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第1話 始まり

荒れ果てた荒野。

漂う黒煙。

男が呪文を唱えると、辺り一帯に大魔法陣が現れた。


「いでよ、精霊王!」


夥しい光が辺りを包み、現れた光柱が雲を突き抜ける。

光はやがて人の形へと姿を変える。

だがそこに現れたのは、まだ幼さの残る少女の姿だった。


「……誰だ、お前。」


「あ、すみません。私、精霊王の孫、です。」


そう言って少女は立ちあがり、深々と頭を下げた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


我が家の顔面偏差値は、異常に高い。

元ハリウッドモデルの母とテレビやCMに引っ張りだこイケメン社長の父。

大学生である1番上の兄は父に似たインテリ眼鏡のイケメン。

2番目の兄は高校生で校内でも有名な爽やかイケメン。

一番下の弟は中学生で、母に似た美少女もとい美少年だ。

そんなサラブレッド家計に産まれた筈の私は、至って普通の顔面だ。

そんな私を可愛い可愛いと褒め称える兄や弟。

だが、私は身の程を知っている。


「行ってきます。」


いつもの朝、少し早めに家を出た私は分厚い眼鏡を押し上げて静かに登校をする。周りには同じく学校へ向かう学生達が歩いている。穏やかな朝だ。


(さくら)、」


ぽん、と頭に手を乗せられ頭上より聞こえた声の方を見上げると、2番目の兄、奏太(かなた)がこちらを爽やかな笑顔で見下ろしている。


「お兄ちゃんを置いて行くなんて酷いな、朝は何時も一緒に行く約束だろ?」


イケメンの笑顔の破壊力は半端じゃない。横を通り過ぎる他校の生徒達から悲鳴が聞こえる。けれど、流石に私はもう慣れている。


「約束なんてしてないし」

「そんなこと言って、お兄ちゃんが居ない時に危ない目にでも会ったらどうするんだ?桜は可愛いから、心配だよ。」


優しく頭を撫でながら少し困ったように笑う奏太。花びらが舞ったように見えたが幻覚だろう。周りの女子生徒が頬を染めて立ち尽くしている。

私はげんなりした様子でまた歩き出した。


「…わかったよ、一緒に行けばいいんでしょ?」

「素直じゃないな、桜は。そんな所も可愛いよ。」

「おい、桜、奏太」


ふと、車道の方から声がかかり目をやると、高級者に乗った1番上の兄、颯人(はやと)が窓から顔を出し手を振っている。


「お前達、弁当忘れてるぞ。」

「あ、ごめんお兄ちゃん。あれ、今日はスーツなの?」

「あぁ、今日は予定があってな。ん、桜、顔に何か付いてる。」


言いながら颯人は窓から手を伸ばし私の頬に手を添えて顔を覗き込む。どこからともなく花びらと風が舞ったように見えたがこれもまた気のせいだろう。

色気やばいやばい、と後ろの方から女子生徒の悲鳴が聞こえた。


「…よし、取れたよ。桜、学校頑張れよ。これ弁当な。」

「うん、ありがとう。」


颯爽と走り去った颯太を見送ると、今度は後ろから強い衝撃を受けた。腰にがっしりと回された腕とちらりと見えたフワフワの金髪に、私はやっぱり来たかと小さくため息をつく。


「蓮、学校反対方向でしょ?何やってんの。」

「だって、姉ちゃんに行ってきますってまだ言ってないもん。」

「…わざわざそんな事のために走ってきたの?」


呆れたような私の声に、一番下の弟、(れん)は目を潤ませながら首を傾げて言った。


「…そんな事じゃないもん、大事な事だもん。…ダメなの?」


また、数名の女子生徒が雷を撃たれたように膝をついて崩れた。ショタやばい美少年やばい、と呟く声が聞こえる


「ダメじゃないけど、学校遅れたら困るでしょ?もう行きなよ、遅刻するよ。」

「うん!行ってきます!姉ちゃんだーいすき!」


満面の笑みで手を振りながら走り去った蓮に手を振り返し、私はまた分厚い眼鏡を持ち上げた。

顔面偏差値が高すぎる一家に産まれて数年。兄や弟達の溺愛ぶりは私が幼稚園の頃から既に始まっていた。その頃から既にイケメンオーラを放っていた兄弟達に囲まれて、至って普通の私はその対応に疲れ果てていた。周りからは羨ましがられる事もあれば妬まれることもあり、以前一度、彼等のファンクラブ達から痛い目に合わされそうになって以来、私に対する過保護が過激化してしまった。


「そう言えば今日、じーさんが大事な話があるとか言ってたな。」

「話?何だろう。今日は友達と約束があるんだけど。」

「何言ってんだよ、今日は桜の誕生日だろ。真っ直ぐ帰るぞ。」

「………帰りも一緒なの?」

「当たり前だ。」


そう、今日は私の16歳の誕生日だ。

今年も兄や弟達がお祝いしてくれるのだろう。

これから先もずっと、そう、思っていた。

その時までは。



家に帰ると、リビングでおじいちゃんが待っていた。

帰りついて早々に、おじいちゃんが口を開く。


「今日は大事な話がある。ワシは、精霊王をしているのだがそろそろ限界でな。お前達の中の誰かに跡を継いでもらおうと思っている。」


「……は?」


「ワシは、桜、お前が適任だと思っているよ。」


おじいちゃん、…おじいちゃん!!遂にボケたかおじいちゃん。

突然何を言い出すかと思えば余りにぶっ飛んだ話で顔が引きつった。


「何言ってんだじーさん!桜にそんな危ない事させられるかよ!」


いやお前が何言ってんだ奏太。突っ込むところはそこじゃない。


突然部屋の中を眩い光が包んだ。

見たことも無い光の文字が並ぶ中、おじいちゃんが首を傾げる。


「早速呼び出しか、桜、試しに行ってきてくれ」


「は?何言ってんの?」


「ほれ」


おじいちゃんが私の背中に触れる。

そこから光が広がり、私の身体を包み込む。

そして、話は冒頭へと繋がった。


召喚した側もされた方も、しばし言葉を失う。


先に口を開いたのは召喚者だった。


「と、とりあえず、君、魔法は使えるんだよね?精霊王の孫なんだろ?」


「え、いや、無理です。」


「え、」


「え?」


あれ、これ、つんだ?

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