表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の世界  作者: Sal
99/172

【第九十九話】氷の軍勢 7

 『氷王』ユミルは、『氷の宮殿』へ帰還した。


「……さて。今戻ったぞ、汝等」


 その声で、ユミルの四副官がどこからともなく現れる。


「先に撤退してしまいました事、誠に申し訳ございません!!」


 ミンデルが声を張り上げる。


「……良い。汝は『人間』だ。この中で最も脆い。己の身体は大切にしておれ」


「何と勿体無きお言葉!!」


 忠実すぎるのも考え物である、とユミルは思った。


「陛下。どうすんですか? また近い内に攻めるんですか?」


 ギュンツが問う。


「いや……しばらくは、様子見だ。どうにも、あの学校の連中は手強い。道理であの閣下が手を焼く訳だ」


 『氷王』は玉座に腰掛ける。



「『陰』も裏切ったようだ。じっくり策を練ろう。余等が最も力を発揮出来る季節はまだまだだ」



「そうですわね」


「ヴ」











 『氷王』が退き、騒動が静まった後。


 高田 優は、ある人物へ電話していた。


「……あ、もしもし。お袋? ちょっと訊きたいことあるんだけど」


《何だ何だ珍しいな、お前から電話くれるなんて。ばれるのが嫌で、お前いつも余所のフリしてんのに》


「本題に入るぞ。お袋、『氷王』と会ったことあるのか?」


《あん? ユミルのことか。6年前にちょっと手合わせしたっけな。確か、お前も会ってるぞ?》


「………はぁ。そういうことね」


 盛大に溜め息を吐く。


《何だよその言い草。何かあったのか?》


「良いよ、別に。どうせ解るさ」


《おい、優――》


 優は電話を切った。


 『最強』の息子というのも、なかなか大変なものである。











「キミは……『吸血鬼ヴァンパイア』か」


「あら。あんたかしら? 『ダンピール』の『吸血鬼ヴァンパイアハンター』っていうのは」


 英語担当教師、ジェイク=ハウスラーとミラーカ=カルンスタインは、ついに邂逅かいこうした。


「……で、何? 見つけたから早速、ハンティングって訳?」


 特に興味無さそうに訊く。


「……いや、やめておこう。キミから感じ取れる魔力から判断するに、キミと戦うにはワタシは死線を越える必要が出てくるだろう。今のこんな状況で、そんな決心はつかない」


「意外ね。躊躇無く殺しに掛かってくると思ったのに」


「……What is more……キミは今回、ワタシ達に手を貸した。悪い奴では無さそうだ」


 ミラーカは、その言葉に目を丸くした。


「随分と甘いのね、『ダンピール』って。よくそんなので『吸血鬼ヴァンパイア』に挑む気になるわね」


「特例だ。ワタシは『吸血鬼ヴァンパイアハンター』である前に、ここの学校の教師だ。学校に攻め入る者は、敵。その敵と戦う者は、味方。それで充分だ」


 ジェイクはそう言った。


「個人的な因縁など、その後にすれば良い。とにかく、今回はキミに感謝しよう」


「……あっそ」


 とりあえず、まだ学校に居ることは出来ると思ったミラーカだった。
















 『氷王』の一件から数日後。


 壊れた校舎はほとんど修復が完了し、まるで何も無かったかのような雰囲気を醸し出していた。


 ……いや、実際は色々あったのだが。


「で、傷は大丈夫? 筧君」


「………問題無い」


 僕が訊くと、筧君は短くそう答えた。


 まぁ、あのフレディー君が治療したんだから、大丈夫なんだろう。というか、あの人のアレは治療と呼べるのか? 前にも同じことを疑問に思ったような。


「5」


「6」


「……7」


「ダウト」


「あー! 何で判んだよ!?」


 今は、この前とほぼ同じメンバーでトランプをしてたりする。


 つーか、トモダチ判りやすすぎ。


「えーと、次はぼくから……8」


 この前と違うところは、今日は南条君が参加しているということくらいだ。


「おい、南条。それダウト」


「魚正。イカサマするなッス。『聖装』をこんな時に使用するとは、とんだ罰当たりッス」


「つ、使ってねぇよ!」



 そんなこんなで、ゲームをしていると、誰かが後ろから近付いて来た。


 僕らはその人の方へ振り向く。


 そこには、数日前まで『陰』と呼ばれたあの人が居た。


「……どうしたんだ、不知火?」


 南条君が訊いた。


「――――」


 不知火さんは、俯いて黙っている。


 でも、何だろうな。


 それは、恥ずかしそうにしているように見えた。



「―――私も、入れてほしい」



 小さな声で、彼女はそう言った。


 南条君が嬉しそうな表情で、口を開く。


「……うん、良いよ」



 彼女は、僕らの輪に入った。






「……おい、秀。南条って、不知火のこと『噤』って呼んでなかったか?」


 トモダチが僕にだけ聞こえるように尋ねてきた。


 当然、こいつはあの出来事は知らないので、疑問に思った訳だ。


「……さぁね」


「おい、秀。その顔は何か知ってるって顔だぜ。一体、何なんだ?」


「苗字で呼ぶことが必ずしもよそよそしい訳じゃない、って話」


「は?」


 彼は、ちゃんと彼女の想いを解ってあげようとしている。


 今まで孤独だった彼女の想いを、今度は見逃さないように努力している。


 それがどれほど困難なことか、僕には分かるけど。


 僕は二人を見て、そう時間は掛からないと思った。


 いや―――



 もしかしたら、彼はもう彼女を見つけたのかも知れない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ