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「はぁっ、はあっ………っはぁ」
限界まで早まった呼吸を無理やり正し、咳き込む人影がひとつ。
鉄くさい顔を手首で拭い、満身創痍の体をゆっくりと前進させる。
「なんで私が…こんな、コフッ、こと、」
この街はどこもかしこも鉄くさい。鉄とオイルで包まれた、元の世界とは120度くらい違う。残りの60度は、生活という文化はあるように見えるからである。
「生きなきゃ…やらなきゃ、やられる…」
自身に向けた激励の言葉は、いつしか暗示に化けていく。
電子化された地図を頼りに、"ナンバリング:4番"と名付けられた彼女はただ進んでいく。
4番は他の"ナンバリング"と合流した。
高身長の女は8番と名乗った。
8番は隣の区画の"フォックス"を他のナンバリングと協力して全滅させている。
4番は今のところナンバリングと合流したのが初めてであり、フォックスは4体しか壊せていない。その鉄で覆われたような硬化した全身に赤く光る目はいつかのアンドロイド・ロボットを連想させる。
フォックスはナンバリングを殺す。
殺されないためには、壊すしかない現実。
ナンバリングに生き残る道はそれしかないことを、この世界は知っている。
8番はフォックスを見つけると数回の攻撃で壊してしまう。ろくに戦い方を知らない4番に8番は呆れた。4番に使い物になる程度まで情報を与え、実績を積ませた。
後日、4番と8番はナンバリングと合流。
12番と7番が加わり、その区画の制圧を開始した。
何日経過したか、もう覚えていない。
他のナンバリング達はどのくらいフォックスを壊せただろうか。
戦力としては一番心許ない4番は、住宅街の制圧を行った。
一度騒がれると連鎖するため、なるべく早く制圧しなくてはいけない。
運が悪ければ、待ち伏せされて殺される。
いや、殺される。
どうにかして殺される前に壊さなくてはならない。
4番はまた自身に暗示をかけ、一軒一軒丁寧にフォックスを壊した。
ちいさなフォックスは、4番を見ても動かなかった。
窓辺に佇むフォックスは、錆びついたような動きで逃げようとした。
それでも家のどこかから、活動的なフォックスが4番を殺しにきた。
何軒も何回も壊した。
なにを私達のような生活をしやがって、と4番の口から漏れ出した。
元々は私達の世界だったはずなのに、よくのうのうと生きていられるな。
言いたい放題漏らした後、4番は膝から崩れ落ちた。
生きている?
フォックスが?
文化的なルーティンを行っているだけの鉄屑じゃないか。
私達をナンバリングできるくらいまで減らしたくせに、その上生きていると?
4番の抱えた違和感は徐々に嫌悪へ昇華した。
壊さなくては。この罰当たりな世界を、私達がまた新たに文化を紡げる美しい世界に戻さなくては。
この同じ嫌悪を抱えた13体のナンバリングによって、フォックスの個体数は1/5まで減少した。
ナンバリングは今日も踊る。
この世界を一刻も早く壊してしまうために。
この世界の侵略を止めるために。
この話のタイトルは「こつこつ侵略」です。