つまらない話ー細工の魔女ー
先日完結した「つまらない話」のスピンオフです。
あんなにお嬢様が楽しそうにしているのを見るのはいつぶりだっただろうか。
『ねえ!あの二人、元気かしら?』
「ええ、きっとお元気ですよ。」
『今どのへんかしら?』
「海を超えている頃でしょうね。」
『ふふっ、怪我とかしてないかなあ?』
「大丈夫ですよ、あのお二人なら」
『そうね。…次に会えるのはいつかしら』
「まだ片道ですから」
小さな二人組が館を訪れて十数日というのに、お嬢様はいつもこの調子だ。
カラン、と館の扉が開く音がした。
『お客様かしら!』
「あれはメイドでございます」
メイドなんていない。この館にはお嬢様と私の二人しかいない。今帰ってきたのは買い出しに行っていた私の傀儡。
『うーん…わたしもどこかに出歩いてみようかな?』
「…そうですね。たまには陽の光を浴びましょう」
お嬢様は目が見えないぶん、耳が良い。傀儡が庭の手入れをしていてもハサミの音をしっかり聞き分ける。
『庭師さん、ご苦労さま!…』
話しかけはするが、返事はない。傀儡なんだから。
『…どれだけ話しかけても返事してくれないのね』
「話さない契約ですので」
『今の主人はわたしよ?更新しなくっちゃ』
まずい。傀儡に声帯機能なんて着けられるだろうか。
「お嬢様、このへんでお休みください」
『ええ、ここはちょうど温かいわね』
庭に置かれた古い寝椅子にお嬢様を横たえ、傍に控える。
『ねえ』
「はい」
『なんだか寂しいね』
「お嬢様は寂しがり屋ですね」
『楽しかったんだもの。』
「大丈夫ですよ。あの二人になにかあったときは私が一番最初にお知らせいたしますから」
私は細工の魔女。あの短刀に位置と少年の心境変動を取得する細工くらいは着けて渡している。
ある日、その少年の反応が急降下したことはまだお嬢様にお伝えできていない。