが聞こえた時には、彼はもういなかった。