魔と神
「あら、こんにちは。素敵なお嬢さん」
『不思議ね。とってもきれいな女性が目の前にいるわ』
「ふふ。ありがとう。何をしているの?」
『さあ、私は何もしていないわ。』
「あなたってたくさん苦労をしてきたのね。私が力を貸しましょうか?」
『ありがとう。でもいいの。私はこのままでいいの』
「このままってあなた、危ないわよ?」
『ええ。仕方がないわ。それが人間だもの。』
「ふぅん。でも私、なんだか気分が悪いわ。こんなに愛らしい仔が苦しんでいるんですもの。」
『ごめんなさい。』
「あなたが謝ることではないわ。だってこれはあなたのせいではないもの。」
『…私は、どうすればよかったのかしら』
「聞かせて、あなたが最期に思うこと」
『人々の傍に寄り添っていたはずなの』
『沢山町の人も助けたわ。結婚を持ちかけられたりもした。私はここでの生活が楽しかったの。』
『でもいつからか、人々は私を避けるようになったわ。そして今に至るの。突然でしょう?私もそう思うわ』
「得体の知れない存在が許せないのね。人間ってそういうものよ。」
『あなたもそうなの?』
「さぁて、そうかしら。あなたが生きたいと願ったら、その時に教えてあげるわ。」
『死にたいわけじゃないの。ただ私…わからないの』
「死ぬわよ。」
『そう…。』
「ねえ、あなたってやっぱり可愛らしいわ。死ぬのが勿体ないわよ。」
『そんなに褒められるのはいつぶりかしら。前までは嬉しかったけど、今はそんなに喜べないわ。こんな醜い姿をしているんですもの。』
「あなたは自分を醜いと思うの?私が助ければ、醜いと思うこともなくなるわ。」
『どうしても私を助けようとしてくれるのね。』
「そりゃあ、人の住まいに何度も飛び込んでこられたらちょっと迷惑よねえ。」
『そうよね、ごめんなさい。でも私は彼らを裏切りたくない。このまま死ぬべきなんだわ。』
「あなたが裏切ったって誰も悲しんだりゃしないわよ。あなたはただ排除されて終わり。」
『あなたは、人間はお好き?』
「ええ!とっても好きよ。若い仔はもっと好き。あなたは例外。」
『私は、人間を愛していいのか解らなくなってきたわ』
「長くなってきたわね」
『そうね、私もそろそろ限界みたい。』
「どうするの?私の力が必要?」
『あなたはそうやって何人の女性を誘ってきたの?』
「あなただけよ。」
『私だけなのね。彼女たちは苦しんでた?』
「ええ。水ってね、とても声が響くの。どうしてここが選ばれたのか、私さっぱりわからないのだけれど」
『そう…私、もう少し生きたくなったわ』
「頑なに断っていたのに、どうしたの?…うふふ、復讐したくなった?」
『いえ、彼女たちを救いたいと思ったの。これからくる子たちも、今までここに来た子たちも』
「あなたって優しいのね。天使みたい。」
『そしたら、私を助けてくれるあなたは神様ね』
「うふふふ」
「さ、おいで。私の可愛い妖精さん。」
この社会現象は、本物だけでなく、「自分が疑われないよう別の人間を差し出す」といった非道な行為も行われていました。
裁判を受けた女性は斬首、火炙り、絞首、水責めなどで主に処刑されました。それらはいつしか裁判を介さず、自首を強要した、拷問といった形に変化していったのです。