苔むした地蔵
「ここから飛び降りれば...」
下には私の身体をうち砕く岩肌が見える。
寄せる波が岩にぶつかり荒い水しぶきを立て豪快な音を立てる。
私は大きく息を吸い込んだ。
「怖くなんか、怖くなんかない」
自分にそう言い聞かせる。
私は崖の下をのぞいた。
すると岩のくぼみにある苔むした地蔵が目に入った。
「なんであんなところに」
私に気が付いた苔むした地蔵は穏やかな表情で私に語り掛ける。
私は心の赴くままに下に降りて地蔵のそばに座った。
苔むした地蔵は私に語り掛ける。
解けぬ永久の謎の投げかける。
「この海は穏やかだ。なのになぜ母と子の命を奪ったのか」
私は海に目を向ける。
とても穏やかだった。
波はきらきらと太陽の光を反射させる。
私は永遠に繰り返される波の動きを見て考えた。
しかし、いくら考えても答えは出てこなかった。
地蔵は私に問う。
「母と子はただ海が好きなだけだった。それなのに、なぜ海は牙をむいたのだ?」
いくら考えても
答えは出なかった。
気が付くと海は青から赤へと染まっていた。
太陽が水平線に沈もうとしている。
すると地蔵は「邪魔したね」と一言だけ言い
しゃべらなくなってしまった。
地蔵は今も人間を探している。