つまらない話ー岩の魔女と弟子ー
先日完結した「つまらない話」のスピンオフです。
「先生!」
『落ち着きなさい。手紙を見せてご覧』
僕がどれだけ大変なことをお伝えしようとしても、先生はいつも落ち着き払って僕を諌めてくれる。
『軍が来るようだね。調査…一体何をしようとしているのかねえ。』
「先生にもわからないことでしょうか?」
『そうだね。お前さんの考えていることくらいは想像できるけれど、あいにく私は岩の魔女。先見の魔女はとっくの昔に逝ってしまったからねえ。』
軍が僕らの協力を仰いでいる。しかも目的地は僕等がいる場所よりもっと遠い、僕だって何度も行ったことがない竜族の唯一の生活圏。
「良いのですか?知らない人間を連れて行って…」
『今回は訳有のようだね』
「ワケアリですか?」
”竜族の合成獣を返還”
「…先生、合成獣とは?」
『そうだね。一通り片付いたら説明しようか』
それから1週間後、軍の数人と僕と年端も変わらない男の子と女の子がやってきた。
平静を装って、僕は接した。男の子は良いやつだ。なんの能力も持ち合わせちゃいないけれど。
女の子はわからない。何を考えているのか、尻尾がある理由もわからない。多分この子が合成獣だと思う。
僕らは仲良くなったが、帰り道に女の子の姿はなかった。
男の子と一緒に旅をしてきたのに、こんな果ての地でお別れをするなんて。
僕らがいなかったら、果ての地まで足を運ぶこともできないのに。
調査隊から離れて、僕は先生に尋ねた。
「只今戻りました」
『ああ、ご苦労さま。今日は私がお茶を入れてあげようね』
「…先生、あの男の子は大丈夫でしょうか?」
『そうだねえ。お前さんも分かるようになったかい。』
「あの子はぼろぼろでした…」
そりゃあそうだ。だって僕と同じくらいの年齢で、軍に保護されているとはいえ安心できた環境じゃないだろうに。
『でもね。あの子はこの国を変えるよ。』
先生がいつもより厳かな声で僕に言った。
「でも先生、先見の魔女は」
『ハハハハ、私の直感だよ。』
「…」
大きな翼が風を切る音がした。