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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛を嚥下

作者: 硝子町 玻璃

「今日はココアが飲みたい」

「今日はカフェラテにしてくれ」

「今日はコーヒーに砂糖を多めに入れて欲しいんだけど」


 朝食のコーヒーを用意するのは僕の役目だ。最初はあの子が淹れる! と譲らなかったのだけれど、何度トライしても泥水にしかならなかったから僕の係になった。気持ちは嬉しいけど、僕だって美味しいコーヒーを飲んで朝を過ごしたい。

 で、話を戻す。あの子はいつも砂糖もミルクもなしの苦いブラックを好むのに、たまーにココアとかカフェラテとか甘いものを欲しがる。僕は甘いのが大好きでいつもココアパウダーとか牛乳を用意しているから困ることはないけど。

 でも、ほんとにたまにしか飲みたがらない。それもいつも寒い時期だったりする。仕事で疲れて糖分を求めているんだなって思った時もあったけど、年末の繁忙期の時に強請られることはなかった。

 大体二月くらいだったかな。


「あれ、もしかしてバレンタインのチョコ代わりってこと?」


 ココアパウダーに少量の牛乳と蜂蜜を混ぜて、マグカップの底でねりねりと混ぜる。こうやった後にホットミルクを入れるのが僕の好きなココアの作り方だった。甘くて美味しいんですよと教えてくれたのは、職場の女の子だった。僕と仲が良くて、皆からは密かに付き合っているんじゃないかって噂になっていた。

 僕には年下の恋人がいるから違うよと言ったら、何故かその子は涙目で僕を見て、それ以来私語がなくなった。変なの。

 よく分からない彼女から教わったレシピは今も活躍している。今朝も「先輩のココアが飲みたい」と言われたから二人分用意していた。

 ふとカレンダーを見たら、2月の14日だったからあまり深く考えずに聞いてみたのだ。


 そしたら、今にも死にそうな顔をされた。


「え? 僕そんなに変なの聞いた?」

「変じゃないけど……よく思い付いたなって」

「そう?」

「けど、先輩十年間ずっと気付かなかったから、この先もこの手が使えるって思ってた」

「この先って……いつまでするつもりだったのさ」

「先輩が俺を捨てるまで」


 別れるまで、じゃなくて僕が捨てるまでって言い方がちょっと愛が重いなぁと感じる。チョコの代わりに甘い飲み物を強請って、こっそり喜んでいたのかと思うと流石に僕だって罪悪感を抱いてしまう。

 この子って社内で一番モテるらしいのに、そんなモテ男に僕は砂糖を入れまくったコーヒーでハッピーバレンタインを済ませていた。多方面から怒られそう。


「素直にチョコを欲しがればよかったのに」

「先輩チョコ嫌いだろ」

「うん。嫌い」


 ココアもカフェラテも好きだけど、チョコは嫌い。だって口の中でドロドロして気持ち悪いし。だからバレンタインとかも全然興味がなかった。


「バレンタインだからってチョコ嫌いの恋人からチョコを強請るのは、男として格好悪くないか?」

「そういうもの? 十年も一緒に住んでるんだから格好悪いところもいっぱい見たいと思うんだけどな」


 そう言いながらマグカップに温めたミルクを注いでいく。ちらっと彼を見ると、口をもごもごさせながらテレビのニュースを見ていた。目尻がうっすらと赤くなっている。

 バレンタインに興味はないのは本当だけど、この子がチョコを欲しいと言ったら買いに行くつもりだった。コンビニとかじゃなくて、デパートに行って高いのとか。だって恋人だし。好きな子に美味しいチョコを食べさせてあげたいし。


「来年はちゃんと……」

「あ、何千円もするチョコはパス!」

「高いチョコアレルギーってやつかな?」

「そうじゃなくて、俺は先輩がこうして何か作ってくれる方が好きだよ。それに俺そんなに甘いもん好きじゃないから、高いチョコなんて勿体ないだろ」


 財布に優しい恋人だなって感心する。けれど、僕もデパ地下の高いお惣菜とかよりこの子が作る焦げた野菜炒めの方が好きだから、その気持ちが分かる気がした。



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